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現場見学会とDIYワークショップを取り入れた理由

このnoteでは一級建築士で住宅の設計をしている私が、中古住宅を購入してリノベーションした体験談を書いています。
プロだからこその選択、決断、それらの理由についてなるべく詳しく書いて、これから住まいを手に入れようって方に新築以外にも快適な住まいを手にする方法があることを知ってもらうことを目的としています。

1.リノベの工事過程はわからない

今回の工事で現場見学会とDIYワークショップを合わせて6回行い、100組近い方に見ていただきました。

2018/9/9:解体後現場見学会(17組)
2018/10/7:構造見学会(10組)
2018/10/21:断熱補強見学会(7組)
2018/12/1,2:左官体験ワークショップ(10組)
2018/12/9:無垢床ワックス塗りワークショップ(4組)
2018/12/22,23,24:完成見学会(50組)

新築現場の構造見学会をやっても0組が当たり前のこのご時世、なぜここまで集客できたのか。
それはリノベーションの工事現場を見る機会が無いからだと考えられます。
新築住宅の場合、工事会社の裁量で比較的容易に現場見学会を開催することができますが、リノベーションの場合は直前までその住まいに住んでいたり、場合によっては住みながら工事を進めます。
そのためどこの誰が住んでいるのか明確で、お客さんのプライバシーの関係上、現場を見せることが難しいのです。
また解体してみないと読めないこと等、始まってみないとわからない工期という点でも見学会をするスケジュール立てが難しくなるという理由もあります。
お客さんと工事会社双方の理由で、リノベーションの工事現場はブラックボックスの中にある状態です。
ブラックボックスの中を見てみたいのが人の性、だから現場見学会という名にしては異例の集客に繋がったのだと思います。

2.自社紹介はしないと決めて行った見学会

好ましくない住宅会社のイベントの典型は、自社紹介ばかりで本当に正しい知見を広げようとしないものです。
個人的な仮説ですが、お客さんはその辺りを見抜いていて、こんな負のループの渦中にあると考えられます。

自社紹介ばかりのイベントを開催する

お客さんが来なくなる

参加者に○○をプレゼントと景品でお客さんを釣る

家づくりに興味がない人が景品を貰いにだけ来る

経費がかかって、その分の利益を上げなきゃいけなくなる

本当に家づくりをしたいお客さんへの販売価格が高くなる

イベントの内容を見直すのではなく、物で釣るという今も昔も変わらないことが横行していて、それが同業他社間で広がり、今となっては住所と名前を書いて周り、その後の営業電話に対して出ないということをするだけで数千円分のQUOカードが一日で集められたりします。
その営業経費は、住宅会社の収入源である受注契約したお客さんからいただいたお金から出ているのですが、何か違和感を覚えないでしょか。
これと似た状況は結婚式場選びにも起きています。
私は時間の無駄だと考えたので本命一件だけ見て決めましたが、人によっては結婚式場を回ることがデートの一貫になり、食事はできるし、粗品は貰えるしと貰えるものは全て貰って、最後に雑誌なんかで見た本命の結婚式場に行くって方もいます。
このように考えている私が自宅でのイベントを計画した際に決めたことが、自社紹介はしないということです。
私がお客さんに下記のnoteに書いてあるような耐震補強や断熱の一般論や、今回の現場に落とし込んだ事例を紹介しました。

内容がどうしても専門的になりすぎるので、毎回10ページ程度の資料を作成、配布しました。
その資料ではなるべく日常的に使う用語や単位で物事を伝える工夫をしました。
例えば断熱では、ZEH基準やC値、Q値、Ua値なんて言われても一般の人にはわからないので、温度とお金(光熱費)に置き換えて伝えるように工夫しました。
自社紹介はせず、専門知識はなるべくわかりやすい言葉に置き換えて伝えることで、本当に良い家づくりのヒントになるよう努めました。

3.DIYが教えてくれる家づくりの楽しさ

教育費、老後の資金と並んで人生の三大出費の一つとされる家づくりですが、それだけのコストを掛けて行うのだから楽しくあるべきだと考えています。
その楽しいを体験できる要素の一つがDIYワークショップです。

「DIYで工事費安くしたんでしょ?」と言われることがあります。
実は安くなっていません(笑)
楽しんでもらうためには成功体験であって欲しかったので、左官で重要な下地処理、養生は専門家にやってもらいましたし、当日も指導係として人工賃を支払って来てもらいました。
そこまでしてワークショップにした理由が、家づくりの楽しさを共有したかったからです。
大人も子供も服の汚れなんて気にせず、楽しく作業をしていました。
家は買うものじゃなく、一緒に作り上げるものだと思っています。
自分の家ではなくてもその過程に参加することで、非日常体験としての楽しさ、家づくりが自分事になる楽しさが生まれます。
左官ワークショップで壁を塗った小学校1年生の甥っ子は、完成後初めて家に来た時、真っ先に自分が塗った壁の所に行き、「ねぇ〜ここ僕塗ったんやよ!」と自慢げに話してくれました。
甥っ子にとって家づくりが自分事になってくれて、この楽しさを色んな人に知ってもらいたいし、自分事にすることで家に愛着を持って欲しいと強く思いました。
我が家では壁ごとに荒々しかったり、大人しかったりと表情が異なる壁があり、ここは○○さんが塗ってくれたなーと思い出しながら壁を眺めることがあり、私自身にとっても強く愛着を持つ自分事になっていると感じています。

4.会社員の限界

会社員としてイベントは大成功だと思います。
会社の知名度向上になり、その後の問い合わせが増え、別のイベントでの集客も増え、場合によっては面白いイベントしてる所ですよね?とまで言ってくれます。
しかし2で書いた通り、どうしても会社名で行うイベントには営業目的というイメージが払拭しきれません。
ここで言う営業目的は、イベントで個人情報を取得し、イベント終了後に連絡するという形です。
もちろん家を建ててもらうことで得られる報酬で会社が成り立ち、給料が貰えているのが私の仕事なので、営業行為が悪だとは言えませんし、方法の一つだと考えていますが、私なりに感じる違和感を拭えないものかと考えています。
株式会社○○の私がいくら抵抗しようとも世間的に浸透した営業目的のイメージを払拭することができず、良い家、価値ある家をつくることの大切さを多くの人に伝えることの難しさを痛感しており、これが会社員の限界なのかもしれませんし、今後立ち向かわなければいけない大きな壁だと思っています。
本当に役に立つ情報提供、お客さんに家づくりを学んでもらう環境づくりとはどんなものなのかこれから考えていきたいです。

建築と写真で素敵な生活のサポートをしたい