放課後城探部 二十六の城

歴史博物館から大手門を眺めた後に見る実物の大手門は想像以上の迫力があって、予備知識を入れたこともあってか今の私には天守と並ぶ大きな施設に見えている。

昨日始めてきた時は圧迫されるなあっていう感覚くらいのものだったのに、この感覚の違いは私はどうやら先輩の術中に陥っているらしい。

「どやどや、上空から大阪城眺めた後に見る大手門は。」

訪ちゃんは私が改めて大手門を見た時の反応が違うことを感じて嬉しそうにしている。

「やっぱり感覚は違うよ。とりあえず今見たらただの歴史公園の門には見えないよね。」

なんだかすぐには大袈裟な態度を取りたくなくって簡単な感想を伝えるに留めたのはニヤニヤと楽しそうにしている訪ちゃんに対するいたずらごころからだった。

「大手門に向かって歩いていると、風格のある門が心象風景を歴史色の染めてくれるの。そうなるとお城に入らずにはいられない感覚になるのよ。それは石垣しか無いお城でもやっぱり同じなの。」

虎口先輩は少しずつ近づいてくる大手門を見つめてそう言ったあと少し道を逸れて私達を手招いた。

「こっちに来て。」

先輩が手を振った先には大手門を眺めるのにちょうど良い広さのスペースが用意されていてそこでは大手門の側に二重の櫓が聳えて見えた。

「私はここから大手門と六番櫓を眺めるのが好きなの。」

そう言って二重の櫓を指差した。

確かに大手門に向かってグーっと伸びる石の橋と大手門、そこからポツンと一つ建つ二重の櫓は今からお城に入るのに気分を盛り上げてくれる効果を持っているように感じた。

「今は大手門から外れて寂しそうにポツンと建っている六番櫓だけど、昔は玉造口から一番、二番、三番、四番、五番、六番、七番櫓を経て大手門まで漆喰の壁で繋がっていたの。私はここでいつもその風景を想像してみるのよ。」

虎口先輩は少し照れくさそうに小さく笑った。

「あの石垣少しずつ4番櫓に向かって少しずつせり出しているでしょ。あれは前面にせり出して行くことで効果的に隙きなく攻撃できるように配置されているのよ。」

先輩は指で七番が在ったであろう位置から少しずつ順番に指で指し示していく、確かに石垣が前にせり出して隙きが無さそうに見える。

「確か明治維新の混乱で燃えたんやったな。あればここの風景もぜんぜん違うもんやったんやろうなぁ・・・」

訪ちゃんも六番櫓を惜しそうに眺めていた。

「四番、五番、七番は明治維新の混乱で焼失して、二番、三番は大阪大空襲で焼失したの。大阪城は特に失火、落雷、空襲で建物が失われてしまう事が多いお城なの、その中で大手門、千貫櫓、一番櫓、六番櫓、乾櫓、焔硝蔵、桜門が残ってくれたのは本当に奇跡ね。」

お城の殆どの遺構が目的外の失火や落雷なんて大阪城は本来の力を見せることが出来ずに多くの建物を失ったんだ。

そう考えると少し切ないようにも思えた。

「本来の目的を果たせずに役割を終わるなんて少し悲しい終わり方ですよね。」

すると虎口先輩は目を丸くした。

「あら、城下さんが言う役割がどう言うものかは分からないけど、もしもお城の役割が防衛だけなら、近世城郭の殆どは本来の目的を果たすことなく、その役割を終わったものばかりなのよ。」

そして悲しそうな顔をして

「白河城、長岡城、若松城は戊辰戦争で明治政府軍に対する防衛のために矢面に立たされたけど戦闘の後はほとんど灰燼に帰して、それは無残な状況になったわ。だから、もしもお城の目的を防衛を完遂することだけに置くならば、それは起きなくてよかった役割と言えるのよ。」

そう言うと先輩は風に乱れた髪を整えた。

そっか、本来の目的ってなるとやっぱり敵の侵入を阻止するのが役割になるんだよね。

お城が役割を果たせずに終わったということは戦争が起きなかったっていうことだ。

それはやっぱり良いことだよね。

私はなんの考えもなくお城が役割を果たせなかったことを悲しいと思ってしまっていたんだ。

そう考えるとやっぱり勉強不足だなあと改めて自覚させられた。

「まあまあ、さぐみんはようやく足を踏み入れたばっかりやからそう考えてしまうのは仕方ないことや。でも実はまだ城は役割を終えてないねんで。」

訪ちゃんは大手門を見つめる。

「現代のお城はな過去を未来に繋ぐという大きな役割があるんやで、それは現代に残されたお城に与えられた最上級の役割やと思うで。」

訪ちゃんの言葉を聞いた瞬間、私の体に電気のようなものが走ったように感じる。

そうだ、お城はまだ役割を終えていないんだ。

お城がこの世界に存在する限り、その役割を果たしてしまうことなんてありえない。

人は今この瞬間にも新たに生まれて、育っていくのだ。

「ごめんなさい。役割を果たしたなんて分かりもせずに言っちゃって・・・」

私は気づいたらお城向かってお辞儀していた。


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