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法廷傍聴控え 警察官発砲関連事件1

昔、こんな事件がありました

 暴走行為中のバイクを見つけ、パトカーで追いかける警察官。バイクが止まり、運転していた少年はおりて立ちどまる。すると、少年に駆け寄った警察官が、左手で少年の胸ぐらをつかみ、右手に持った拳銃で、「死んでみるか」などと脅した。
 2000年5月6日、長野・下諏訪での出来事である。この少年の通報により、事件をしった警察は、この警察官を特別公務員暴行陵虐罪で逮捕する。長野地検松本支部は起訴猶予処分としたが、この間、警察官は懲戒免職処分を受ける。
 一方、暴走行為に悩まされている下諏訪の住民の間から、「処分は重すぎる」などとして、処分の軽減を求める大規模な署名運動が起こった。
 警察官の拳銃の使用については、さまざまな議論がある。神奈川では、次のような事件が発生した。
 地元紙の『神奈川新聞』(99年8月12日付)によると、8月11日午前0時ごろ、大和市内の電子部品販売会社の物流センター事務所に、「侵入しようとしている男がいる」と近所の住民から110番通報があった。
 大和署管内の近くの交番から、山本武巡査部長(26)が駆けつけ、男ともみあいになる。男は、バールの入った袋を激しく振り回して抵抗する。山本巡査部長は、拳銃を取り出し、上空と地面に向けて威嚇射撃を2発。
 男が逃走しようとしたため、さらに、1発を男の足に向けて撃ったところ、右太股に当たった。男は1カ月の重傷。山本巡査部長は頭やひざなどに1週間のけが。
 大和署の副署長は、「逮捕と抵抗防止のため、警告と威嚇射撃を行った上での拳銃使用で、適正な職務執行と判断している」とコメントしたという。

 99年10月20日、横浜地方裁判所の仮庁舎1階にある刑事103号法廷。被告が片足を引きずりながら、ゆっくり歩いて入廷する。紺色の上下のトレーナーのスタイル。短髪で、やや小柄だ。
 裁判官が、「足が悪いんですか、立っていられますか」と声をかける。被告は、「大丈夫です」と答えた。
 山本巡査部長に撃たれ、逮捕された男で、藤沢市に住む後藤浩一(50)で、仕事は内装業である。
 この日は初公判で、検察官が起訴状を朗読する。1件は、物流センターでの事件で、同センター1階の窓ガラスをバールで割って、11万8000円の損害を与えた器物損壊、山本巡査部長に抵抗し、全治5日間の傷害を与えたという公務執行妨害、傷害罪などである。もう1件は、99年7月、別の会社事務所から、現金、収入印紙、スニーカーなどを盗んだ窃盗罪などだ。
 後藤は、公務執行妨害に関して、「私が暴行を加えた事実はありません」と否認し、その他は認めた。
 公務執行妨害を否認するので、11月24日の第2回公判で、山本巡査部長が証言台に立った。背丈は170センチ以上はありそうなスリムな体型で、黄土色の背広を着ている。
 山本は、検察官の質問にはきはきと答える。
 110番通報で、現場に駆けつけた山本は、離れたところからようすをうかがうと、事務所の窓ガラスのところで、懐中電灯で照らし、工具で窓をいじっている後藤の姿を認めた。すると、後藤と目があった。

 ──目があって、被告はどうしましたか。
「逃げようとしました」

 後藤は、黒い手提げのついた布製のカバンを持って、逃げだした。それを、山本が追いかける。
 しばらく追いかけて、すぐに後藤に追いつく。警棒を持った右手で、後藤の右肩をつかんだが、ひじうちされ、警棒を落とす。後藤が振り向きながら、バールの入ったカバンを振り回してきた。左手で顔をかばう。
 さらに、逃走する後藤は、十数メートル先にあるブロック塀を乗り越えて、隣の敷地に倒れ込んだ。山本も乗り越えて追いかける。逃げる後藤にタックルをかけ、2人とも倒れた。

 ──そのとき、あなたの姿勢、格好は。
「犯人はうつぶせで、私はおおいかぶさりました。手は犯人の腰をつかまえていました」
 ──被告はどうしましたか。
「バッグを振り回してきました」
 ──振り回したとは。
「肩ごしに体の向きはかえないで」
 ──カバンを打ちあてようとしたのですか。
「はい」
 ──何回ぐらいですか。
「10回ぐらいです」
 ──カバンは、どこに何回当たりましたか。
「右側頭部に3、4回、腕に1、2回です」
 ──ヘルメットは、かぶっていましたか。
「ヘルメットに当たりました」
 ──そのときの音はどうでしたか。
「ゴンという低い音がしました」
 ──カバンの中には、固い金属製のものが入っているが、バールと思っていましたか。
「はい」

 証拠として提出されたヘルメットには、円形のへこみが3個ぐらいある。これが、カバンが当たった痕跡だ。バールも法廷で出されたが、約30センチぐらいの長さがある。布製のカバンは、ちょうど、このバールを横にして入るぐらいの大きさだった。

 ──カバンがヘルメットに当たって、ヘルメットはどうなりましたか。
「後ろのほうにずれていきました」
 ──それとともに、頭の露出は。
「顔面の露出が大きくなっていきました」
 ──その後、あなたはどうしましたか。
「手をゆるめました」

 すると、後藤は、立ち上がり、再び走って逃げていく。山本は、建造物侵入、公務執行妨害で逮捕しようと考えながら追いかけた。しばらくして追いつくと、再度後ろからタックルをかけて、後藤を倒す。

 ──その姿勢は。
「お互いにうつぶせです」
 ──そのとき、被告の持ち物はどうでしたか。
「バッグは持っていません」
 ──落としたか捨てたと思いましたか。
「はい」
 ──その後、被告は、何をしましたか。
「ひじうちをしてきました」
 ──すぐにひじうちをしましたか。
「逮捕するため、腕をとろうとしたら、ひじうちをしてきました」
 ──被告が倒れたあと、向き直ったことはありますか。
「私が上、被告が下で向き合ったとき、下からひじうちしてきました」

 その場所で、上になったり、下になったりしてもみあった。後藤は、ひじうちを繰り返し、山本の頭部に5、6回当たった。

 ──ヘルメットは、ひじうちのさいに、かぶっていましたか。
「何発か当たるうちに、私のすぐ横に落ちました」
 ──ヘルメットが脱げた後、頭にひじうちは当たりましたか。
「2、3発当たりました」

 その後、後藤がうつぶせになり、山本がおおいかぶさった。山本は、後藤の右ひじを背中のほうに回して、手錠をかけようとした。ところが、後藤が右のほうに体を回転したので、手錠を落とす。後藤は、またまた立ち上がって逃走する。山本も追いかける。

 ──あなたは、警棒、手錠もなくしましたが、被告が何かもっていると考えましたか。
「何か工具を見ているので、まだ持っていると思いました」
 ──当初、持っていた工具のほかの金属類を持っているかもしれないと思ったのですか。
「はい」
 ──被告は、逃げていく。どうして逮捕しようと思ったのですか。
「警棒も手錠もなく、拳銃の使用を考えました」
 ──その根拠は。
「警職法第7条、拳銃取扱規則第7条です」

(2021年11月3日まとめ・人名は仮名)


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