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【小説】トワイライト Final Chapter.カナ

2月14日
16時59分

目を開けると、そこには
ミツキ、ユカ、そしてワタルさんがいた。
2月のこの時間はもう暗闇だ。
「ねぇ!一体誰なの!?こんなメッセよこしたの?」
ミツキが苛立ってスマホの画面をこちらに向けた。

ー ミツキ、ユカ、ワタルさん。
あなた達にもう一度会いたい。〇〇ビルの近くの川が流れる遊歩道で会いましょう、ミツキなら場所…わかるよね?

森下カナ ー

「同じような文面で俺にも送られてきたんだ。一体誰がこんな…。」
「私もよ、本当にカナが…生きていてメッセよこしたのかも…?」
「ユカ、ふざけないで。そんな訳ないじゃない!」

ああ、その文面はたぶん…ハザマさんだ…。
あちゃー…

私は何気なく3人を見渡す。

ユカ。
私の親友。いつも優しくて私の味方だったね。ユカの吸うタバコ、今なら私も吸えるかな?

ミツキ。
気が強くてプライドが高くて、寂しがり屋で負けず嫌い。
仕事出来て羨ましいなぁっていつも思ってた。

ワタルさん。
お互い、変なものが好きでこんなに話が合う人…初めてで嬉しかったな。本当にありがとう。


ふと、私は思う。
10分間だけ生き返る事が出来る。
最期の10分間。今しか…今しか無いんだ。

パン!
目の前のビルの屋上で破裂音がした。
「わっ!」
「きゃっ!」
ワタルさん達は即座に身を屈めた。もちろん私も…。

あの破裂音は何なのか分からないけど、
たぶんそれに関係して、トワは相手と戦っているんだと思う。確信は無いけど、決意の目をしていたんだもの。


私も向き合わなきゃ…!
私は心から念じた。“3人と話がしたい”と。

ジャリ。
私の靴が遊歩道の砂を踏んだ。3人が一斉に私に目を向ける。

「…え?」
ワタルさんが声を漏らす。
「まさか…」
ミツキも声を漏らす。
「カナ…?」
ユカも声を漏らす。

「カナ!!!」
3人の声が合わさる。

ミツキはたじろいでいる。
「どうして……!」
私は時間が無いので簡潔に言う。
「ミツキのSNSにメッセージを送った人がいて。
その人が私を蘇生させたの。ただし、10分間だけ。
時間が無いから、説明してる時間がないの。」
ユカとワタルさんは駆け寄ってきた。
「本当に…カナ…?」
「ユカ、ごめんね。」
ユカは私をキツく抱きしめ泣いていた。

パン!!
上から2発目の破裂音。
咄嗟に私とユカは離れ、伏せた。もちろん、ワタルさんもミツキも。

「あのビルで何が起きてるんだ?!」
ワタルさんが言う。すかさず、私は
「トワが…戦ってる…。」

「は?トワ?」
ワタルさんが目を大きく見開き言う。
「あ…友達。うん…あの世っぽい所で知り合ったの。説明はあとで…。」

バタッ!と大きな尻もちをついたのはミツキだった。
声にならない声をかすかに上げている。
そりゃそうだ、自分が殺した人間が目の前にいるんだから。

私はすくっと立ち上がる。それに応えるようにミツキは両手で後ずさる。
「ミツキ…」
「ひ…ひぃ…」

ミツキは泣きじゃくっている。
化粧がボロボロになっている。

私は両手を差し出し、それもミツキの首に狙いを定めて
また一歩踏み出す。
「カナ…一体なにを?」
ワタルさんの問いをスルーする。

どうして、私が殺されなければいけないのだろう?
復讐してやるんだ。
私が今度はミツキを殺してやるんだ。
今の私は、ある意味無敵の人間。
何も怖くないんだ。

私は両手を差し出し、それもミツキの首に狙いを定めて
また一歩踏み出す。
「こ…来ないで…!ごめん…!」
おそらくそれがミツキの命乞いなのだろう。
「ごめんねミツキ。ドジでのろまで。だから、許せなかったんでしょ?」
「だって…だって…!」

私の心は黒く染まっていく。
もう、ミツキを殺すしかない。
それ以外は何も考えられなかった。


私は両手を差し出し、それもミツキの首に狙いを定めて
また一歩踏み出す。
すると次の瞬間、

パン!!

3回目の破裂音が上から聞こえた。
私はハッと我に返る。

「自分を殺した女に復讐するのか、或いは自分を愛した男に想いを伝えるのか。」

ついさっきのトワの言葉が脳裏をよぎる。
トワは復讐を選んだ。
私は…

私はミツキを絞め殺そうと決めたその両手を下した。
そして屈みこみ、ミツキを抱きしめた。
「?へっ…?」
ミツキは驚きの声を上げた。
「ごめんね、ミツキ。私のせいで…苦しめてごめん。…さようなら。」
ミツキは訳が分からず、失禁し子供のように号泣した。
そして、私はミツキから離れ立ち上がり、ユカとワタルの元に歩みゆく。

それからは何も映らない
光ってる 解ってる トワイライト

私は口ずさんだ。
「何の歌を歌ってるの?」
ユカが怪訝そうに見ていると、ワタルが答える。
「『トワイライト』だ…。Sugar Saltの。生前、俺とよく聞いていた曲なんだ。」

身に覚えがない事くらい
初めから知っていたのさ

私はワタルさんの前に立った。
「ごめん、もう時間がないんだ…」
「え…?」
「もうすぐ私は消える。だから…」

耳を突くようなサイレンと
シャボン玉作る女の子
ホットコーヒー飲み干して
暗い 位 CRY
痛い 位 FLY

「ユカ」
「何?カナ」
「ミツキをお願い…」
「…わかった」
ユカはミツキの元に向かう。

喉が渇いて 僕は立ち止まる
高らかなラッパの声が聞こえた

私とワタルさんは何も言わず互いを抱きしめた。
なんて声をかけていいのか、二人ともわからなかった。
かけたら、きっと私は…。

「…?カナ?」
ワタルさんが声をかける。
私の体がどんどん消えていく。砂のように散っていく。
それでも私達はお互いを離さなかった。
離したくなかった。

17時10分
私の10分が終わりを告げた。
私は静かに消えていった。



目を開けると、トワがいた。
いつもの橋の欄干だ。
「よう。」
心なしか、すっきりしたトワがいた。
「トワ…。」
「へへ、どうだった?女に復讐したのか?男に想いを伝えたのか?」
「…ううん。両方とも違う。でも…後悔はないよ。トワは?」
「俺か?弾丸3発ももらっちまってよ。んでリタイヤだ。ハハ、でも俺も…後悔はもうねぇな。」

気が付くとトワの体が透けている。それだけではない。
私の体も透けている。

「あれ?体が…?」
「そろそろ、答えを決めろってことか。」
「残留か…成仏か…」

私とトワは目を閉じた。

(Continue to epilogue.)






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