なぜ疫病流行が頻発するのか
熱帯雨林の豊かな生物相には、人間と接触していない病原体がまだまだたくさんある。
開発や、もっと素朴な焼き畑などにより、文明圏と森の境界が前後するとき、この未知の病原体に人間が感染することはよくある。
そしてこうした病原にたいする肉体的な抵抗力も、対応策の蓄積も、当然のことながら人間は持っていない。
感染力の強い病気は、だから簡単に疫病と呼ばれるレベルで流行するし、現代人の移動の速さは、それを容易にパンデミックに変えてしまう。
つまりは現今の猿痘の出現は時代状況のもたらす必然なのだ。
アフリカの話
アフリカの医療が充実しない理由は一つではない。
現地国の政府がそうしたことに予算をさきたがらない、というのは一つの事実であろう。
アフリカ地域が基本的に貧しく、基本的な衛生状態を確保するためのインフラが整備できていない、というのは、いろんな人に責任がある。医療施設をODAとかでぽんと置いても、十分に機能するとは考えにくい。
そもそもの話、なぜアフリカが貧しく政府が独裁的で腐敗しがちかと言えば、英仏などの旧宗主国にとって、搾取を続けるのに都合がいいからだ。
以前のAIDSのようなパンデミックにならない限り、アフリカの疫病は放っておかれている。
たとえばエボラ出血熱はその毒性があまりに強く、あまりに速く死をもたらすために、世界的流行には至らない。ただ出現以来10年経っても流行は収まっておらず、その規模も把握できない状態のまま放置されている。
エボラの被害地域というのは紛争地帯と重なっていたりして、最も貧しく最も不安定な地域の一つである。
当然のことながら、こうした地域の住人も国家も、十分な支払い能力を持たない。だからワクチンはあっても、誰も本気で生産しようとはしていない。
中国の話
主要な疫病の発生源といえば中国もそうだが、これについては詳しく知らない。
ただ、19世紀のペストの流行はこのようにして始まった。
中央アジアに入植した漢民族が、現地人が決して触れようとしない、ある病気のげっ歯類を、毛皮目的で大量に狩猟した。
このげっ歯類自体は無害な存在だが、これに寄生するノミはペストを媒介するものだった。
耐性を持つげっ歯類(タルバガンだったと思うがちょっと今確認できない)とノミの間を循環しながら、ペスト菌がずっと保持されていたのだ。
毛皮とともにノミが中国本土に送られ、そこからパンデミックが始まった。
これは一例だが、社会の質的に、同様のことが今起こっていても不思議ではない。
そんなわけで
アフリカでもアジアでもラテンアメリカでも、こうした伝統的な知識の軽視と忘却は普遍的に起こるだろう。
結果、我々はかからなくてもいい病気を抱え込むことになる。
世界的な富の偏りは、普遍的なインフラの劣化を招くし、治安も悪化させる。
そうした状況で速やかにワクチン等を行きわたらせることは困難である。
パンデミックはこれからも起こるだろう。
別に誰の陰謀というわけでもない。歴史の必然である。