二百二十の城
「三好さんの事は今はどうでもいいわ。それよりも文化祭のことよ。彦根城にも言ったしさすがの城下さんも少しはお城に対して知見を広げたでしょうから全員でテーマにする舞台を決めてもらうわよ。」
三好さんのことを聞いていた私の言葉を遮るように天護先生はパンと手を打った。
静かな図書室にパンという音が響くとカウンターに居る富田さんも本を整理している巴先輩もびっくりした顔で私達に注目する。
先生はハッとして恥ずかしそうに周りを見渡すと巴先輩が静かに近づいてきて
「先生、うるさくしたら、めっ!」
と人差し指を立てて口に当てた。
私達は恥ずかしさでうつむくのだった・・・
巴先輩が作業に戻ってから再び先生が
「ま、まあとにかく文化祭のこと、みんな少しは考えてきたんでしょうね。」
と恥ずかしさを押し殺してそう言うと訪ちゃんが
「この前彦根城をじっくり回ったんやから彦根城でええんやないかな。誰もが知ってるお城の一つやし。ヒコ太郎も可愛かったしな。」
と真っ先に提案する。
ヒコ太郎はびみょうだったけど・・・確かに彦根城の記憶は鮮明で新しい、素晴らしいお城だったし文化祭のテーマとしては最適だろう。
だけど何かが違う、私の心はそう言っていた。
するとあゆみ先輩が
「彦根城、良いと思うわ。申し分ない舞台だと思いますし・・・だけど・・・」
と先輩も違和感を感じているようだった。
「彦根城良いじゃない、他になにかあるのかしら?私は結構今日は早く話がつくんじゃないかと思っていたわよ。」
先生が先輩にそう言うと先輩は
「良いと思うんですけど、でも本当に良いんでしょうか?」
と考え込んでしまった。
「うちはそれでええと思うんやけど・・・むしろそのために行ったようなもんやないんか?」
確かに訪ちゃんの言う通りだ。
私達はそのために彦根城に行ったのだ。
だけど私達の初めての文化祭がそれでも良いのだろうか?
彦根城は素晴らしいお城だけど私は・・・
私は心の中でそんな事を考えていると訪ちゃんがわたしが悩んでいるのを顔色で察して
「さぐみんはどうしたいんや?さぐみんも他のお城がええとおもてるみたいやけど?」
と私に問いかける。
「うーん、彦根城は凄く良いお城だと思うけど、私達の初めての文化祭にはもっとふさわしいお城があるんじゃないかと思うんです。」
私が疑問を呈すると先生が
「なるほどね、第二回や三回なら彦根城で文句ないけど第一回目の三人の文化祭には相応しくないと、そう言うことね。」
と的確に答えを出してくれた。
「はい・・・なんとなくですけど・・・」
おずおずと私がそう言うと訪ちゃんがニッと笑うと
「そっか、その通りかもしれんな。うちら三人で初めての文化祭に挑むんやもんな・・・」
そう言って私の言葉にしみじみと噛みしめるようにそう言ってくれた。
「うん、ごめんね。訪ちゃん・・・」
私はなんだか申し訳なくなってそう言うと訪ちゃんは
「ええんや、そやけどさぐみんがそう言うんやったら、ほとんど決まったようなもんやな。」
とあっけらかんと言うと先輩も訪ちゃんの言葉に答えが出たのか
「訪の言う通りね。私も城下さんのおかげでようやく違和感の理由に気づいたわ。」
と嬉しそうにニコニコと微笑む。
先生も二人が言いたい答えを察すると
「城下さん、二人がこう言っているけどあなたはどこをテーマにしたいか決まっているのよね?」
そう言って私に答えを求めてくれた。
私が初めての文化祭で取り扱いたいお城・・・それは私が何気なく教室の窓際で見つけたお城、そして私達4人が初めて出会ったお城だ。
「大阪城に・・・」
私は意を決してそう言うと訪ちゃんと先輩は二人ほとんど同時に
「決まりやな。」
「決まりね。」
と声を合わせた。
こうして私達の文化祭のテーマは決まったのだった。