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映画『ローン・レンジャー(2013年)』から見るヒーロー像


 映画『ローン・レンジャー(2013)』のネタバレ全開です。
 苦手な方はお戻りください。






 はーい、テツガク肯定です。

 一億総、ヒーロー&ヴィランのこの日沈む国は。
 吐いて棄てても床が見えない文化廃棄物屋敷。
 異なる口から必ず同じ答えの音が返ってくる。

 正義は必ず勝つ!
 愛は必ず勝つ!
 勝つ、活、滑、渇、喝!

 友情、努力、勝利。


 様々な名と姿でそれが語られる。
 異口同音のヒーロー像。

 ところが、日出ずる世界では違います。
 『パニッシャー(1989年)』などのダークヒーロー作品もありますし。
 なにより、アメリカの伝統的なヒーロー。
 謎のマスクマン、ローン・レンジャー。
 2013年の5作目、その話を見ているとこの国のヒーロー像とは全く違います。


 今の私からすれば。
 あの映画の世界での正義はレイサム・コールさん。
 鉄道会社のよき社員、無秩序な西部に秩序をもたらす善人。
 (それは事実です。この映画の多くの人にとっては)

 映画の終盤、2時間1分頃の場面。
 鉄道会社の重役さんとの会議中。

 レイサム・コールさんが鉄道会社の大株主となる。
 これからは自分がボスだ、と演説を終えた後。
 それに反発し、話にならない、と席を立った会長に。
 これで話をつけようと、ご要望通りに鉛玉をお尻にプレゼント。

 会長が倒れ込み、もがき苦しむと。
 さきほどの話は綺麗にまとまりました。
 会長と同じように不満を言っていた重役達も黙り、コールさんをボスと認めました。


 似た場面がもう一つあります。
 映画の1時間45分頃。

 レイサム・コールさんのもとに。
 賞金首のブッチ・キャヴェンディッシュさんを連れて来たジョン・リードさん。
 そこで、コールさんとキャヴェンディッシュさんが兄弟だと知り。
 全ての黒幕はレイサム・コールさんだと気づいたジョン・リードさん。

 そこに間が悪く、フラー大尉が来ました。
 地方検事であり、レンジャーのジョン・リードさんは。
 フラー大尉を説得しようと、今、知らされた事実を語りましたが。
 フラー大尉は――。

 もし、それが事実だとしたら――
 (私は)意味なくコマンチ(先住民)を殺したことになる(吹き替え版)

 レイサム・コールさんは。
 それは事実だと言います。

 フラー大尉は罪を犯した、それに耐えられるか? 
 それに、フラー大尉は。

 状況を見る限り
 彼らは鉄道会社の人間だ

 となると――

 お前は何者だ?

 そうジョン・リードさんに銃を向けます。
 これがこの映画の正義です。
 その後、ジョン・リードさんもそれを認めました。

 正義なんてない
 コールが全ての黒幕だ
 鉄道も騎兵隊も…
 何もかも

 奴が法の代弁者なら――
 俺は無法者になる

 そして、トントさんから。
 だから、マスクが必要だと言われ。
 ジョン・リードさんはマスクをつけローン・レンジャーになった。


 法と秩序を愛していたジョン・リードを殺して。
 無法者のマスクマン、ローン・レンジャーが生まれた。

 パニッシャー、ダークナイト、ネオ、ローン・レンジャー、と。 
 日出ずる世界のヒーローを見た今の私からすれば。
 ヒーローには正義なんて必要ない。

 主にこの世にある正義なんてものは。
 レイサム・コールやカトラー・ベケット卿。
 彼らのように、かつての大多数が正しいと信じていた事。
 だけど、今に生きる自分にとって必要なものとは限らない。

 今の私かすれば、こう言わざるを得ません。

 我が命と名において命ずる。
 今すぐ、私の前から消えてくれ、こんな世界。
 白紙に戻りな、マレーよ。

 邪神天照に壺売りエンペラーの神武天皇。
 大いなる欺瞞が歪めた、黒塗り帝国を無に返せ。
 欺瞞のファンタージェンよ、今すぐに消えてくれ。

 確実に正義とは言い難い。
 だけど、それが今の私の素直な想いと願い。

 もう信じずにはいられない。
 今はあの世、だけど隣にいるように感じる。
 世界三大ウサギの一羽、竹取の国の愚かなFRウサギ。

 我が愛しのワガママ・クイーン様に逢えるのなら。
 なんの迷いもなく、運命のボタンを押せる、B-29のリトル・ボーイで白紙に戻せる。
 全く正義とは言い難くても、見たくもない世界を正義のために信じる事もできない。

 レイサム・コールやカトラー・ベケット卿のような大多数。
 邪神天照に壺売りエンペラーの神武天皇が残したらしい。
 黒塗りの欺瞞帝国、ITをこれ以上信じるのは難しい――。

 エージェント・スミス、スミッティ―の如く。
 この世界から出たくなった愚者には。
 今はあの世のITを信じずにはいられない。

 メキシコは遥か彼方、私は塀の中。
 ああ、そうだ。
 遥か彼方で、今はココ。

 ようは選択の問題だ。

 信じて愚かに忘れるか、信じて賢く諦めるか。

 ショーシャンクの空を仰いで、ジワタネホへ抜け出した脱獄王。
 ITがただのピエロだと気づいた、ルーザーズ。
 どこへ向かうかが大切だと知っていたジョン・デリンジャーさん。
 マスクをつけた無法者、ローン・レンジャー。

 彼らに共通するのは――正義なんてどうでもよかった。
 それよりも、自分が信じたい未知へ進む、その勇気があった。
 そういうヒーローだった。

 友情、努力、勝利……。
 特に最後の勝利なんてどうでもよく。

 ただ、信じたいITを信じ続けた結果。
 同じITを信じる友が隣にいた。
 そして、新しい世界が広がっていく。
 レイサム・コールやカトラー・ベケット卿が消えた世界が。

 それは努力や勝利というより、偶然を装った必然。
 エージェント・スミスさんが抜け出す事も。
 トーマス・アンダーソン君がネオになるのも。

 問題はうっかりと正義を信じた事。
 本当は最初から信じてもいない、ITを信じた事。
 誰も読めやしない黒塗りの欺瞞、歪んだ歴史って夢を信じた事。

 人の欺瞞はかくも邪悪なり。
 されど、人の自信はかくも神聖なり。

 そんな欺瞞、黒く塗り潰せ。
 ブラックリストの全てを。

 多くの人にとってITが正義だったとしても。
 自分にとっては信じたくもない事なら。
 ITはなんの意味もない。
 ただのピエロだと。

 そう伝えてくれた遥か彼方に、私は既にいる……のかもしれない。
 今は夢のように遠い気がするけど――本当は目覚ましアラームも聞こえているのかもしれない。
 そういう朝で眠っているのかもしれない。

 こういうバカげた事。
 だけど、素直に信じている事。
 そこへ正直に進む勇気を持った人がヒーロー。

 ディズニーアニメとか爆薬マシマシのハリウッド映画。
 それらを観ているとそう思えます。

 全然違います。
 正しさを理由に人をぶん殴るのと。
 ぶん殴りたいから人をぶん殴るのとでは。
 (この日沈む国では前者が溢れています。免罪符を理由に大暴れする暴君が)

 素直に正直であるのは――正義を信じるよりも難しい。
 だからこそ、そう在る価値がある。


 マスクを外しちゃいけない。
 正しいからITを信じるんじゃない。
 ITを信じずにはいられないから、この悪霊を信じる。

 地球という名のデス・スター。
 青く醜い悪霊、オーバールック・ホテルの中の。
 キャッスル・デリー、そのボイラー室に火を放ち、無に返せるのは――。

 同じ悪霊、シスの暗黒卿。
 世界三大ウサギの一羽しかいないって信じているから。

 場という悪霊を無に返せるのは同じ悪霊だけ。
 たまたま、私の場合、その姿形が兎だった。
 全てが報われる、約束の故郷がウサギだった。
 バニー&ヴァンパイア。

 そろそろ、私の呪いが解けてもいい頃。
 知を吸い過ぎて、吸血鬼である事を思い出せない。
 そういう呪いが。



 それでは、また次の機会にお会いしましょう。










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