ジジイの絶望
左手に酒、右手にスマホを持って、タバコを咥えながら自転車を漕いでいるジジイとすれ違った。
目の前からくる、その欲望の塊からは、なんの感情も感じず、まるで当たり前のことを当たり前にしているといった感じだった。
ジジイは呆然と立ち尽くす俺に一瞥もせず、
まあまあなスピードで通り過ぎる。
外ですれ違うジジイの多くは絶望と焦燥に満ちている。
新宿、線路下のトンネルで布団にくるまって眠るジジイ
路上に座り焼酎ハイボールに小瓶のウイスキーを入れて飲むジジイ
駅前でずっと何かに怒っているジジイ
夏の暑さに照らされながら、ジジイ達は死んだように眠る。ズボンは半分ずれ落ち、黒くくすんだ陰茎が顕になる。
ジジイの中にはどんな感情が残っているのだろうか、
悲しいか、苦しいか、怒りか、満足か、それとも何もないのか
彼らにとって、俺の絶望や誰かの失恋など、本当に絶望のかけらでもないだろう。
俺はもしかしたらとてつもなく、くだらないことを歌い、くだらないMCをして、
その場しのぎの満足感でくだらない人間と化しているんじゃないだろうか
酒タバコスマホチャリジジイ、路上陰茎露出ジジイ
彼らの絶望を知らないで、俺は何に絶望するのだろう。
そんなことを考えていたら、夕方になっていた。
頭の中がジジイでいっぱいで、今にも爆発しそうで、もしかしたら俺は全く見当違いで意味のない時間を過ごしているかもしれない。
俺の絶望がジジイのそれに達する日が来たら
俺はもう歌なんて歌えないのだろう
そんな日が来ませんように。