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PR視点のブックレビュー:音部大輔著『君は戦略を立てることができるか』

「今年の秋にサンプリングを実施したいんです」ーー著者の音部さんが大手化粧品会社でCMOをされていた時、あるブランドからそんな提案を受ける。目的を尋ねると「1人でも多くのお客様に出会うためです」との答え。この答えを音部さんは、「一見、理に適った回答に見えるが、陥りやすい落とし穴」と言い切る。なぜなら、「1人でも多くのお客さんに出会う」という記述は、単なるサンプリングという手段の「活動の記述」にすぎず、戦略的な目的ではないからだ。

PRの領域でも似たような話は山ほどある。「ひとつでも多くの記事を露出させるためです」というのもそうだ。それこそパブリシティという手段の「活動の記述」に過ぎないわけだが、そこを目的に設定してしまうケースは今だに少なくない。本来、PRで達成すべき戦略目的は、パーセプションチェンジや態度変容であるべきだ。

「目的と資源」ーー本書の要諦をひとことで表すなら、これに尽きる。本質的な目的が何であるかを正しく解釈し解像度をあげる。そしてその達成に必要となる(組織内外における)有形無形の「資源」が何であるかを洗い出し、目的と照らし合わせる。「戦略を立てる」ことの正体は、こうした一貫性のある作業に他ならない。

本書では、目的を再解釈する手段として、目的を達成した未来の様子を詳細に想像することを薦める。これはまさに、僕たちがPR戦略を立案するときに用いる「ナラティブスクリプト」(社会で紡がれるべき企業やブランドの物語を文章化する手法)に通ずるものだ。そして、「資源優勢」という考え方。本書の例えを借りれば、目的の再解釈というドアを開ける鍵こそが「資源」だ。勝利するためにはとにかく、「資源優勢=目的に対して投下可能な資源量が優勢であること」を探すことが肝要だと著者は説く。企業やブランドの「資源優勢」はどこにあるのか? それを社会的な観点から見極めることができるのが、真のPR戦略家だろう。

念を押すならば、決して「戦術より戦略がエラい」という話ではない。最初から「戦略家」を気取って成功した人を僕は見たことがないし、それがどんな専門分野であっても、手段や戦術を死ぬほど学び実践した先にあるのが、戦略家という存在だと思う(歴史における軍師の多くがそうであるように)。だから、特に若いPRパーソンはとにかく実践することだ。実践、実践、また実践。ただし重要なことは、実践を重ねながらも「戦略」とは何か?をしっかりと理解しておくことだ。そのために本書のような良書は存在する。

君は戦略を立てることができるか?ーーPRパーソンは、常にその問いへの答えを胸に、日々の業務を頑張っていこうではないか。音部さんの4時間にわたる人気講座が体験できる本書。オススメです!

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