放課後城探部 拾壱の城
次の日の昼休憩、私は2年5組の前にいた。
緑のリボンと緑のネクタイを締めた学生しかいない教室で赤いリボンの1年生は物凄く目立っていると思う。
そんな先輩たちしかいない空間で教室の扉の前に立つとだんだん気負ってきて体が固くなってしまった。
ガチガチになりながら扉を開けると教室に残った先輩たちが全員私に目を向けた。
『すっ、すみません。』
と心のなかで言いながら私の口から出た言葉は
「たっ!頼もぉおお!」
だった。
すると全員が大笑いして腹を抱えて大笑いした。
私は穴に入りたいほど恥ずかしくなって段々と体が収縮していった気がした。
するとゆるふわパーマの2年生が吹き出すのを堪えながら
「くぷっ・・・ど・・・どのような御用ですか・・・ぷぷっ」
と口を抑えて辛うじて聞いてくれた。
私は顔を真赤にして目に涙を浮かべながら
「あっっ・・・あの、こっ・・・こっ・・・虎口先輩はおられませぬでしょうか?」
するとゆるふわパーマの先輩もついに堪えられなくなり
「ぷはっ、おられませぬかって・・・武士かっ!」
と大阪っ子らしくついでにノリツッコミも入れながら
「歴女のあゆみの後輩らしいわ!あかん!お腹が痛すぎる・・・!」
と机に突っ伏して笑ってしまった。
『じ・・・地獄・・・誰か私を早くここから消して・・・』
私は完全に萎縮して動けなくなってしまった。
そんな泣きそうな状況を助けてくれたのはやっぱり虎口先輩だった。
「城下さん、あなたやっぱり面白い子ね。もう大阪に馴染んでる。私は馴染むのに大分時間がかかったわ。」
そう言って何事もなかったかのように私を教室の外に連れ出してくれた。
あれ以上多くの人に更に恥を晒すのはごめんだったから虎口先輩の導きは本当にありがたかった。
先輩は私を2年と1年を繋ぐ階段の踊り場まで連れて行くと
「あなた、大阪ではボケて笑いを取る子は好かれやすいけど、無理して笑いを取る必要もないのよ。大阪で生まれ育った子にだって恥ずかしがり屋とか笑いに疎い子だって結構多くいるんだから、気負っちゃだめよ。」
先輩も私が気負って無理に笑いを取ろうとしたのだと勘違いして全然違う方向で私を諭してくれた。
『もしかして、先輩って意外に天然ボケなところがあるのかも・・・もうダメ、神様私を許して・・・』
先輩のダメ押しの言葉に半分気を失いエクトプラズムを吐き出しそうになっていると私に一枚の紙を差し出してくれた。
「わざわざ来てくれてありがとうね。あなたにいつでも渡せるように天護先生に入部届を用意してもらったの。」
と微笑んでくれた。
先輩の笑顔でようやく私は気が落ち着いて
「私、いろいろ考えたんですけど、やっぱり先輩に色々とお城のことを教わりたいと思いました。よろしくお願いします!」
と先輩の差し出した入部届を受け取った。
「こちらこそよろしくお願いします。」
と先輩は私の手を取ってそう言ってくれた。
「じゃあ早速なんだけど、放課後訪と一緒に天護先生に挨拶に行ってくれないかしら。その後また大阪城で勉強も兼ねて今後の相談をしましょう。」
といって先輩は教室に帰っていった。
私は先輩の背中を少し追いかけて2年生の廊下で先輩の背中を見送った。
2年5組の教室の前ではゆるふわパーマの先輩が
「たのもおぉおお!」
と私の真似をして遊んでいた。
『頼むから忘れてぇ!神様、私の寿命を5年縮めてもいいから虎口先輩意外の2年5組の全ての生徒の記憶を消し去ってください・・・』
私は一人廊下で悶ていた。
「こっ・・・こっ・・・虎口先輩はおられませぬでしょうか!」
ゆるふわパーマの先輩が迫真のモノマネで笑いを取る。
「千穂ちゃん、私はここにいるわよ。」
虎口先輩はそう言って軽く拳骨を作ってコンと彼女の頭を軽く叩いてくれた。
「痛っ!もお、おもしろいところやったのに。」
千穂ちゃんという名のゆるふわパーマの先輩は小さく頭を擦る。
『本当にありがとうございます先輩』と私が拝んだのも束の間
「あの子、つい最近東京から引っ越してきて必死に大阪に馴染もうとしてるのよ。そんな必死の思いで思いついた渾身の笑いをバカにしないであげて、あの子なら次はもっと自然に笑いが取れるようになるはずだから。」
虎口先輩は千穂ちゃん先輩に間違った方向で諭していた。
『先輩、違います・・・違うんですぅ・・・』
私は心のなかで必死に否定したがその思いは全く届かなかった。
「そうなんや、あの子笑いのセンス絶対あるから!次逢うのほんま楽しみやわ。訪ちゃんもおもしろいけど、あの子は絶対におもしろいで!さすがはあゆみの後輩やな!」
「千穂ちゃんなら分かってくれると思っていたわ。」
虎口先輩は千穂ちゃん先輩に眩いばかりの笑顔を見せてそう言った。
『誰か・・・今すぐ私をこの無限地獄からお救いください・・・』
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