放課後城探部 二百十八の城
彦根城に登城してから2日して私達は放課後、天護先生に職員室に呼び出された。
多分、文化祭のことで呼び出されたに違いない。
私と訪ちゃんは歴史の授業の後に先生に声をかけられてから二人でずっとその話をしていた。
「多分、そろそろどこの縄張りを主題に展示するか決めろということやないかな?」
授業中にコソコソと私に話しかけてくるものだから化学の先生に
「堀江、城下、なにやってんの!?」
となんだか独特な言い回しをしながらチョークで私達の事を鋭く指してクラス中の生徒が先生の動きにクスクスと口を抑えたくぐもった笑い声が漏れ聞こえてきた。
私はなんだか恥ずかしくなって教科書を立てて顔を隠すくらいしか出来なかった。
一方で訪ちゃんは化学の先生にチョークをおデコにグリグリとされて
「やめてえや!おとんにもグリグリされたことないのに!」
と抵抗していたが
「グリグリして何が悪いんですか!あなたみたいに授業に集中しない子は一人前の大人になれませんよっ!」
と訪ちゃんのおデコは弾かれていた。
訪ちゃんのおデコにチョークの跡が白く残ってなんだかおかしいような痛々しいような。
「むぐぅぅ・・・!」
訪ちゃんはおでこを抑え込むと
「こんなん体罰やん・・・ホンマにひどいわ・・・」
と涙目で小さく呟いた・・・
授業が終わって放課後になると私達は図書室で先輩と待ち合わせしてから職員室に向かうことにした。
図書室では富田さんがなんだか鬱陶しいくらいにこっちを見てきたけど向こうも忙しかったのか特に向こうから声をかけてくることもなくこっちに視線を向けつつもせっせと委員のお仕事をしているようだった。
多分向こうは私達がなにか変なことをしないかと監視しているようだったけど、それを巴先輩のほんわかとした雰囲気が打ち消してくれる。
「今日も遊びに来てくれたんだぁ。あゆちゃん先生はちほちーとお話してたからもうちょっとだけ待ってね。」
巴先輩が柔らかい感じで私達の側にやってきてそう教えてくれた。
「ちほちー・・・?」
私が首を傾げると訪ちゃんが
「千穂ちゃんの事やろ、あゆみ姉は千穂ちゃんとは中学時代からの付き合いやからなぁ。仲がええんや。」
「千穂ちゃん先輩・・・うぐっ!あたまが・・・・!」
何故か私は千穂ちゃんと言う名前を聞いただけで頭痛が走ってしまう。
どうして私はこんな体になってしまったのだろうか・・・
私が頭を抱えたのを見て巴先輩が心配そうな顔で
「大丈夫ぅ?お薬持ってこようか?お母さんの優しさを持つ薬なら常備してるよ?」
と声をかけてくれたが
「大丈夫です・・・一過性のものでして・・・お騒がせしてすみません・・・」
と丁重にお断りした。
「前に2年の教室に行ってからなんか千穂ちゃんが苦手みたいやなぁ。」
訪ちゃんも怪訝な顔をしながら私のことを心配してくれているようだ。
「とにかく、体調を悪くしたらすぐに言うんだよ。我慢は良くないんだからね。」
巴先輩はそう言ってさり気なく私のおデコに手を当てて素早く体温を測って
「熱はなさそうだから大丈夫そうだね。」
と笑って言うと委員の仕事に戻っていった。
「やさしい・・・」
まるでお母さんのようなさりげない優しさは図書室に常備している頭痛薬よりも優しい気がした。
「ほんまやなあ、母に持つなら巴先輩やな。」
私は訪ちゃんの言葉に異論なく、頷いて同意した。