【短編脚本】 #3「平和の中で人々は」

【短編脚本#3】十月三週目

「登場人物」
まりん）22歳大学4年
そら）20歳大学2年

2人は大学の同じバンドサークル。
まりんはボーカル、そらがベース。

付き合ってはいないがバンド内でも仲が良い。

昨晩ライブがあって
朝まで飲んだりして時刻は朝7時。
場所は新宿東口。

2人はカラオケから新宿駅に向かう。
サラリーマンの3分の1の速度で2人は歩いていた。

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「バサバサバサッー」

2羽の鳩がまりんの目の前を飛び去った。
「うわあー」と思わず声をあげるまりん。

新宿の朝には、元気な鳩たちが沢山いる。

まりん）ほんとに、鳩ってきもいわー
　　　　なんでこんな鳩いんだよー

そら）仕方ないですよ、東京ですし。

まりん）仕方なくはねーだろ。
　　　　こいつらさ、人間を舐めてんじゃん？

そら）まぁ。

まりん）全然、ビビンないし。
　　　　ギリギリになって飛ぶから羽当たるし。
　　　　それで謝りもしない。
　　　　自分らは人間ごときにビビりませんよ！
　　　　みたいな顔されてもね。

そら）まあ。確かに。
　　　もう人間に慣れましたね。彼ら。
　　　生まれ持って人間は襲わないよって教育
　　　されている鳩もいるかもわからないですね。

まりん）どういう意味よそれ。まあいいけど。
　　　　ほんと、東京...新宿、渋谷、
　　　　鳩が多すぎる。あとは下北か。

そら）確かに。
　　　若い人が沢山いる街には鳩も多いですね。

2人はゆったりと駅までの道のりを進む。
新宿7時15分。
出社前のサラリーマンと朝帰り勢の
人数比が同じくらいになってきた。

そら）まりんさん、
　　　鳩ってどんな意味を表すか知ってますか？

まりん）はあ？鳩の意味？意味なんてある？

そら）花言葉的なことです。
　　　「鳩がいる」こと意味があるんですよ。

まりん）いらないでしょっ。
　　　　知らねーし興味もないわ。

そら）聞いたらびっくりすると思いますよ。

まりん）ふーん、でも、なに？聞いとくよ。

そら）気になってるじゃないですか。

まりん）いや話たそうな顔してるし。
　　　　聞いとかないと鳩にも失礼でしょ？

そら）鳩は… 実は…
 　　「平和の象徴」を意味するらしいですよ。

まりん）お前はばかか。
　　　　なわけねーじゃん。
　　　　これの、どこが平和なんだよ。

そら）マジらしいですよ。平和ですね今日も。
　　　そこら中に鳩がいますからね。

まりん）とんでもない国だな。
　　　　現場を見たことないお偉いさんたちが
　　　　勝手につけたんでしょーね。
　　　　この街を見て、平和の象徴だと
　　　　言える呑気な奴には会ってみたいね。

そら）今のこの光景を見て…
　　　ではないと思いますけど。

まりん）酔っ払って道端で寝る男女、
　　　　ホームレス、タバコの吸い殻に、
　　　　人間が捨てたゴミに、ゲロまで。。
　　　　そこら辺はネズミが走り、
　　　　カラスもゴミをつつく。
　　　　
　　　　女も全く格の低そうなやつらだわなぁ。

そら）ちょっとまりんさん吐き出し過ぎです。
　　　どんだけ新宿に恨みがあるんですか。

まりん）平和とは程遠いよ。
　　　　鳩の意味は「汚い街とそれから人間」
　　　　あとね、私は鳩みたいな
　　　　生き方してる人も大っ嫌いだわ。

そら）鳩みたいな生き方？
　　　賑やかでいいじゃないですか。
　　　生き物たちが活発なのはいいことですよ。

まりん）人のおこぼれもらうような生き方。
　　　　堂々と自分の人生を自分らしく
　　　　歩めと言いたいわ。特に日本男子ね。

そら）なるほど。。
　　　まりんさん、一旦、落ち着きましょう。
　　　コーヒーでも飲みましょ。

2人はカフェに入って朝ごはんを食べることに。
窓際の席に座りサンドイッチを食べながら
外の鳩たちのをぼーっと眺めていた。

そら）でも、まりんさん….焼き鳥好きですよね？

まりん）大好きだよ。いや昨日食ったろ！
　　　　なんで急に、焼き鳥の話？
　　　　今日はバイトだから無理だぞ？

そら）別に行かないっすよ。
　　　ケンタッキーも好きですよね？

まりん）うん、好きだよ。なんだよだから。

そら）飛行機乗りますよね？

まりん）乗るよ。だから何。
　　　　旅行行きたいの？

そら）今日帰ったらあったかい
　　　布団で寝るんですよね？

まりん）寝るよ。眠いよ。夕方からバイトだし。

そら）なるほど。わかりました。

まりん）おい、何がわかったんだよ。
　　　　今日は飲みも飯もいけないぞ笑

そら）そうじゃないですよ。
　　　まりんさん都合よすぎじゃないですか？

まりん）え？あ？は？

そら）自分は好きな時に鶏肉食って。
　　　鳥みたいな乗り物乗って好きなとこ行って。

まりん）あ？何が？なんのこと？

そら）鳩や鳥だけじゃないですよ。
　　　人間は生物界でトップに君臨してて、
　　　動物から恩恵を受けまくってるんですよ。

まりん）ごめん、そら、何を言ってるの？

そら）まりんさんの方ですよ。
　　　まりんは都合が良すぎるんですよ。

まりん）ごめんそら、わかんない。
　　　　どういうこと？鳩の味方なの？
　　　　まだサンドイッチ食ってんだけど。

そら）でも、意味はわかりますよね。

まりん）よくわかんないし、
　　　　それは鳩と関係ないよね？

そら）動物から恩恵を受けているのに
　　　動物のことを悪くいうなって
　　　僕は言いたいんですよ。

　　　人間は本当に好き勝手し放題だ！！

まりん）えっと理解が追いつかない。
　　　　眠くて私頭回ってないだけ？

そらに謎のスイッチが入ったかのように
今まで敬語を使っていた２つ上の先輩に
食ってかかるような勢いである。

まりんはこの状況に整理がついていない。

　　
そら）まりんさんね。
　　　鳩は何食って生きてるか知って
　　　生きてますか？？

まりん）今度は何よ、え、草？幼虫？

そら）なーんもわかってないんですね。
　　　そこに落ちてるもんですよ。

まりん）え、なによ。人間の捨てたゴミ？

そら）違いますよ！
　　　どこ見てるんですか！

　　　人間のげろですよ！

まりん）え、そうなの？うわぁたかってる…！

そら）人間が仲間たちと笑いあって
　　　食った昨晩の幸せなげろですよ。

　　　原型を留めてる食品もあるから
　　　栄養価は高いんでしょうね。

まりん）そうだったんですね。。

そら）人間のげろ食って
　　　鳩は腹満たしてるんですよ。
　　　幸せになるんですよ！！

まりん）…鳩….そうなんか

そら）あんたも一度は街で
　　　吐いたことがあるはずだ。
　　　それをどこかの
　　　鳩が朝食として食ったんだよ。

まりん）あんたって...

そら）あんたは、
　　　恐竜の吐いたゲロを食えますかって。
　　　マンモスの吐いたゲロ食えますかって。

まりん）食えないよ。あんたってさ...

そら）まだだ！

まりん）はい？

そら）この後あったかい布団で寝るんですよね？
　　　中身は羽毛ですよ、鳥の羽なんですよ。

まりん）はい…

そら）空飛んで力つけて大人になって
　　　立派になった羽を
　　　人間が快楽のために使ってるんだよ。

まりん）はい。すいません。

そら）すいませんじゃねーよ。

まりん）は？いい加減にしろ。

そら）まだ終わらない！

まりん）おーい、そらくん？
　　　　もうわかったから、ごめんごめん。
　　　　ハッとしたよ。

そら）つまんねーよ。
　　　つまんねー生き方すんなよ。
　　　こいつらに、罪はあるとまだお思いですか？

まりん）はい...ありません。
　　　　すいませんでした！！

そら）鳩にまず謝れ。動物に感謝しろ。

まりん）はい！！すいません！
　　　　申し訳ありませんでした先輩！！

1分ほど沈黙が続く。
駅の入り口が近づいてきた。
さっきの熱は冷めたようだった。

そら）まりんさん、すいません。
　　　僕、結構熱くなってしまってましたよね…

まりん）うん…全然大丈夫だよ。

そら）ごめんなさい、たまに別の会話中に
　　　意識がなくなってしまう感覚があるんです…

まりん）え、まじ…？
　　　　まあ、鳩のこと悪くいうのはやめるね。

そら）鳩のいる場所には、
　　　人間がいて
　　　会話があって、笑顔がある。
　　　
　　　鳩は「僕たちは平和ですよ」
　　　と教えてくれる
　　　存在なのかもしれないですね。

まりん）そうだね。
　　　　鳩がいなくなったら人間もいなくなって
　　　　しまうのかもしれないのね。
　　　　ありがとう。鳩。感謝してます。

鳩がそらの目の前を飛び立った。


そら）「おい！◯ね！キモいんだよ！」

まりん）えっ...

そら）こいつらまじで◯しょい。

まりん）え...◯っしょ…こっわ…やっば…

2人は改札で別れ別々の電車に乗った。
新宿でも
朝7時半は空気が澄んでいた。

ーーー完ーーー

人それぞれの解釈は違う。
自分の人生は自分で創造する。
価値観を押し付けないこと、
他人の干渉を辞め、期待しすぎないこと。

10月15日
短編脚本「平和の中で」

長谷　鉄