放課後城探部 拾参の城

天護先生と部活の話をしたあと、私達はすぐに職員室をあとにして大阪城の天守に向かった。

前回は大手門から天守に向かったが、今回は一番最初に訪ちゃんが肥後石を紹介してくれた京橋口の方から天守を目指すことにした。

京橋口を通ると、目の前の目立つ肥後石を見て訪ちゃんは改めて肥後石の説明をしてくれた。

「肥後石はほんま大きいわあ、昔はこの肥後石が一番大きな石垣石やと言われてたんやけど、今は正確に大きさを測れるようになった結果、桜門の蛸石が大きいって分かったらしいわ。」

「そうなんだ。石垣ことはまだ私はよく分からないけど、この大きさの石は本当に凄いよね。どうやって運んでるのかも謎だね。」

と昨日の私とは違ってお城に関心の生まれた私はポカンとはせずに楽しく訪ちゃんの話を聞くことが出来た。

「大阪城の巨石の殆どは小豆島から運ばれてきてるねん。肥後石も小豆島からやな、蛸石は犬島から運ばれてきてて、両方とも瀬戸内海にある島やねんて。」

まだ大阪に来てから大阪湾にも行ったことのない私は瀬戸内海が四国と中国地方の間にある海だということくらいしか頭になくってピンとこなかったけど、こんな大きな石をお侍さんが寄ってたかって船に載せる姿を想像するとなんとなく滑稽に思えてクスリと笑えてしまった。

「まあいろんな城に行くとこの石の凄さが分かるわ。」

訪ちゃんは出会ったばかりで興奮して鼻息の荒かった昨日と違って、私に合わせて分かりやすくに教えてくれる姿はやっぱりお城のことが大好きなんだなあと感じることが出来た。

京橋口から大阪城の北側を歩くと常に大阪城の天守を望むことが出来た。

大手門から桜門を通り過ぎて天守に向かうと天守の姿はあまり見えなかったのでとても新鮮だった。

特に大阪城の南側は傾斜をあまり感じることなく天守に向かったが、京橋口からの天守はまるで石垣の断崖絶壁に立っているような多重構造で、まるで空の上に立っているように見えて桜門から突然現れる輝く天守とはまた違った楽しみ方が出来た。

「うちはこっちから大阪城に入る方が好きかな。特に極楽橋から天守を望むと橋から直接高い場所にある天守に行けるような気がして凄く格好ええやろ。」

訪ちゃんはなんだか誇らしげにそう言った。

お城って人の心を高揚させる何かを持っているのかもしれない。

私の地元じゃないけれど私もお城の近くに住めてなんだか誇らしい気持ちになった。

極楽橋を渡ると桜門みたいに狭く四角い部屋のような空間を抜けて天守のすぐ下の広い空間に出た。

そこには沢山の石が散りばめられて置かれていた。

「ここは山里丸やな、あそこにおいてある石は石垣にしようとして使われへんかった捨て石やな。残念石って言われとるな。あの石もいろんな大名家の家紋が彫られてて立派なお城の遺構やねんで。」

家紋ってマークのことだよね。わざわざ使うかどうかもわからないような石にマークを彫るなんて凝ったことをするなあと感じていると家紋を指差してくれた。

そこには二重丸みたいなマークが描かれていた。

「この二重丸は熊本の加藤家の家紋やな。」

「二重丸って石に彫るのだったら簡単だ。」

「そやなぁ、まあ意外と簡単な家紋が多いから誰の石か分かるようにするには家紋を彫るのが早かったんやな。」

誰の石って徳川さんのお城だから徳川さんの石じゃないのかな?

そういう疑問がよぎったが、訪ちゃんが

「この辺の詳しい話も結構ややこしくて長くなるから、人待たせるのもなんやし先に天守に行こうや。」

と先導してくれる。

「訪ちゃん昨日と違って凄く落ち着いてるね。」

「まあ昨日はさぐみんと出会ったばっかりで沢山いいところを案内したかったから、ちょっと冷静でなかったかもしれんね。」

「ほんとにちょっとかなぁ?」

「ちょっとに決まっとるやん。」

そう言って二人は笑いあった。

山里丸の少し傾斜のきつい坂を登っているとふと坂の下の石垣に歪な形をした石が見える。

私はなぜだかその石が凄く気になって

「訪ちゃん、大阪城の石は綺麗な加工された石が多いのにあの石だけなんであんなに穴だらけの歪な石なの?」

と指を指して聞いた。

「あれか、あの石は機銃掃射の痕やな。」

訪ちゃんがそう言うと私は「えっ」と小さく驚いて

「戦国時代って機銃とかあったの?すごすぎない?」

と頓珍漢な疑問を投げかけていた。

訪ちゃんはそれを聞いて声を出して笑った。

「さぐみんそれは流石に無いで、太平洋戦争中、大阪に空襲を受けた時に城を含むこの辺の地域一帯が集中的に攻撃されたんや、その時に米軍の戦闘機から受けた機銃掃射がこの石垣に当たって痕になったんや。」

「そっか、怖いね・・・」

私は少し心が痛くなった気がした。

だけど訪ちゃんは

「そうや、石垣には大きな傷跡が残った。そやけど天守は崩れんかった。それが今もあるあの天守や。」

と力強く天守を指差した。

そうか昭和に復元された天守もまた大きな歴史の渦の中で多くの人々の支えとしてずっと生きてきたんだね。

今日も太陽の光に白く照りかえる眩い天守は私にはより輝きをまして見えた気がした。


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