てっくん

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放課後城探部 二百二十二の城

大阪城の大きな京橋口の直ぐ側に古びた煉瓦の建物が建っていて私は訪ちゃんに従って煉瓦倉庫沿いの門跡を潜ると煉瓦の建物を見上げた。 「なかなかの年代物の建物だね。」 私は訪ちゃんに振り返ると訪ちゃんは 「千貫櫓や乾櫓には負けるけどな。」 と笑うと 「煉瓦の建物は大阪砲兵工廠の残された建物やな。明治時代に作られたらしいで。」 そう説明してくれた。 大阪砲兵工廠・・・ 名前からして当時は大砲などを作っていたのだろう。 それにしても大砲を作るにしては少し狭い気がするな

    • 放課後城探部 二百二十一の城

      図書室で文化祭の題材のお城を決めた私達はお仕事中の巴先輩たちの邪魔にならないように静かに椅子を引いて席を立つとその日は解散と言うことになった。 あゆみ先輩は巴先輩に向けて小さく手を振ると巴先輩もあゆみ先輩に向けて手を振り返した。 二人がお互いに同じクラスの中のいい友達同士なのだということはそんな何気ない仕草で見て取れる。 私の勝手な想像だけどあゆみ先輩と巴先輩が『また後でね。』みたいなアイコンタクトを送っているようなそんな気がした。 図書室のドアを締めると天護先生は私

      • 二百二十の城

        「三好さんの事は今はどうでもいいわ。それよりも文化祭のことよ。彦根城にも言ったしさすがの城下さんも少しはお城に対して知見を広げたでしょうから全員でテーマにする舞台を決めてもらうわよ。」 三好さんのことを聞いていた私の言葉を遮るように天護先生はパンと手を打った。 静かな図書室にパンという音が響くとカウンターに居る富田さんも本を整理している巴先輩もびっくりした顔で私達に注目する。 先生はハッとして恥ずかしそうに周りを見渡すと巴先輩が静かに近づいてきて 「先生、うるさくした

        • 放課後城探部 二百十九の城

          図書室で少し巴先輩と話したり本を読んだりと時間を過ごしているとガラリと図書室の扉が開いた。 あゆみ先輩が天護先生と連れ立ってやってきたのだ。 カウンターで作業していた富田さんはパッと明るい顔になって急に立ち上がって先輩を歓迎しようとしていたが後ろから先生が入ってきたことに気づくとすぐに澄ました顔に戻ってスッと席に座った。 富田さんも流石に先生がいると態度をわきまえるという事なのだろう。 一方巴先輩は自然体に 「あー、あゆちゃん先生とあまちゃん先生やぁ。いらっしゃーい

          放課後城探部 二百十八の城

          彦根城に登城してから2日して私達は放課後、天護先生に職員室に呼び出された。 多分、文化祭のことで呼び出されたに違いない。 私と訪ちゃんは歴史の授業の後に先生に声をかけられてから二人でずっとその話をしていた。 「多分、そろそろどこの縄張りを主題に展示するか決めろということやないかな?」 授業中にコソコソと私に話しかけてくるものだから化学の先生に 「堀江、城下、なにやってんの!?」 となんだか独特な言い回しをしながらチョークで私達の事を鋭く指してクラス中の生徒が先生の

          放課後城探部 二百十八の城

          放課後城探部 二百十七の城

          楽々園を出てすぐ左手の受付にチケットを渡して私達はいよいよ玄宮園に入る。 玄宮園は楽々園のすぐ隣の庭園で楽々玄宮園と呼ばれる大きな大名庭園らしく、楽々園は無料公開されているけど玄宮園は天守とセットで有料公開になっている。 受付の横の細い通路を抜けるとすぐに大きな池があって池のそばには大きな屋敷のようなものが庭園を飾るように置かれていた。 池は城の南側に広がっていて奥には橋が中洲に二本かけられていて通路の左手には楽々園の書院などが広がっていてなんとも言えず贅沢な庭園になっ

          放課後城探部 二百十七の城

          放課後城探部 二百十六の城

          楽々園の開放された御書院を4人で覗き込んでいた。 残念ながら御書院や地獄の間などは入ることが出来ないらしく私達は外から覗き込むことが精一杯だった。 それでも玄関と御書院をつなぐ白板には説明用の掲示物が貼り出されたりしていてそれが時々内部に入場出来る特別拝観の日があることを示唆していた。 奥の部屋には豪華な襖絵などが隙間から見えてそれが内部への期待を余計に高めてくれる。 「はぁ・・・今日が拝観日だったら良かったのになあ・・・」 私はついつい泣き言を言ってしまった。

          放課後城探部 二百十六の城

          放課後城探部 二百十五の城

          楽々園の白漆喰の美しい建物は井伊直興と言う人が作らせたという別荘だった。 楽々園は玄宮園とセットで楽々玄宮園とも言われていて彦根城を訪れた後はほとんどセットで玄宮園を訪れる流れになるのが彦根城観覧のお約束と言ってもいいらしい。 そう天護先生が言っていた。 「この楽々園は元は榊御殿と言って現在の玄関口に相当する部分と奥の御書院部分の表の他に奥が置かれていてかなり広い空間を屋敷にしていたわ。下屋敷とも藩主の隠居所とも言われていたから表御殿と性質的に全く異なる趣味性の強い空間

          放課後城探部 二百十五の城

          放課後城探部 二百十四の城

          登り石垣から山崎曲輪を通ってそろそろ彦根城を半周も歩いただろうと思っていた頃、私達の視線の奥に小さな建物と櫓門跡と思しき石垣が目に見えてくる。 どうやらあの門の跡が彦根城の裏門に当たる黒門らしかった。 「名残惜しいけどようやくね。」 天護先生が少し名残惜しそうにそう言うとあゆみ先輩は 「玄宮園がまだ残っていますよ。」 そう言って彦根城を離れたくない思いでいっぱいの先生を励ます。 「そうね。玄宮園は素晴らしい庭園だからそれはそれで楽しみだけど、やっぱりね。」 先輩

          放課後城探部 二百十四の城

          放課後城探部 二百十三の城

          私達は玄宮園のある黒門に向かうためにもと来た道を歩いて山崎曲輪に差し掛かるところだった。 山崎御門に残された冠木門が少しずつ色づいてきた太陽の光に照らされて私の目にはまるで黄金の門に見えて少し神々しく見える。 周りが木々に囲まれて太陽の光が隠れて影になっているのも山崎御門を印象づけるのを手伝っていてそれが私の目を引いたのだ。 横目で見ながら歩いていると訪ちゃんが 「そんなにあの冠木門が気になるん?」 と声をかけてくる。 「なんか光があたって目立つから・・・」 「

          放課後城探部 二百十三の城

          放課後城探部 二百十二の城

          「彦根城は本当に良いわ・・・」 さっきまで懐かしいものを見るように登り石垣を眺めていた天護先生が急に口を開いたかと思ったら突然そんなことを言った。 「急になんや?」 先生の横にいた訪ちゃんが突然の独り言に驚くと 「良いものは良い!そう言いたいだけよ。」 先生は木々の隙間から漏れてくる光に照らされる石垣を満足気に見つめる。 「突然そんな事独り言で言われてもなんやよう分からんけど、とにかく満足したんやったら良かったわ。」 訪ちゃんは訝しがりながらも先生の何かが晴れた

          放課後城探部 二百十二の城

          放課後城探部 二百十一の城

          山崎曲輪から大手門方面に私達は散歩気分でゆっくりと歩いていた。 少しずつ陽が傾いてきていてもうすぐ冬だということもあってか十四時であるにも関わらず少し傾斜のある光が木々の間からすり抜けていた。 さっきまで山崎曲輪と山崎御門でお城気分を味わったばっかりだったのに少し歩くとまた山奥の自然公園の中を歩いている気になってお城であるにも関わらずハイキングに来たような気分になってくる。 ぽーっと土塁の木々の隙間から漏れる太陽の光を楽しみながら歩いていると訪ちゃんが突然 「これか!

          放課後城探部 二百十一の城

          放課後城探部 二百十の城

          出曲輪から琵琶湖を横目に石段を下るとさっきまで太陽に照らされて明るかった視界が突然鬱蒼とした木に囲まれて雰囲気が一転する。 彦根城の下層部は木々に囲まれて林道まるで林道の中を歩いている気分にさせてくれた。 石段を降りた先はお城の外周部にあたって左手に行けば大手門方面、右手に行けば黒門方面になる。 私達は一旦は大手門方面を目指して歩きだした。 「さっきまでと違って急に木に囲まれて暗くなった気がするわ。」 急な周りの雰囲気の変化に訪ちゃんが戸惑うと天護先生が 「あんた

          放課後城探部 二百十の城

          放課後城探部 二百九の城

          以前に考えた計画だと西の丸三重櫓を見学した後は一度大手門まで戻って外周を黒門まで周回するルートを取ろうという計画を立てていたが先生の方からここまで来たらと言う事で、出曲輪から山崎山道の石段を降って山崎曲輪と西の丸の山腹にある登り石垣を見て黒門に向かうルートに変更することにした。 私達ももと来た道を再び戻るよりはと言うことで誰も反対意見を述べるものはいなかった。 出曲輪に入ってから思っていたことだけど天守から見る琵琶湖の景色よりも出曲輪から見る琵琶湖の景色のほうが視界が広い

          放課後城探部 二百九の城

          放課後城探部 二百八の城

          西の丸三重櫓の勇壮さのおかげでしょんぼりと枝のように折れていた天護先生が元気を取り戻してくれた。 力なく折れたまま先生を引きずるのは大変だから先生の元気を取り戻してくれた西の丸三重櫓の表の顔に密かに感謝した。 私達が立つ西の丸の堀切の前に申し訳程度に置かれた出曲輪から見上げる西の丸三重櫓は天秤櫓みたいに曲輪の正面に構えているわけではなく曲輪の北側の三重櫓に多聞櫓をL字に接続して西の丸を防御している。 「天秤櫓は門として機能していたのに西の丸三重櫓は落とし橋から少しずれて

          放課後城探部 二百八の城

          放課後城探部 二百七の城

          西の丸三重櫓の観覧が出来ずに悲しみの表情を浮かべる天護先生を引きずりながら西の丸の石段を降りると降りた先に大きくて深い堀があってそこに少し狭い橋が掛けられていた。 鐘の丸の廊下橋と比べると搦手の橋らしく簡素な作りの木橋であゆみ先輩が先生を引きずって橋を簡単に渡るものだから私もそれを追って橋を渡ったが歩くたびにギシギシと音がなってまるで恐怖を演出されているような気分になる。 怖いと感じると途端にギシッと言う音が大きく聞こえたような気がして 「きゃっ!こわっ!」 と私はつ

          放課後城探部 二百七の城