西鉄バス讃歌

あまりの暑さにオフィスまで歩くのをあきらめた。自宅近くのバス停、鎮守の杜から蝉時雨。首をつたう汗をハンカチでぬぐう。

乗るべきバスが止まり、空気の抜ける音とともにドアが開く。そのときだった。

「暑い中、お待ちいただき、申しわけありません」

え?と思う。待っていたのは、たまたまぼく一人だったこともあって、直接、声を掛けられた気分。車内に入ると

「バスは5分ほど、遅れております。みなさま、お忙しい中、そしてお暑い中、ご迷惑をおかけしております」

控えめな声量だが、言葉はしっかりと伝わってくる。

「これからも暑い日が続くようです。お仕事、お勉強、習い事など大変だと思いますが、どうか笑顔を忘れずに楽しくお過ごしください」

一言一句、覚えているわけではないが、彼はこういった意味のことをアナウンスした。「笑顔を忘れず」が「上から」と感じる人もいるかもしれないけど、彼の声のトーンから謙虚な姿勢が伝わってくる。

博多営業所の運転士・鈴木崇弘さん、ぼくは聞いていましたよ。自分の言葉で乗客に語りかける。スマホを見ている人を邪魔しないように配慮しながら。なかなかできることじゃない。

告白すると、若い頃(ぼくが中高生だった頃)の西鉄バスの運転士さんの中には少なからず気性の荒い人もいて、まあ、ぼくのほうも血の気が多くて、何度かぶつかったことがある。あの頃、ぼくにとって西鉄バスは敵だった。

最近は女性も含めて、良い方が増えたな、と思ってはいたが、今日のアナウンスで、ぼくはすっかり西鉄バスのファンになった。

ブランディングって、ここに始まり、ここに終わるのだろう。社内に鈴木氏を何人育成できるか。それが勝負だ。

そして、そのカギは言葉だ。ぼくたちにできることは、まだきっとたくさんある。社会は、もっともっと、ずっとずっと素晴らしくなる。

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