放課後城探部 拾七の城
歴史博物館の内部は間取りが広くとても歩きやすい環境でスクリーンの部屋を抜けると昔の官吏の装束を着た等身大の人形が並べられていて目の前には見晴らしのいい広い窓から外の景観が私達の目の前に現れた。
等身大の人形もすごく目を引くが私はやはり景色に目が行ってしまう。
虎口先輩が私の隣で
「ここからは大阪の南部の景色が見渡せるようになっているわ。」
と言って教えてくれた。
「凄く見晴らしがいいです!」
月並みだけどやっぱり高所からの景色は気持ちのいいものだ。
こういう気持ちのいい景色を眺めてからいい気持ちで歴史の勉強をしようという計らいなのだろうか、毎日この景色を眺めることができる等身大の官吏の人形が羨ましく思えた。
訪ちゃんは官吏の人形を眺めたり案内板を読んだりしている。
私は景色をよく見るために窓の近くに駆け寄っていた。
「遠くの景色もいいけど近くの景色も見て、あそこに公園があるでしょ?あそこは昔とても短期間だったけど一時的に日本の首都だった場所なのよ。」
虎口先輩は博物館から見下ろした場所に見える少し広めの公園を指差してそう教えてくれた。
「あの公園の中心部に置かれている石の基壇があるでしょ?あの基壇は復元なんだけれど昔はあそこに大極殿という宮殿が立っていたと比定されているわ。」
先輩が指差す公園には少し広目の石の基壇が一基置かれているだけで、今のような説明を聞くまでは単なるゆったりした公園というイメージしか持てなかっただろう。
あそこが昔、日本の首都だった時があったんだ・・・
そうきくとただの公園もただの基壇も凄く重々しくて風格のあるものに見えてきた。
「難波宮っていうのよ。大阪城の下にも恐らく難波宮の遺跡が眠っているわ。この歴史博物館の下にも遺跡が眠っていて、今は主要な発掘はおおよそすんでるみたいだけど、今も少しずつ発掘が進んでいるわ。」
そこまで言うと虎口先輩は後ろを振り返って言った。
「あの人形たちは昔あの難波宮にいたであろう大臣や女官を模して作り並べられているの。」
これが虎口先輩のプレゼン力なのだろうか物凄くこの人形たちもこの博物館の展示物の見せ方も手伝って物凄く価値のあるものに見えてきた。
私は人形を見ている訪ちゃんの横に行く
「この人らは納言という官職や、天皇に下からの意見を報告したり、天皇の命令を下に伝える役目の人やな、”なごん”とか”のうげん”とも言うねん。」
「そうなんだね、毎日お仕事大変だね。」
私は納言の人たちが毎日この場所で仕事している姿を想像したら、素直に総口から出ていた。
「なんやそれ?確かに毎日否が応でも仕事させられてるって考えてたら納言の人形も大変やな。」
と訪ちゃんもケタケタと笑ってくれた。
私はまた一つ歴史に対する知識が学べたことで歴史の勉強に対する抵抗が少し薄まったような気がして嬉しい気持ちになっていた。
「少し先に行きましょう。」
先輩は立ち止まらないように簡単に展示物を見学ながら順路通りに先を進んでいく、私も訪ちゃんも同じようにして先輩あとを付いていった。
古代大阪のコーナーを終えると10階から8階に降りるエスカレーターの前で
「ごめんなさい、もう少しゆっくり見たかっただろうけど少し足早に見てしまったわ。」
と虎口先輩は謝ってくれたが、恐らく先輩が見せたいものはここじゃないんだろうと思って私は
「いえ、大丈夫です。先輩のペースに合わせますので。」
と自然に応じていた。
「うち、少し先に行っとくわ。さぐみんも凄いからはよおいでや。」
訪ちゃんは謎の言葉を残し、一足先にエスカレーターに乗るとゆっくりと階下に降りていった。
「あの子せっかちね。」
虎口先輩はそう言うと私を促してエスカレーターに乗った。
エスカレーターがゆっくりと階下に下っていくと訪ちゃんはエスカレーターとエスカレータを繋ぐ少し広い踊り場で窓の外を眺めて立っていた。
訪ちゃんが何を眺めているのか気になって私もエスカレーターから窓の外を覗き込む
「せっ、せせせせせ・・・先輩!こっ、これって!」
私が覗き込んだ窓の外には、一面にお城がまるで大阪の街から浮かび上がったかのように全貌を見渡すことが出来たのだ。
「ビルの上からとは言え天上からお城を眺める景色はどうかしら?」
と言って虎口先輩はニコッと微笑んだ。
私は改めて虎口先輩のプレゼン力は物凄いと感じた瞬間だった。
「とてつもなく格好いいです。なんて言っていいかわからないけど感動しました!」
上空から眺めるお城は間近から眺めるお城とは違ってまた違った感動や驚きを私に与えてくれる。
景色って遠くを見るものだと思っていたけど、近くを見ることで価値を見いだせる景色もあるんだ。
私が与えられた新しい価値観はより深く鮮やかなコントラストとなってお城を鮮明に浮き立たせるのだった。