放課後城探部 二百二十一の城

図書室で文化祭の題材のお城を決めた私達はお仕事中の巴先輩たちの邪魔にならないように静かに椅子を引いて席を立つとその日は解散と言うことになった。

あゆみ先輩は巴先輩に向けて小さく手を振ると巴先輩もあゆみ先輩に向けて手を振り返した。

二人がお互いに同じクラスの中のいい友達同士なのだということはそんな何気ない仕草で見て取れる。

私の勝手な想像だけどあゆみ先輩と巴先輩が『また後でね。』みたいなアイコンタクトを送っているようなそんな気がした。

図書室のドアを締めると天護先生は私達に

「準備は放課後に少しずつ進めていきましょう。私達には部室がないから文化祭の準備には小会議室を借りれるように教頭に許可を取るからあなた達も準備しておくのよ。」

先生はそう言って職員室に戻っていった。

「さて、どないしようか?」

先生が廊下の奥に消えるのを確認すると訪ちゃんが私達の目を見てそう言った。

きっと訪ちゃんはお城に行こうと言いたいのだろう。

だけど先輩が残念そうに

「今日は私は無理なの。」

そう言って首を横に振った。

「約束でもあるんか?」

訪ちゃんが聞くと先輩は首を軽く縦に振って

「そうなの、巴ちゃんが委員の仕事が終わったら天満駅のカフェにある美味しいマロンのスイーツを紹介したいんだって。」

先輩は巴先輩の得意げな顔を思い出したのだろうかクスリと笑ってそう言った。

「ほな今日は地下鉄で帰るんか?」

普段は広いお城を歩いて二人で帰っているのだが今日は大阪メトロを使って帰るというのだ。

ちなみに大阪の人の殆どは大阪メトロのことを地下鉄と言うみたいでメトロとは言わないのは、どうやら4年前まで大阪市営地下鉄として営業していたことが理由らしく、まだ大阪メトロという名称がかなり希薄で大人も子供もメトロに変わった今でも地下鉄と言っているのだ。

「残念です。」

私の言葉に先輩は申し訳無さそうに

「ごめんなさいね。二人とも。」

そう言って頭を下げると先輩は再び図書室に入って行った。

先輩が図書室に入るとすぐにガタタと騒がしい音が鳴った後、すぐにドタドタと人が走る音が聴こえたが、恐らくそれは富田さんが嬉しさのあまり先輩を迎える音なんだろうなと想像したが、きっと巴先輩が富田さんを落ち着かせるだろうからと私と訪ちゃんは気にすることなく顔を見合わせて図書室を後にした。

「お城に行くの?」

下駄箱で靴を履き替えながら私は訪ちゃんにそう聞くと訪ちゃんは

「そやで、折角やしさぐみんがまだ行ったことない場所に行こうや。」

「私が行ったことのない場所かぁ・・・」

私が少し考えていると訪ちゃんが

「大阪砲兵工廠の煉瓦の建物とか伏見櫓跡とか玉造口とか、さぐみんが行ったことない場所はたくさんあるで。」

得意げにそう言った。

そう言えば二人でお城に行くのは久しぶりだな・・・

そう考えると初めて訪ちゃんに引っ張られてお城に行った日の事を昨日のことのように思い出すのだ。

あの日も今日みたいに訪ちゃんに下駄箱でどこに行くのか質問したような気がする。

そんな事を思い出すとなんだか物凄く懐かしさがこみ上げてきて楽しい気持ちのはずなのに意味もわからず涙が溢れてくるような、そんな気持ちになってしまった。

「私感傷的すぎるのかな・・・」

小さく呟くと訪ちゃんが目を丸くして「ん?」と不思議そうに振り向いた。

私は恐らく充血しているだろう瞳を靴紐を結ぶふりをして前髪で隠しながら

「なんでもないよ。」

とスンスンと鼻を啜った。

訪ちゃんは頭に?を浮かべながら首を傾げた。

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