自分たちでゼロから結婚式を創った夫婦の話し。~Ep10.祖母の死、入籍 そして妊娠~
Ep10.祖母の死、入籍 そして妊娠
2019年2月18日。透き通るような淡い水色の空の下、僕とみはるは入籍した。その日は2人が6年ぶりに上野で再開した日だった。残念だったのが、前日の2月17日に大好きだった母方の祖母が亡くなったことだった。
98歳の大往生だった。祖母は孫である僕の顔も名前も憶えていたので、生きていれば入籍したことを祖母に伝えたかったがそれは叶わぬ夢となってしまった。
入籍した日は両親に吉祥寺の芙葉亭(ふようてい)というフレンチのお店に連れて行ってもらった。井之頭公園の木々に囲まれた小奇麗な古い館のようなお店だ。フレンチにしては比較的リーズナブルな金額と落ち着いた空間も魅力だった。
席についてウェイターに食事を頼みワインを飲みながら話し始めると、祖母が亡くなった悲しさと僕たちが入籍した嬉しさが入り混じり僕の両親とみはるは涙を流した。
母も「みはるちゃんがお嫁さんに来てくれて嬉しい。まるで娘が一人増えたみたい。」と人目をはばからず泣いていた。あまり泣くことがない父親ですら涙していた。
ただ僕は一人だけ祖母の死が受け入れられずに少し浮世離れした気分だった。涙は出ず、感情の整理に追われた。
翌週、祖母の葬式は府中の葬儀場で親族だけで厳かに行われた。前に会った時よりも少し痩せた祖母と再会し、顔を見た。本当にただ眠っているかのような安らかな顔だった。そして、去年まで「てっちゃん、よく来たね。」と嬉しそうに優しく手を握ってきた祖母の笑顔が蘇ってきた。
その時初めて閉じ込められていた感情の蓋が外れた。
目の前がぼやけていくのが分かった。
涙がホロホロと頬を伝い、「ああそうか、もうこの世にはいないんだ。ありがとうって伝えることも出来ないんだ。」祖母の寝ているようにしか見えない安らかな顔を見て、嫌でも実感させられた。
そして、祖母に「ばあちゃん。俺、嫁さん貰って今幸せだよ。結婚式が終わったらまた会いに来るからね。」と伝え最後のお別れをした。
外に出ると暖かな日差しの中、春の匂いと共に新しい生命が顔を出していた。
みはるの妊娠が分かったのは入籍して2ヶ月後のことだった。僕は祖母からのプレゼントだと思った。嬉しさと共に自分が父になるというむずがゆさも感じた。
出産予定日は11月21日。その頃には二人ともお父さんとお母さん。男の子か女の子か、名前は何にするか、どんな子が産まれてくるか、とはしゃいでいたがみはるがふと我に返って言った。
「待って、てつ。結婚式って10月の予定だよね?出産の1ヶ月前だとドレス着れんくない?」
「・・・あっそうか、しまった。まずいな。」
僕は苦虫を噛んだような表情で結婚式までのスケジュールを頭の中で整理していた。