放課後城探部 五十四の城

その昔、播磨国の守護の赤松満祐という人がいて足利将軍の義教を暗殺してしまったので幕府に滅ぼされてしまったらしい。

赤松さんが足利将軍を暗殺した理由は猜疑心からくるものだったらしく、人間はただ疑いのみで恐ろしい行動を取ることが出来るのだなと私はただただ物凄い歴史だなと恐れを抱くしか無かった。

一方訪ちゃんは山名宗全という人の名前が出ると少し興奮しがちに目を輝かせていた。

「山名宗全って凄い人なの?」

何も知らない私は質問するしか出来なかった。

「そやな、応仁の乱という事件を語る上でも欠かせん人物やし、殆ど応仁の乱がきっかけで幕府や将軍が軽んじられるようになって、各地で守護大名の権威が薄れて下剋上の道に進むようになったきっかけでもあったから、時代を動かした人物の一人であることは間違いないな。」

訪ちゃんは楽しげに私に教えてくれる。

「その応仁の乱の遠因が嘉吉の乱にあるのよ。赤松満祐が暗殺の謀議を進めていた頃、実は室町幕府は足利義教によって幕府の権威の殆どを取り戻していた。いえ、むしろ強大化させていたかも知れないわ。例えば比叡山、あの平清盛も比叡山の強訴には手を焼いていたけど、歴史上の政権で比叡山の力を取り入れたり屈したりとにかく影響力の大きな勢力だった。足利義教も比叡山との争いになった時に何度か諸大名の進めで和議になったことがあったのだけれど、一度屈したら比叡山はあとからあとからどんどんと譲歩を迫ってきたの。義教は潔癖で、己の正義を貫く性格をしていたわ。逆らうものは絶対に許さない。あまりにも何度も強訴に及ぶ比叡山に怒った義教は比叡山を徹底的に攻撃、麓の坂本の街を焼いて比叡山の物流を遮断。比叡山が飢えて降伏を申し込んでも中々首を縦に振らなかったの。そして最後には首謀者を和議と偽って呼び出してそのまま・・・」

比叡山ってあの有名な比叡山延暦寺だよね。

私はまだ行ったこと無いけどお母さんはお父さんとデートに行ったらしい。

『比叡山はしっとりとしていい場所だったわぁ。お父さんが凄く格好良く見えちゃった。』

とか言っちゃたりして・・・

なんで平気で大切な娘を一人置き去りにして毎週のように夫婦だけでデートに行けるのだろうか?

なんか考えると腹が立ってきた・・・

いや、そんな事よりも比叡山でそんな恐ろしいことが起きていたんだ・・・

「町を焼き払って飢えさせるってなんか・・・すごすぎません?逆らうものは許さないと言うのは性格上仕方ないとしても罪のない麓の街の人まで巻き込むなんて、正義を執行するにしても潔癖すぎて恐ろしいですよ。」

私は月並みに率直な感想を述べる

一方訪ちゃんは別の感想を持っているようだ。

「宗教勢力はなあ・・・比叡山の堕落はひどかったらしいから・・・でも比叡山焼き討ちって言ったら信長やけどその前には足利義教が攻撃してたんやな。」

「比叡山を徹底的に攻撃したのは信長のイメージがあるけど、その先例は足利義教だったのよ。その後、首謀者を謀殺した義教に怒った比叡山の沢山の門徒が抗議のために根本中堂を焼いて焼身自殺するの。あまりにも火の勢いが強かったのか比叡山の殆どのお寺が焼き払われてしまったわ。これを足利義教の比叡山焼き討ちというの。」

「でも足利義教は手を下してないんやろ?」

「でも実質義教が焼いたようなものだわ。それに麓は実際に焼き払っているのだし。義教はこの事件の結末を幕府の意見におもねる僧を天台座主という比叡山の一番偉い地位に着けたの。比叡山の降伏、制圧をやってのけた人は足利義教が初めてよ。ところで訪はもうひとり比叡山を焼き討ちした人物は知ってる?」

突然のクイズに訪ちゃんは

「えっ!」

と声を上げた。

どうやら答えを知らないらしい。

そもそも信長しか焼き討ちしてないと思っていたのだから当然の反応だ。

こう言うとき訪ちゃんは素直に

「うーん、知らん・・・」

とちょっとションボリしてしまう。

訪ちゃんの小さなサイドテールもシュンと萎んだ気がして可愛らしく思えた。

「室町幕府の管領で絶大な力を誇って半将軍と言われた細川政元よ。政元の比叡山焼き討ちは徹底的で、足利義教と政元は殆ど二人で比叡山の文化遺産を消し炭にしたの。だから、信長の比叡山焼き討ちを否定的に捉える人がいたら言ってあげて、先に足利義教と細川政元が殆ど焼き払ってたって。」

先輩はそう言ってニコっと笑った。

笑った笑顔は美人のそれだけど先輩、言葉が怖いよ・・・

「義教はこのくらいの事件は平気でやってのける力量を持っていたから幕府が抱えていた諸問題を次々に解決して義教が暗殺される頃には幕府の力は強大になっていたの。でも幕府は殆ど義教のワンマンになっていたわ。義教を将軍にしてくれた畠山満家も義教が将軍になってしばらくして病で亡くなっていたから体制が固まる前に義教が暗殺された結果、また元の状態に戻ってしまったの。」

先輩はちょっと眉をひそめると少し残念そうな顔をした。

先輩は歴史が大きく動く事件を話すとき少し感情が入っているような気がする。

本当に歴史が好きなのだ。

「そんな不穏な情勢の中とんでもない事件が起きたの、禁閥の変って言う事件で、後南朝の勢力が内裏に乱入して神剣と神璽を強奪して吉野の朝廷に持ち去ってしまうという事件が起きたの。幸い神剣は素早く回収されたのだけれど、神璽はそのまま吉野に・・・これはもうとにかく日本の中世史上の事件の中でどんな重大な事件も霞んで見えるくらいの大事件よ。朝廷の正当性を示す三種の神器の内の2つが強奪されるなんてあってはならないこと。しかも一度は南北朝合一によって南北朝は統一されたはずなのにその末流を名乗るものが吉野で天皇を名乗るものだからもう大変、あわやもう一度日本を二分にする戦いが行われるかも知れないと言うことで朝廷も幕府も恐れおののいたの。」

三種の神器ってあの天皇である証明物だよね。古事記とかの昔の歴史の本に出てきたやつ。

私はてっきり伝説上のものかとばかり思っていたけど本当に存在していたなんて。

私は歴史は全くの無知だが流石に日本人として恥ずかしいと感じてしまう。

「神璽って、八尺瓊勾玉のことなん?」

訪ちゃんの質問に先輩は頷く。

比叡山は焼き払われるし、三種の神器は奪われるし、赤松さんの件を引き金にいろんな事件が起こっていしまったけど、これどこで赤松さんは再興するの?

この流れで赤松さんが再興するならそれは日本史上最大のお家再興劇だよ。

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