メディチ・リッカルディ宮殿
Palazzo Medici Riccardi
ラルガ通り(現在のカヴール通り)とゴーリ通りの角に建っている邸宅が、メディチ家のリッカルディ宮殿です。
あれだけの権勢を誇ったメディチ家にしては地味な印象の邸宅ですが、そこには、アルビッツィ家の陰謀(1433年)を経て、他人から反感や嫉みを買うことがいかに危険なことであるかを思いしらされたコジモらしい配慮がありました。
最初、コジモは邸宅の設計をブルネッレスキに依頼しましたが、彼が作った模型があまりにも豪華だったため、お抱え建築家のミケロッツォ・ミケロッツィに改めて設計を依頼しました。
工事は着実なペースで進められ、1459年頃には完成したとものと思われます。
完成した邸宅は、フィレンツェで最初のルネサンス様式の邸館建築であり、ブルネッレスキによって示された古典的な力強さと、アルベルティに見られる知的優雅さを兼ね備えていました。
当初の正面は現在より小さい10径間(窓10個分)の建物でしたが、17世紀にリッカルディ家に売却された際に、北側に7径間増築されました。
外観は3層に区切られています。
第1層は、荒削りのままの石を積み上げた力強い粗石積みで、力強いアーチに縁どられています。
それが、第2層、第3層と上にゆくにしたがって、壁面の凹凸はやわらげられ、開口部の窓も繊細でリズミカルな二連アーチ窓となり、視線を上げるほどに軽快さが増します。
二連アーチ窓の上には、オリジナル部分にはメディチ家の紋章が、増築された部分にはリッカルディ家の紋章が飾られています。
建物の最上部の周縁には、古代建築風のコーニス(軒)をめぐらせて、外観全体を荘重な趣きで引き締めています。
当時、2つの通りが交差する角には広いロッジャ(開廊)が開かれ、市民に開放されていました。しかし、1517年には、それはミケランジェロ設計の窓によって塞がれました。
Finestra inginocchiata, Michelangelo Buonarroti
Entrata di Carlo VIII di Francia a Firenze, Francesco Granacci, Galleria degli Uffizi
古典的で幾何学的な整然さがきわだつ中庭は、細身のコリント式円柱が支える連続アーチで囲まれた正方形プランの空間となっています。
アーチの上のフリーズには黒地に白い花綱を浮き上がらせた装飾が施されています。それらの間にはメディチ家の紋章と交互に古代風の円形メダイヨンが配置されています。
メディチ家紋章のデザインはそれぞれ異なり、円形メダイヨンのモチーフには、コジモ自身の古代コレクションであるカメオや彫刻のモティーフが利用されました。
かつてこの中庭には、15世紀の大彫刻家で、コジモのお気に入りのドナテッロの大傑作である、ブロンズ製の《ダヴィデ》が置かれていました。
David, Donatello, 1440 circa, Bronzo dorato, 158 cm, Museo Nazionale del Bargello, Firenze
しかし、1494年の政変でメディチ家が追放されると、ヴェッキオ宮殿に移され、現在はバルジェッロ美術館に展示されています。
また、奥にある庭園の噴水には、ドナテッロの晩年の名作《ユディトとホロフェルネス》のブロンズ像が設置されていましたが、こちらも《ダヴィデ》と同じ運命を辿りました。
Giuditta e Oloferne, Donatello, 1453-1457, Bronzo, 236 cm, Palazzo Vecchio, Firenze
現在はヴェッキオ宮殿内部に保存され、シニョリーア広場にはコピーが置かれています。
イタリア・ルネサンスの宮殿建築の典型となったリッカルディ宮殿内部で、この当時の雰囲気を今に伝えてくれるのは、2階にある礼拝堂です。
祭壇のある面を除いて三方の壁面には、ベノッツォ・ゴッツォーリの 《ベッレへムへ向かう三王の旅》がフレスコ画で絢欄と描かれています。
Cappella dei Magi, Benozzo Gozzoli, 1459, Affresco
そして、画中の三王をはじめとする人物には同時代のメディチ家の人々の肖像が写されています。
三王のうち年長の2人の王カスパール(西側、老人の姿)とバルタザール(南側、壮年の姿)には、1439年の東西教会公会議(フィレンツェ公会議)に参加したコンスタンティノープル総主教とビザンティン皇帝ヨハネス・パレオロゴス8世の姿が描かれています。
Parete ovest
Parete sud
そして、若い王メルキオール(東側、青年の姿)は、若き日の口レンツォ豪華王の姿が描き出されているとされますが、これには異論も多くあります。
Parete est
いちばん若い王につき従う一行のなかにはさまざまな肖像が見られ、そのなかにはメディチ家の代表的な人物がいます。
コジモは美しく飾られた茶色の驢馬にまたがり、その右隣には、絵の発注者であるピエロが赤い頭巾をかぶって白馬にまたがっています。そして、群像中にはゴッツォリの自画像が見られ、赤い帽子には「OPUS BENOTII(ベノッツォの作)」と記されています。
メディチ・リッカルディ宮殿/Palazzo Medici Riccardi
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