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無理に間取りを変えてはいけない理由

このnoteでは一級建築士で住宅の設計をしている私が、中古住宅を購入してリノベーションした体験談を書いています。
プロだからこその選択、決断、それらの理由についてなるべく詳しく書いて、これから住まいを手に入れようって方に新築以外にも快適な住まいを手にする方法があることを知ってもらうことを目的としています。

1.どうして間取り変更するのか

リノベーションではよく大幅に間取りを変更するイメージがあるかと思います。
それは昔の住宅のつくりが、現代の生活に合致していないため、生活動線の整理や機能の変更が必要なため行われます。
例えばLDKの成り立ちを振り返ってみます。

1950年以前は台所が別にあって、一部屋の和室にちゃぶ台を出してダイニング、それを片付けて布団を敷いて寝室になっていたところから、1951年に食寝分離の考えが広がりDKスタイルの部屋ができました。
団欒の場として和室のリビングがDKの隣に設けられたり、一家に一台のテレビの出現もあいまって、1970年代に家族団欒の場としてリビングがDKとくっついてLDKが生まれました。
LDKの中でシステムキッチンの発展によりで壁付のキッチンが対面になって、家族団欒をより強いものにしたり、もっと自由な家事動線という観点からアイランドキッチンも生まれました。
そして現在、nLDKを解体したもっと自由な暮らしでワンルームなんかも出現しています。

LDKの歴史は50年程で、意外と浅いことがわかります。
またLDKの成り立ちはマンションが先導する形で発展していったため、戸建てに影響を及ぼすまでに数年のタイムラグがあったり、一家に一台テレビを置く生活に代表されるように家電製品が間取りづくりに影響を及ぼすこともあります。
最近ではロボット掃除機用の収納を設けたり、それが効率よく掃除をしてくれるように扉や段差のような障害物を限りなく少なく設計するといったことが挙げられます。
このように時代の変遷によって住みやすい間取りというのはどんどん変わっていって当然で、リノベーションではその時代にあった間取りに変更することで、生活の質を向上させることができます。

2.既存の間取りの良いところを読む

新築と違いリノベーションは間取りを変更するにあたって、既存の制約を必ず受けます。
既存の間取りをつくるために柱が配置され、そこに梁がかけられ、2階や屋根が支えられているため、好き勝手に柱を取ることはできません。
これがもっともわかりやすい制約です。
この制約を無理なく解決するには、既存の調査が重要であり、調査から既存の間取りの良いところを読み取ります。
既存の住まいの間取りには、何らかの意図があるはずです。
例えば日当たりの良い所に長時間過ごす居間があったり、道路から近い所に水回りがまとまっていてゴミ出し用の勝手口がついているなど、普遍的な環境や当時の生活の知恵が詰まっています。
特に普遍的な環境面での良い所は残していくことが、無理のない間取り変更のポイントとなります。
また現地調査段階では一般的な居室の大きさを頭に入れておくと良いと思います。
対面キッチンのLDKで、ダイニングテーブルとソファーセットを置くには15帖、シングルからセミダブルベット2台置くには6帖、ベットと勉強机置くには4.5帖など、規模感を把握していればその部屋の大きさや隣り合った部屋の足し算で何に変えられるか判断することができます。

3.無理に間取りを変えるデメリット

無理に間取りを変えるとは、既存の制約を破るような変更のことをいいます。
その代表格は、不用意に柱や耐震壁を取る行為です。
この柱が無ければもっと良い間取りになるのにな、なんてことよくあります。
その際、本当に取ってはいけない場合、取れるけどそれを補う補強が必要な場合、取っても影響がない場合の3パターンが考えられます。
取ってはいけない場合は、文字通り取ることができません。
取れるけどそれを補う補強が必要な場合は、柱を抜いたらその隣の柱まで梁で上階の荷重を伝えなければいけません。
梁はその高さに比例し、柱と柱の間の距離を長くすることができるので、柱を取った分だけ梁の高さを高くなるように添え梁を施します。
耐震壁の場合は同じ壁量分だけ補う必要があり、また偏心や重心の位置を考慮した位置に設けなければなりません。
つまり無くすために補う必要があり、そのままコストに跳ね返ってきます。
取っても影響がない場合は、全体のバランスや荷重の流れを確認した上で判断することができます。
全体をしっかり調査した上での判断が必須です。
戸建てリノベーションで多い筋交いで構成されている在来木造は、やれないことは無いが全てコストに大なり小なり影響を及ぼすと言われています。
あまりに自由に間取りを変更し、その分だけコストをアップしてしまうようでは、そもそも希望する計画は新築の方が適しているのではないかといった所に戻っての検討が必要です。
制約に対しての判断は、技術的な理解がある専門家(建築士などの資格保有者)でしかできない場合が多いので、大手によくいる文系出身の営業担当では対応は難しいかと思います。
誰に相談すべきか、またその相談相手の返答が大丈夫の一言だけではなく、ちゃんとした根拠があるか、慎重に対応して見分けなければいけません。

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