
私にとっての『パイレーツ・オブ・カリビアン』の魅力
はーい、テツガク肯定です。
ネタバレが多々あります。
(1~4作目までの)
私にとって『パイレーツ・オブ・カリビアン』。
このシリーズの最大の魅力は。
登場人物の生き様です。
基本的にわかりやすく楽しめる。
勧善懲悪的な物語ですが。
少し考えると、勧善懲悪とは言い難い話です。
なんせ、海賊の話です。
海賊が勧めるべき善行?
あるいは、滅び行く悪行?
どれも違うと思えてきます。
遠い昔の話のようで、今にも確かにある。
そういう共通項を持った人達の生き様。
1作目、『呪われた海賊たち』の結末は。
キャプテン・ジャック・スパロウが。
裏切り者の一等航海士に渡された、一発の弾丸を。
しっかり、キッチリと真心を込めて返した。
主人公が悪を成敗した。
という目に見える事実より。
キャプテン・バルボッサの慈悲に対する。
とても慈悲深い、美しい意趣返し。
そういうキャプテン・ジャック・スパロウの生き様に感動しました。
もちろん、他の人物の生き様も素晴らしいです。
というわけで、私の独断と偏見で選ぶ。
9人と1神の生き様を。
(引用の台詞は吹き替え版の台詞です)
ジェームズ・ノリントン

というより、過ちを償うチャンスと呼びたいな
2作目の1時間47分頃
ノリントン提督はウィルさんと同じくらいいい人です。
……いえ、それ以上にいい人かもしれません。
1作目ではキャプテン・ジャック・スパロウを捕らえましたが。
二度もウィルさんによって解放され。
おまけに、エリザベスさんまでウィルさんに奪われる。
1作目の最後で。
逃げていくキャプテン・ジャック・スパロウに。
1日ぐらい猶予を与えてもよかろう

だなんて言える器の大きな提督。
ですから、2作目ではキッチリと仕事を果たして見せます。
デイヴィ・ジョーンズの心臓です

見事に大将、提督に戻ったノリントン提督ですが。
ベケット卿のやり方についていけない、と気づいた提督は。
エリザベスさんを逃がし、刺されます。
私達の運命は常に絡み合っていた
重なることなく

本当に素晴らしい人でした。
カトラー・ベケット

取引でだ
2作目の10分頃
2作目で登場したベケット卿。
私が思うに、彼は資本主義の化身のような人で。
実は、海賊達と似た共通項を持っている野心家。
公共の利益を守るため
そう前置きして。
カトラー・ベケット卿がイギリス国王の代理人として発令したもの。
集会の自由権の停止
人身保護法の停止
弁護を求める権利の停止
陪審員評決を求める権利の停止
また法の定める海賊行為で有罪判決を受けた者
その共犯と見なされた者
さらになんらかの関係を持った者は――
すべて絞首刑に処す(3作目の序盤)

全ては利益のため
そのためならなんでもする。
迷うこともなく、ためらうこともなく。
力ではなく取引で奪え、情けは無用、海賊のような資本主義です。
取引相手の数も凄いです。
ウィルさん、エリザベスさん、、エリザベスさんのお父さん。
ノリントン提督、デイヴィ・ジョーンズ、キャプテン・ジャック・スパロウ……。
悪霊や海賊とも取引ができる。
暴力こそ使いませんが、利益のための取引で。
ベケット卿は売る気のないモノすら奪い取っていきます。

ですが、ちゃんと条件は律儀に守ります。
キャプテン・ジャック・スパロウとの取引の条件。
デイヴィ・ジョーンズに彼を引き渡さない。
それは守りました……が、違う経緯で彼の帰還が。
デイヴィ・ジョーンズに知られ、結果的に彼は捕まりますが。
ベケット卿の最期。
滅び行くはずの自由、海賊達の砲火を前にしても。
全ては利益のため

悠然と船と共に沈んだ、カトラー・ベケット卿。
その最期は美しい生き様でした。
もしかしたら、近い日に資本主義って泥船も沈む日が……。

ウィル・ターナー

報われる1日にする
3作目の2時間30分頃
1作目では鍛冶屋のウィルさんでしたが。
彼の運命が海賊と引き合わせます。
さらわれたエリザベスさんを助けるために行動する。
その勇敢さは映画の中でもトップクラスの精神力です。
ノリントン提督が海軍の力で助けようとするのに対し。
ウィルさんは自分の力で助けようとします。
真似したくても、真似できるものではありません。

2作目でも自分一人でキャプテン・ジャック・スパロウを探し出したり。
単身で敵のもとへ乗り込んでいける、その勇敢さ。
それから冷静な駆け引きもできる賢明さ。
そして、父親に対する想い。
基本的に性格がいいので。
とんでもない才覚を発揮できる気がします。
個人的にウィルさんの勇敢さというのは。
誰だって最初は持っている気がしますが。
永いこと、この場にいるとそれを見失って。
言い訳ばかりで、気がつけば壁の一部になっている。

一歩踏み出したくても、過る言い訳って誘惑に負けて。
何もできないまま、そんな自分を正当化するしかなくなる。
ですから、そうなる前に故郷へ帰りたいものです。
報われる日にしたい。
1日とは言わず、永遠に。
エリザベス・スワン

パーレイ!
1作目、34分頃
突然、現れた海賊にパーレイと言い。
海賊にも知らない人がいる掟を語る、その聡明さ。
動揺しながらも冷静に行動できる強さ。

1作目で初対面のキャプテン・バルボッサを。
手玉に取るような交渉術、とんでもない女性です。
3作目では海賊長を束ねる海賊王になるほどです。

男性を見抜く目は、ずば抜けています。
ウィルさんもノリントン提督も。
かなり素晴らしい男性です。
もちろん、キャプテン・ジャック・スパロウも。
式を挙げてくれたキャプテン・バルボッサも。
エリザベスさんが素晴らしいから。
素晴らしい男性が集まるのか。
素晴らしい男性を見抜けるから。
エリザベスさんは素晴らしいのか。
デイヴィ・ジョーンズと女神カリプソ

俺の心はお前のモノになる
3作目、1時間41分頃
今の私にはこの二人は。
ウィルさんとエリザベスさんにとって。
とても大切な存在だったと思っています。
この二人は別の可能性のウィルさんとエリザベスさん。
そう思えてくるからです。
2作目でノリントン提督に。
疑心を吹き込まれたエリザベスさん。
ジャック・スパロウは信用ならない、そう思えてきて。
ウィルさんに嘘を言い、ジャック・スパロウを置き去りにした。

その疑心が、3作目ではウィルさんにも伝染してしまった。
経緯や内容は違っても、お互いを信じられなくなった二人の未来が。
デイヴィ・ジョーンズとカリプソ、二人の関係性に似ています。

ウィルさんとエリザベスさんは、それを乗り越えましたが。
それを乗り越えられなかった二人が、デイヴィ・ジョーンズとカリプソ。

だけど、この二人も。
本当はお互いを想い、信じている。
ただ、それを認めて、許すのがこわいだけで――。

死ぬのがこわいんじゃない。
認めて許すのがこわいのだ。
お互いに。

だなんて、愚かにも思っています。
ヘクター・バルボッサ

カモメが素作りする声だけだ
4作目、1時間10分頃
1作目から登場するキャプテン・バルボッサ。
私がこのシリーズで一番好きな人物です。
冷酷ながら品がある。
むしろ、品があるから冷酷なのか。
1作目でエリザベスさんに呪いの話をしますが。
昔の自分同様に信じないとわかると。
そのゲンジツを自ら暴いてみせました。
呪いの話を信じる気になったろう?
ミス・ターナー。
これは――ゲンジツだ

そして、エリザベスさんと死の島へ行き。
呪いを解く時には。
血によって始まり、血によって終わる
立派な演説をしながらも。
代償の血は幽かで、「これだけ?」と驚くエリザベスさんに。
無駄は省略

実に合理的な考えです。
2作目での驚きの復活、3作目でのさらなる活躍。
そして、今の私には4作目の主人公は。
キャプテン・バルボッサに思えます。
4作目、52分頃の演説。
人魚が住むホワイト・キャップ湾へ向かうと知り。
脅える英国海軍に向かってキャプテン・バルボッサは言います。
人間にできない真似をさせるつもりはない
だが、一つ訊かせてくれ
我々は王の部下か?
王の任務に就いているのか?
我々を追い越していった
スペイン人の目に恐怖の色はなかったぞ
みんな、王の部下じゃないのか?

そう英国海軍を鼓舞した20分後。
少し離れた場所で人魚に襲われる英国海軍。
そのゲンジツを前に。

海軍の偉い人
乗組員は?
キャプテン・バルボッサ
もうとっくに死んでいる
海軍の偉い人
生きてる声がします
キャプテン・バルボッサ
ああ、そうかね
俺には聞こえんぞ
カモメが素作りする声だけだ
何か聞こえるかね、グローブス君
海軍の偉い人
カモメの……巣作り
それだけです
相手が海賊でも海軍でも。
人を焚きつける帝王の魅力。
冷静に判断できる品格を持ちながらも。
時に無謀に思える冷酷さを忘れていない。
海軍の艦隊でも、不思議な力を操る黒ひげさんでも。
強大強力に思える相手には滅法強く。
だけど、キャプテン・ジャック・スパロウには。
ほんの少し先を越される。
東インド会社での懸賞金も1ギニー差らしいです。

黒ひげ、エドワード・ティーチと娘アンジェリカ

アンジェリカ――俺を助けてくれ
4作目、1時間59分
実は……私はこの映画の黒ひげさんは。
あまり印象には残りませんでした。
特に初めて観た頃は。
ですが、最近になって。
逆にこの生に対する執着心は。
素晴らしいもので。
黒ひげさんには、娘アンジェリカを失っても。
生きたい世界があった。
そして、娘アンジェリカさんにとっては。
死んでも助けたい父親であった。
そんな二人の関係性。
助けを求めた父親と助けようとした娘。
その二人の生き様が今では眩しく思えます。
それと……意外と臆病な黒ひげさんも悪くありません。
どんな予言者か知りませんが。
自分が追い詰め、義足にした男、キャプテン・バルボッサに殺される。
それも2週間以内に。
それを信じてしまうほどです。
信じて用心するのはけっこうなことです。感心します。
ですが、一度追い詰めた相手です。
もう一本も義足にしてあげよう、だなんて思ってもいいはずです。
……もしかしたら。
運よく不意をつけただけで。
面と向かい合ったらキャプテン・バルボッサには勝てない?
そう思えたりもします。
少し臆病者に見える黒ひげさんですが。
それでも、隣にいるアンジェリカさんを見ていると。
かなり偉大な海賊だと思えます。
キャプテン・ジャック・スパロウ

俺の名は永遠に生き続ける
4作目、2時間7分頃
キャプテン・ジャック・スパロウについては。
語りたいことがあり過ぎて困ります。
1作目では沈みかけた小舟で。
ポートロイヤルにやってきました。

人からジャック・スパロウと呼ばれると。
キャプテン・ジャック・スパロウと呼んでくれ

そう言いました。
今となっては、この心構えがもの凄く大切に思えます。
誰かの評価、そういう目は関係ない、自分がどう在りたいか。
誰が言うかじゃなくて、自分が何を言うかが重要。
1作目でこんな台詞を言うくらいです。
行きたければどこへでも行く
それが船ってもんだ
キールや船体、帆や甲板じゃない
それは船に必要ってだけ
それじゃ船とは……
ブラックパールとは――何か?
自由だ
1作目、1時間37分頃
この台詞で私がキャプテン・ジャック・スパロウを表せば。
生きたければいつまでも生きる
それが船長ってもんだ
船や仲間、帽子や冒険じゃない
それは船長に必要ってだけ
それじゃ船長とは……
キャプテン・ジャック・スパロウとは――何か?
永遠の自由だ
私がそう思えたのは3作目での。
父、ティーグ・スパロウさんとのやり取りです。

キャプテン・ジャック・スパロウ
それが秘訣だろ?
生き残る
ティーグ・スパロウ
永遠に生きるってのは
どうでもいいことだ
肝心なのは
プライドを守ることだ
永遠に

3作目、1時間47分頃
もし誰かに船や帽子を奪い取られて。
それで失ったように思える、キャプテンなら。
永遠に生き残っても退屈でしょう。
船や帽子がなくても。
海賊がいない時代でも。
ITが他人の目に見えなくても。
自分にだけ見える、ITを感じるのなら。
それだけで十分。
今、目の前にのさばる、それらも。
ほんの少し昔はただのIT。
そう、ただのピエロだ。
この態度だけ大きく器の小さな黒光宇宙。
ファッキン・ブラック・ワールドは。
臆病者のか弱い独裁者。
忘れ行く、昔の夢で。
思い出す、今の夢は。
マジに夢中な白い影、白影夢中。
とにかく、自分で自分を名乗る。
それが、もの凄く重要だと思い出させてくれたのが。
キャプテン・ジャック・スパロウです。
自分で自分を分類し、その名を名乗れ。
それが全てだから。
それを笑う世界など忘れてしまえ。
何かが腐るような。
狭い世界に居続けたいか?
もし、昔の海も今の海も変わらないのなら。
きっと、今から未来にある昔へだって抜け出せる。
ワールドエンド、その先の第七区へ帰ることだって。

キャプテン・ジャック・スパロウがやったように。
それを愚かに信じるか、賢く疑うか。
以上、今の私が選んだ9人と1神の生き様でした。
本当に『パイレーツ・オブ・カリビアン』は面白いシリーズです。
是非、1000年以上続く、そういうシリーズであれば。
そんな馬鹿げたことを願いながらも。
私も私で上手いこと抜け出せたら、と狙っています。
掟破りのイカロス渡りで。
飛べ愚者! イカロスさんに続け!
それでは、また次の機会にお会いしましょう。