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【小説】トワイライトChapter.7

「荻窪さんと笹塚さんに復讐するの?」
私はトワに聞く。
「……。」
トワの返答は無い。
仮にそれをするとして、私に止める権利はあるのだろうか?
すると、トワが私にタバコを1本差し出した。
「1本、付き合えよ。」

気がつくと昼13時を回っていた。タバコを吸い終わるトワが切り出した。
「次は…カナの番だな。」
そうだった、私の生前所縁のある場所……。

私は目を閉じて念じた。

目を開けると、そこは某駅前の大きな公園だった。
ベンチにはランチを勤しむサラリーマンやOLがいた。

その中にふと、1人でサンドイッチを頬張る女性がいた。彼女は、スマホで誰かと話しているようだ。

「ユカ!いい加減にして!カナの事は言わないで!」

私の名前が出たので、トワが目配せをする。
私達は彼女に近づいて盗み聞きしてみた。
「……あの女が悪いのよ…!ワタルくんを奪うような事をしたから…!」

私の頭が割れるように痛い!
ズキズキしている!その場にうずくまった私をトワが気遣う。
「おい、大丈夫か!カナ!」

次の瞬間、場所が変わった。
そこは見覚えのある場所。
例の川から数百メートル上流に位置する場所。
ブロックに整備された歩道と木々が並んでいる。
「ここは…!」
私が声を上げると、トワはある事に気づいた。
「カナ、あれを見ろ。」
彼が指差しているのは、目の前のビルだ。
「俺が勤めていた会社のビルだ。」
「え…?」

すると、私達の目の前には1組のカップルがいた。
女性は以前、私が写っている写メを持っていた女性で、スマホで通話をしている。
「ミツキ、本当にこのままで良いの?あの日、私はあなたを止められなかった…!ううん、ワタルさんも。
だってあなたが…。」
すると、隣の男性が女性の肩に手を置く。
「ユカさん…!」
「良いの、ワタルさん。ミツキ!……え?違う!ワタルさんとはそういう関係じゃなくて!……私の話を聞いて!別にあなたの彼氏じゃないでしょワタルさんは!」

トワは問う。
「カナ、思い出してきた?」
「はっきりとじゃないけど……。」

すると、男性がスマホを女性に寄越すように言い、男性が今度は通話をする。

「ミツキさん。これだけは言っておく。
悪いが、僕はあなたの彼氏になった事は一度もない。
何故なら、君がカナにした事を許せないからだ。」
電話越しに女の反論が聞こえるが内容までは聞こえない。
次の瞬間、男は声を震わせながら

「君が…君が…君がカナを殺したんだ!!」

!!!!!

動悸が起こる、涙が出てきた。倒れそうな私をトワが後ろから支える。
「カナ!しっかりしろ!」
「はぁ…はぁ…はぁ…!」

私は全てを思い出した。

場所は突然変わり、いつもの橋の欄干にいた。
小学生達の下校時間で喧騒に満ちている。
当然私達の身体を擦り抜ける。

「…大丈夫か?カナ…」
「…全部思い出した…」


私は広告代理店のデザイナーをしていたの。
同僚にはユカがいた。仕事は大変だったけど、やりがいもそれなりにあった。
ある日の帰り、私は駅の中の本屋に立ち寄ったの。
懇意にしている画家の特集を組んだ雑誌があって、ふと立ち読みをしていたの。
「あ、江戸川南才…好きなんですか?」
「え?」
突然、知らない男性に話しかけられた。普段なら嫌な気分になるんだけど、その男性は聡明そうな雰囲気を醸していた。
「彼にインタビューしたの、僕なんです。」
「そうなんですか?」
「はい、ほら本文の最後に『インタビュー・住吉ワタル』って書いてある。それ僕の名前です。」
今考えるとナンパされたのかな。
でも、後になって聞くと自分の書いた記事を読んでくれた事が嬉しかったみたい。

名刺を交換して、SNSでやり取りもして食事も行って、
絵画や写真、音楽やマンガの趣味が合っていてね、
好きな話をしている時の彼の目は輝いていて、いつの間にか惹かれていったの。

「おう、良い展開だな。それで?」

それから間もなく私とワタルさんは交際を始めた。

1ヶ月後位かな…?
社内でチームリーダーの清澄ミツキって女性の上司がいて…。彼女も元々同期だったんだけど、管理能力を買われてすぐ上司になったの。それでも私とユカとミツキは同期の縁で、ディナーを共にする事もよくあったんだ。
とあるレストランでその日もディナーをしたの。

「そういえばミツキ、カナに彼氏出来たんだよ?」
「え、マジで?!私聞いてないよ!」
「ちょっとユカ…!ごめん、ミツキも出張とか行っていたでしょ?なかなか言えなくて。」
「ホウレンソウ!ちゃんとして!」
「あはは、ごめんミツキ。」
「それで…写メとか無いの?」
「うん、あるけど…恥ずかしいな…。」
「良いじゃん!見せてよー!」

私はワタルさんとのツーショット写メをミツキに見せると、
彼女の表情が一変した。
「え…ワタルくん…?」
異変に気づいたユカがミツキに
「どうしたの?知ってるの?」
「なんで…なんでワタルくんがカナと付き合ってるの?!」


「お?なんだ?もしかして元彼とかだったのか?」


私も最初はそう思ったんだけど、違うの。
あとでユカから聴いたんだけど、
ミツキは前の会社でワタルさんと同じだったの。彼女はワタルさんにアプローチしたんだけど、彼は拒否したの。


「フラれたのか、そのミツキって子は。」


うん。
でもね、ワタルさんにも後で聞いたら、その後ミツキはワタルさんの評価を下げる様な行為を繰り返していったの。
無理矢理乱暴されたとかありもしない事実を並べて。 

「リベンジ何とかってやつか…怖いな…。」

そもそも、そんな関係にはなっていないんだよ?
結果、ワタルさんはノイローゼになって辞職したの。
その後ミツキも辞職して、今の会社に入った。


「んで、よりによって自分が手にしたかった男が、あろうことか自分の同僚と付き合ってしまった…か。」

そりゃ私だってそんな事があったなんて、知らなかったよ?でもそれ以降、ミツキは私に対して陰湿なイジメを繰り返す様になったの。
そう、私もトワと同じ。
いじめられたの。
ワタルさんとユカだけが味方だった。

そんなある日、突然ミツキから
「ごめん、カナ。あたしどうかしていたの。仲直りしたいから、今日終わったらご飯食べに行かない?」
と言われたの。
ユカには内緒で、と添えられて。

私は仲直りが出来ると思って嬉しかった。
ミツキと私は、さっきのトワのビルの前の歩道を歩いていた。
ミツキが急に立ち止まって
「ねぇ、カナ。」
「ん?なあに?ミツキ。」

「やっぱり、あんたムカつくわ。」
ミツキの表情は般若の様だった。
「ちょっと…!ミツキ!」
「カナ、あんたみたいなノロマが何で!何でワタルさんと!!!」
戸惑う私の一瞬の隙を突いて、ミツキは私を川に落とそうとしたの。もちろん必死に抵抗したんだけど、あんなに力があるとは思わなかった。
抵抗敵わず、私は川に落ちていった。
川底に思い切り頭を打って…
それが私の最期の記憶。


「……。」
トワは静かに聞いていた。
「どうしてこんな目に遭わなきゃならなかったんだろ?」
「お前のせいじゃねぇよ。」
「ワタルさんと付き合わなきゃ良かったのかな?」
トワは私にタバコをよこした。
「理屈じゃあないだろ?人を好きになるのは。」
私がタバコを口にすると、トワは火をつけた。

「さて、ここからだな。俺達は生前の記憶を取り戻した。」
「うん。そして残されたのはあと2日。」
「俺は荻窪と笹塚に復讐する。地獄に落ちても構わねえ。」
「…うん。」
私は、トワを咎める事は出来ない。私も同じ気持ちだからだ。
「カナ、お前はどうする?」
「私?」
「自分を殺した女に復讐するのか、或いは自分を愛した男に想いを伝えるのか。」
「……。」
「決断しろ、どちらにしても俺は背中を押すだけだ。」

もう日が落ちる。

(Continue to Chapter.8)


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