放課後城探部 二百七の城
西の丸三重櫓の観覧が出来ずに悲しみの表情を浮かべる天護先生を引きずりながら西の丸の石段を降りると降りた先に大きくて深い堀があってそこに少し狭い橋が掛けられていた。
鐘の丸の廊下橋と比べると搦手の橋らしく簡素な作りの木橋であゆみ先輩が先生を引きずって橋を簡単に渡るものだから私もそれを追って橋を渡ったが歩くたびにギシギシと音がなってまるで恐怖を演出されているような気分になる。
怖いと感じると途端にギシッと言う音が大きく聞こえたような気がして
「きゃっ!こわっ!」
と私はつい声を上げてしまった。
それを見て後ろから訪ちゃんが
「なあなあ、ほら下見てみ、ここの堀切むっちゃ深いで。」
と私の肩を叩いて下を指差した。
木橋と堀の最深部との距離は鐘の丸の大堀切よりも深くて落ちたら確実にこの世とのお別れをしなければならない深さだということはすぐに分かる。
私は訪ちゃんにからかわれると途端に怖くなって訪ちゃんにしがみついてガタガタと子鹿のように震えた。
「ちょ!危ないっ!大丈夫やって!落ちへん落ちへん!」
突然抱きつかれた訪ちゃんが驚いて私をなだめながらなんとか私達は橋を渡りきる。
全長はそんなに長い橋じゃないのに長く感じたのは堀の深さと簡易な橋の作りのおかげだろう。
橋を渡り切ると対岸の曲輪から見る西の丸三重櫓は内側から見たときの質素だけど綺麗な印象と比べると外側から見ると高石垣と深い堀、そして白い壁にたくさん並べられている狭間が勇壮さを演出していて、遠くに見える琵琶湖の景色がより雰囲気を高めて素晴らしいロケーションだ。
先輩は出丸に付くと未だ元気のない先生を無理やり櫓の方向に向きを変えると顔を上げさせて
「ほら、西の丸三重櫓ですよ。」
と先生に櫓を見るように促すと先生は堀の先の櫓を見上げた途端にさっきまでうなだれて折れた枝みたいになっていた体が急にシャキッと伸びて
「素晴らしい櫓ね。」
と突然何事もなかったかのように元の先生に戻った。
その姿を見て訪ちゃんは
「ほんま現金な先生やで・・・」
と呆れて肩をすくめた。
先輩はニコリと笑って
「元気になってよかった。」
といつもの先生に戻って喜んでいるみたいだった。
先輩は先生のことが大好きなので元気のない先生は出来る限り見たくはないのだ。
先生は西の丸三重櫓を見て
「見てご覧なさい、西の丸三重櫓はシンプルで窓のないデザインの内側と沢山の窓や狭間を用意して迫りくる敵を睨みつける勇壮な外側のデザインと2つの顔を持つのが西の丸三重櫓なのよ。」
とさっきまで元気がなかった分饒舌に聞こえてしまう。
先輩は先生がいつものように話す姿を見てニコニコと笑顔で頷いていた。