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法廷傍聴控え 警察官発砲・韓国大盗事件5
伊藤、藤本証言とまったく違う。ナイフで突きかかってもいないというのだ。
弁護人 長谷川方の2階の窓から侵入し、腕時計4個、携帯ラジオ2個を盗んだことは。
崔 間違いありません。
弁護人 盗みは悪いと反省し、やっていないことをやったと裁判にかけられるのは納得いかないということですか。
崔 はい。
10月11日の公判は、検察官が被告人質問を行う前に、弁護側の情状証人が出廷した。韓国からやってきた被告の妻である。年齢は崔よりもかなり若く見える。小柄な体に、紺色の上着、紺色のズボン、茶色がかった長い髪。右手を挙げながら、真実を述べると宣誓書を韓国語で読み上げる。証言の要旨は次のようなことであった。
1999年6月16日、崔と結婚し、こどもが1人いる。崔と最初に会ったのは、99年3月末である。
主任弁護人 どこで会いましたか。
妻 当時、自動車部品(バックミラー)の特許を持っていて、全国に5カ所の支店を持っていました。支店回りをしていたとき、ソウルに行く途中、高速道路の休憩所で会いました。「何をしているのか」と声をかけられました。
主任弁護人 従業員は何人いましたか。
妻 約40人です。
主任弁護人 被告は何か頼み事をしましたか。
妻 彼は(刑務所からの)出所者たちの支援活動をしていて、彼らを雇ってくれないかといいました。
崔も、98年11月、刑務所から出所したばかりであった。この出会いの後、2人は結婚する。
主任弁護人 あなたと結婚後、被告はどういう仕事をしていましたか。
妻 教会では宣教活動し、大学でも講演をしたり、その報酬を社会に寄附していました。また、韓国の財閥系の警備会社の理事もしていました。
主任弁護人 あなたが経営していたバックミラーの工場は、結婚後、どうなりましたか。
妻 去年、こどもを出産したのを機会に、別の人に引き渡しました。現在、別の仕事をやっています。
主任弁護人 こどもの名前は、フィリップ。韓国では珍しい名前ですが、その由来は何ですか。
妻 夫は信仰の道を歩み、聖書の聖人の名前をとってつけました。
主任弁護人 被告は、日本でも宣教活動に何回か来たことがありますか。
妻 はい。
主任弁護人は、崔が講演に来るという大阪の教会のポスターを示す。
主任弁護人 あなたの現在の職業は。
妻 食堂を2カ所経営しています。
主任弁護人 夫がこうなって、いずれ、韓国に帰ってきたら、どのような生活をする予定ですか。
妻 バックミラーの仕事の前には、衣料生産に携わっていました。ノウハウがたくさんあります。帰ってきたら、衣料事業をやりたいと思います。
主任弁護人 警備会社の関係者は、再度、協力してくれますか。
妻 はい。韓国に戻ってきたら、採用すると約束してくれています。
主任弁護人 二度と日本に来させないように監督できますか。
妻 自信があります。
主任弁護人 あなたは、被害者に手紙を出していますが、弁償する気持ちもあると伝えていますか。
妻 はい。
検察官も今後の生活設計などを尋ねる。
検察官 衣類の仕事は、具体的にどんなことを考えていますか。
妻 下着か洋服など、縫製して製品をつくることです。
検察官 それの事業資金は幾ら必要で、いま、手元にありますか。
妻 持っています。
検察官 幾らぐらいかかりますか。
妻 約3億ウォン(約3000万円)です。
検察官 手元にありますか。
妻 はい、あります。
検察官 これまでのあなたの事業の蓄えですか。
妻 はい。
検察官 被告は、なぜ、日本で泥棒したのですか。
妻 私にはわかりません。いまでも信じられません。
検察官 手紙に対する被害者からの返答は、弁護士を通じて聞いていますか。
妻 何の返答もありません。
妻の証言は、15分ぐらいで終了した。続いて、妻が傍聴席の最前列で下を向きながら聞き入る中で、検察官の被告人質問が行われた。弁護側の被告人質問では饒舌で声高に話していた崔だが、今回はトーンが落ちている。
検察官 あなたは、日本でなぜ泥棒をしようと思ったのですか。
崔 私自身も振り返ってみましたが、なぜしたのか、私自身、理解に苦しんでおります。
検察官 盗んだ品物をどうするつもりだったのですか。
崔 一番最初、警察に捕まったとき、身分を偽っていました。泥棒目的で日本に来たものではなく、ほんとに恥ずかしく思っています。
検察官 長谷川さんのところで盗んだ品物をどうするつもりだったのですか。
崔 私は家に入って、泥棒するため、物色したことはありません。盗んだ時計も金にかえるつもりはありませんでした。なぜ、それをしたのかと理解に苦しんでいます。
検察官 何のために、泥棒に入ったのかわからないというのですか。
崔 それは違います。別の目的がありましたが、いっても理解できないと思うので、この場では、金品を盗みに入ったというので処罰を受けたいと思います。
検察官 別の理由とは何か、簡単に。
崔 この場で申し上げるのは、ちょっと心苦しい。ただ、窃盗を働いたと思ってください。
検察官 なぜ、いいにくいのか、その理由は。
崔 犯罪とまったく関係ありません。調書を見るとわかります。最初、身分は、密航で日本に来て、浮浪者と偽っていました。身分を偽るのは相当不利なのにかかわらず、偽っていました。それが理由です。
検察官 身分を偽らなければならない理由とは何ですか。
崔 警察で、私はずっと偽ったが、結局、あとで、身分を認めていますが、その理由を察してください。
逮捕に関する警察発表を受けて、新聞各紙は、11月25日朝刊で、「住所不定、無職、自称韓国人の高陽彬容疑者(56歳)」と書いていた。
検察官 警察に撃たれて、弾はどこに当たったのですか。
崔 唇の中から入って、顎の下を貫き、肩に入りました。
検察官 右肩に当たったのですか。
崔 はい。
検察官 当たった瞬間の感じは。
崔 私の後ろから警察が撃ったので、口から顎を貫いたことは、私は4日後に初めて気づきました。
検察官 右肩に痛みを感じましたか。
崔 ほとんど感じませんでした。
検察官 ほとんど感じなかったのですか。
崔 痛みではなく、しびれというか、とても重い感じ。下に引っ張られるような。
検察官 撃たれた後、警察に何か抵抗しましたか。
崔 この法廷での警察の証言は、90%嘘です。銃撃された後、自首しますという意思を明らかにして、警察の前に近づいていきました。
検察官 それで、どうしたのですか。
崔 片手を挙げて、自首の意思を明らかにしました。警察に近づくと、警察は依然として、右手に拳銃を持ち、左手で肩をつかみました。
検察官 撃たれた後、腕は動かせる状態ですか。
崔 いまでも、ひじから下は自由ですが、関節は動きません。警察は、抵抗したといっていますが、それは医学的にも不可能です。
(2021年11月6日まとめ・人名は仮名)