放課後城探部 五の城

大阪の人通りの多い公園で堀江さんが一人乗り突っ込みで悶えている。

小動物が頭を抱えて悶えている姿を緑茶片手に眺めることができるなんて大阪も悪くないものね。

そう私が東京から来た寂しさから久しぶりに癒されていると、私の後ろから知らない女性の声がする。

「訪(たずね)、あなたこんな所で何悶えてるの?」

私の背後から綺麗なストレートヘアを持つ眼鏡美少女が堀江さんに呆れていた。

堀江さんは美少女の声に気づくと親しげに手を振った。

「あっ、あゆみ姉、こっちやこっち」

「あなた、こんな人通りの多いところで悶えて、こっちやこっちじゃないでしょ。」

嗜めるように言う

「ところで、訪、こちらの女性が城下さん?」

嗜められて顔を膨らませた堀江さんが

「そうや」

と頷いた。

なぜこの美少女が私の名前を知っているかは不思議だった。

少なくともリボンの色が緑色だったので同じ学年ではない。

私たちのリボンは赤色だ。

城跡高校はリボンの色で学年が一目でわかるという仕組みで、1年の時に与えられた色のリボンで3年間を過ごすことになる。

卒業すると3年の色は新入生に与えるというベルトコンベア方式なのだ。

私たちの色が赤色なので、緑だと2年生、一学年上の先輩と言うことになる。

まあ、堀江さんのキャラクターなら誰にでも親しまれそうだし、1年上の先輩に知り合いがいてもおかしくない。

恐らく堀江さんが、私の名前を教えたのだろう。

「初めまして。私、1年2組の城下探美(しろしたさぐみ)と言います。」

「こちらこそ初めまして。私は2年5組、虎口あゆみ(こぐちあゆみ)です。訪がご迷惑おかけして申し訳ありません。」

虎口先輩が丁寧に頭を下げると堀江さんが顔を真っ赤にして

「迷惑なんかかけてないって!」

と反駁した。

「どうせせっかちなあなたの事だから、放課後になったら突然城下さんを連れ出して『どうや!これが大阪城の大手門やっ!』てやっちゃったんでしょ。」

虎口先輩はズバリと堀江さんの行動を言い当てる。

何も言えなくなった堀江さんに虎口先輩は追い打ちをかけるように

「あのね、お城が趣味なんて最近では市民権を得られるようになってきたけど、それでもやっぱりまだまだマニアの領域を出ない趣味なのよ。それを何も詳しくない人に『どや!この肥後石、大阪城は凄いやろ!』とか言っちゃても城好きよりも石好きに間違えられて、今後あなたは石が大好きな変な女子って思われるだけよ。城下さんもあなたの突発的な行動に迷惑だし、あなたも変な人だと思われるだけで、これ誰得なの。」

虎口先輩は堀江さんの声真似をしながらスバズバと鉈のような切れ味で彼女に説教をする。

確かに石マニアだと思ったのは間違ってはいないが

「それは、うーん、まあそうかも知れん・・・けど、ちゃんとお城の事勉強しようと話聞いてくれはるし・・・」

堀江さんはしょんぼりしながら涙目で私に助け舟を求めてくる。

「私、訪ちゃんに色々とお城の事教えてもらって、とても勉強になります。大阪に来たばっかりで全然大阪の事も、お城の事も知識がないし、それにお友達もまだいないから、訪ちゃんに誘われて、とても嬉しいです。」

私は余りにも泣きそうになった堀江さんがかわいそうになって素直に言っていた。

自然と名前呼びしてしまったことに自分でも内心驚いていたが、この状況だと他人行儀に名字で呼ぶよりは効果があるだろうと思って何にも気にならなかった。

私の言葉に虎口先輩も怒りを収めて

「そうだったの、ごめんなさい。この子昼休憩中に嬉しそうに図書室の本を持って、『城下さんっていう転校生がお城が好きそうやから、お友達になるついでに大阪城を案内したるんや!』て息巻いてたから城下さんに迷惑かけてないかと思って。」

虎口先輩の言葉を聞いて、私は堀江さんの放課後の行動をすべて納得した。

彼女は私が図書室で彼女の借りた本を読んでいたのでお城が好きかもしれないと解釈して私を連れ出して友達になろうとしてくれていたのだ。

そう行動を理解すると、突発的な行動に引っ張りまわされるような所は多少あったけれども、それでも彼女の私と友達になろうという思いは素直に嬉しくて、引っ越してきてから友達のいない日々に少なからず寂しい思いをしていた私はちょっと恥ずかしいけど感動で涙が出そうになっていた。

堀江さんは私の言葉で窮地を脱すると泣きながら

「うわーん、さぐみーん!ありがどぉお!だずげでぐれでぇ!」

と涙と鼻水だらけの顔で私に抱き着いてきた。

堀江さんにつられて私もなんだか涙が出てきて。

「こっちこそお友達になってくれてありがとうね・・・訪ちゃん・・・」

大阪最大の観光名所で女子高生二人が泣きじゃくるのを見て虎口先輩も通りすがりの観光客も

『なんだこの変態どもは』

と奇異な目で見るのだった。


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