【論文レビュー】プロダクト開発を変革せよ!リレー型からラグビー型へ - 日本企業に学ぶ革新的な開発手法
こんにちは!テツローです。
私が普段から開発の現場で導入している「スクラム開発手法」ですが、スクラムの提唱者の一人であるジェフ・サザーランド氏が元々の着想を得る原点となったのが、日本人である平鍋健児、野中郁次郎の論文「The New New Product Development Game」です。
論文の中では、専門組織をまたいで集められたチームが、一体となって製品を開発する手法を野中氏らはラグビーで使われる「スクラム」と名付けています。
それがそのままの名前で、ソフトウェア開発手法として米国でサザーランド氏らによって提唱され、日本に逆輸入された、といった経緯があります。
私もスクラム開発手法に出会い、魅了されたうちの一人です。
スクラムの原点が日本人の論文という点にしびれます!
1.ひとことで言うとこんな感じ
従来のリレー型のプロダクト開発、いわゆるウォーターフォール型開発から、チーム全体が一丸となって進めるラグビー型の開発手法への転換を提案している研究です。このアプローチは、不安定性を内包しながらも、自己組織化するチームによって、より速く柔軟なプロダクト開発を実現する、といった内容で、ウォーターフォール型開発しかない時代(1986年)でこのような考え方を提案できることに驚きました。
2.なぜこの研究が重要なのか
1980年代に入り、企業間競争が激化し、市場ニーズの多様化や製品寿命の短縮化が進む中で、従来の順序立てたプロダクト開発では市場の要求に対応できなくなってきました。特に、新製品が企業の売上や利益に占める割合が増加する中で、開発のスピードと柔軟性の向上が重要な課題となっていたようです。
3.研究で明らかにしたかったこと
NASA型の段階的なプロダクト開発プロセスに代わる、より効果的な開発手法を見出すことがこの研究で明確にしたかったことです。特に、日本企業が実践している重複型の開発プロセスの特徴と、それがなぜ効果的なのかを明らかにしようとしています。
4.研究の進め方
富士ゼロックス、キヤノン、ホンダ、NEC、エプソン、ブラザー、3M、ゼロックス、ヒューレット・パッカードなどの多国籍企業を対象に、6つの具体的なプロダクト開発プロジェクトを詳細に分析しました。各プロジェクトは、その革新性や市場での成功、データの入手可能性などを基準に選ばれています。
5.主な発見・結果
新しいプロダクト開発アプローチには6つの特徴があることが分かりました。
内在する不安定性
自己組織化するプロジェクトチーム
開発フェーズの重複
多面的な学習
微妙なコントロール
組織的な学習の転移
これらの要素が組み合わさることで、スピーディーで柔軟なプロダクト開発が可能だったということが明らかになりました。
6.この研究の面白いポイント
なんといっても、プロダクト開発をラグビーのスクラムに例えた点が特徴的だと思います。従来のリレー型開発(ウォーターフォール型)では、各部門がバトンを渡すように順番に仕事を進めていましたが、新しいアプローチではラグビーのように、チーム全体がボールを持ちながら前に進むイメージで開発を進めます。この比喩が、新しい開発手法の本質を非常にわかりやすく表現していると思います。
7.実務や日常生活への応用可能性
この研究の知見は、プロダクト開発に限らず、組織における複雑なプロジェクト管理全般に応用できます。例えば、社内の改革プロジェクトや、異なる部門が協力して取り組む必要がある課題に対して、このアプローチを適用することで、より効果的な成果が期待できます。
8.自分なりの考察
この研究が発表された1986年から35年以上が経過していますが、提案されている考え方は現代の開発現場で非常に重要な考え方となっています。特に、不確実性が高まる現代において、組織の自己組織化能力や学習能力の重要性はさらに増していますが、一方で、リモートワークが一般化する中で、このようなチーム型の開発をどのように実現するかという新しい課題も生まれていると思います。そういった中で、スクラム開発手法というのはますます需要が高まっていくのではないか、と考えていますが、スクラム開発がすべての開発現場に適応できるとは思っていません。スクラム vs ウォーターフォールのような二項対立で考えるのではなく、その現場にあった手法ややり方を柔軟に適応していくことが重要なのだと思います。