放課後城探部 九の城
歴史っていうのはどうもよくわからない、豊臣さんが作ったお城だと思っていたら実は徳川さんが作ったお城だったと言われると頭がこんがらがってきて歴史が苦手な私には理解がしがたい、西暦何年誰々が何々を倒したら結果誰々が起こって誰々を何々するとか言われてしまうと頭が痛くなってくる。
こういうのが原因で歴史の授業などは話を聞いているだけで眠たくなってしまうのだ。
「なんか複雑な事情があるみたいで・・・歴史って難しいですねえ・・・ははは」
とぽーっと話を聞くしか出来なかった。
そんな私の様子を察して虎口先輩が
「城下さんは歴史の授業が苦手みたいね。」
と気遣ってくれた。
私は首を何度も縦に振る。
虎口先輩は鶏みたいに首を振る私を見て
「うふふ・・・」
と笑うと簡潔に
「この城の天守は何度も焼けて再建しているのよ。」
そう教えてくれた。
「だから”大坂城”をこの場所に作ろうって言って作ったのが豊臣秀吉で豊臣の大坂城が潰れちゃったからその上から土で埋めて作ったのが徳川の大坂城、徳川の大坂城の天守が焼けてその後昭和のはじめになってみんなで募金しあって再建したのが現在の”大阪城”の天守なの。」
虎口先輩の説明は私の中ではまだややこしさはあるけど、なんとか理解できる範囲までなんとか答えのレベルを落としてくれて、それでなんとか私は答えを飲み込むことが出来た。
「じゃあ豊臣さんが作った大阪城はずっと前になくなっていたんですね。」
「もう400年くらい前になくなったんや。」
今度は訪ちゃんが教えてくれた。
「400年前かぁ、途方も無いね。」
遠い過去の出来事が私の心に影響を与えるなんて、なんて凄いことなんだろうと漠然と考えていた。
「途方も無いわね、でも”たった”400年前よ。」
「”たった”って言われると物凄く短く感じてしまうなぁ。昨日の出来事みたいやわ。」
何気ない会話だったがそれが私にとっては革命的だった。
私にとってはとても長い400年なのに二人にとっては”たった”400年。
人間の生涯はとても短い、それでも短い生涯の中で10世代、20世代と継いでいって私達の住む街はとてつもなく姿を変えてしまった。
長い時間だけど街が姿を変えるのはとても短時間だ。
いくら歴史に疎い私でも現代の人間が今みたいな鉄筋の家に住むようになったのはここ100年の出来事だってくらいはわかる。
400年の内の300年ほどは木造の木がむき出しの家に住んでいた人間がたった100年で街の殆どが鉄筋コンクリートでガラス張りのビルをニョキニョキと大量に作って街を埋め尽くしたのだ。
人口だってとてつもなく増えたはず。
そんなアクセルを全開に踏み込んだ車みたいなスピード感覚の中ではお城だって普通は生き残れないはずなんだ。
お城の外はどんどんと時間が流れているのにまるでお城の中だけは時間が止まったように感じる。
そんなタイムマシンのような世界に今私達は存在しているんだ。
そう思うとふつふつとこの不思議な空間のことを深く知りたいという欲求が私の心を支配していた。
「私、二人が羨ましいです。私もお城のこともっと知りたいな。」
私は全然何も知らない知識を二人が持っていると考えるとほんの少し嫉妬心が湧いていた。
「あゆみ姉はむちゃくちゃ簡単に説明してくれたけど、もっと複雑やでぇ、歴史が苦手なさぐみんは覚悟せなあかんでぇ。」
訪ちゃんが私をからかって脅してくる。
「眠たくならないように頑張らなきゃだね。」
私は訪ちゃんの言葉に武者震いがした。
「城下さん、もし良かったらだけど城探部の部員にならない?」
虎口先輩が少しだけ真顔になる。
しろたん部って何だ?
私達の学校にはそんな部活はなかったはずだが・・・
そう悩んでいると訪ちゃんが急に声を出して笑いだした。
「あはは・・・あゆみ姉まだ言ってるんか、あんなんうちらだけの同好会っていうか、二人だけやし帰宅部を誤魔化すために言うてるだけやないんか?同好会の会員増やさんでもうちらいっつもお城で遊んでるやん。」
「あら、一応天護(あまもり)先生って言う立派な顧問がいるのだから城探部は正式に認められているのよ。」
虎口先輩の顔は真剣だ。
「天護先生は同好会の顧問って言う肩書きだけもらって、仕事のフリしてうちらに付いてきて城の近くの和風カフェでパフェとかアイスを食べたいだけやん。」
訪ちゃんは呆れた感じでそういった。
日本史の天護先生って学校ではすごく真面目っぽくて生徒に慕われている女性の先生だけどそんな一面があったのか・・・
「とにかく、私は城下さんを城探部に誘いたいの、訪は嫌なの?」
「嫌なわけ無いやん。部員だろうが部員じゃなかろうがうちはさぐみんといろんなお城に行くだけや。」
訪ちゃんの好意は物凄くありがたいけど、色んな所に行くのはもう確定しているんだね・・・
「なら何も問題ないわ、あとは城下さんの気持ちだけよ。」
虎口先輩は真剣な面持ちで私の目を見てそう言った。
虎口先輩のとてもきれいな瞳に私はまるで吸い込まれそうな感覚に襲われていた。