小説の読み方~純文学はネタバレ上等
まえがき
「主人公に感情移入して、ストーリーを把握していく」という読み方だけが小説の読み方ではありません。特に純文学については、主人公との感覚や道徳観にズレがあったり、ストーリーの展開が遅かったりして、読んでいるうちに飽きてしまうということが往々にしてあると思います。
しかしそれで純文学やその他小説を読まないのはもったいない。そこで、この記事では小説の読み方を紹介したいと思います。
純文学はネタバレ上等
ミステリーのネタバレはご法度かもしれませんが、純文学については先にストーリーを知ってから読んでも十分面白い。むしろストーリーを先に把握したほうが読みやすいということのほうが多いでしょう。
これは決して私の個人的な感想ではなく、実際にそのような研究結果があるのです。Psychological Scienceという雑誌に"Story spoilers don't spoil stories"[1]という記事が掲載されました。
図[1]の"Spoiled"はネタバレを受けた被験者、"Unspoiled"はネタバレをされていない被験者を表しています。また”Mean Hedonic Rating”は面白さの被験者平均のことです。
図によると、ネタバレされた被験者のほうが、ネタバレされなかった被験者に比べて、作品(皮肉的なオチがある小説、ミステリー、文芸的な小説の3種類)をより高く評価していることが分かります。
つまりネタバレされたほうが小説をより面白く読めるのです。
そうです、むしろ純文学の面白さはネタバレの先にあるのです。次はその点を掘り下げてみましょう。
*実はさっきの実験結果、ミステリーでもネタバレしたほうが面白く感じたという結果も出ているのですが、世の中なんでも正論を振りかざせば良いわけではありません。ミステリーのネタバレは本当に人を怒らせるのでやめましょう。
ネタバレの先へ
先にストーリーやプロットを知っておくと、細かい点に気を配れるようになります。表現や文体や、キャラクターの細かい造形がわかるのです。次回以降の記事では、
・文章の個性
・文豪の表現力
・本と本のつながり
・著者の人生と重ねる
・歴史的背景というレンズ
・フェミニズム的な読み方
・精神分析的な読み方
・ジェンダー論的な読み方
を紹介していきたいと思います。
しかしこれだけで終わってしまうのも味気ないですから、次回以降の内容をちょっとだけ具体的に紹介します。
一文一文を味わう
小説は決してストーリーのためだけにあるわけではありません。小説には言葉の芸術という側面もあります。その観点から、文章の個性と文豪の表現力について扱いたいと思います。いわゆる文章のテイスティングですね。
本と本のつながり
小説は様々な作品から影響を受けています。そのことをモロに出す作家もいれば、あえて隠しておく作家もいます。村上春樹の作品を例に挙げながら、本と本のつながりを推理していく楽しさをお話ししたいと思います。
背景を考える
時代背景や作家本人の背景を眺めながら、小説を読んでいくということについて語ります。主人公に自分の心情・思想を盛り込んでしまうタイプの作家といえば、三島由紀夫がその代表ということになるでしょう。
様々な読み方
読み手の立場を変えてみながら作品を読んでいきます。読み手によって作品の解釈が変わってくるので、その違いを楽しむことにしましょう。例えば、ジェンダー論的な眼差しで、夏目漱石の『こころ』を読めば、人間関係が少しBLっぽく見える。そのようなことも起きるかもしれません。
まとめ
読書初心者だった私は、文学作品をどう読めばいいのかと、迷うことも多くありました。試験の中でしか小説を読んでこなかったという人も多くいると思います。そしていざ大人になって小説を読んでみると、正解のない読書に不安を覚えるようになるのです。
そのときに「自力で読み切って自分なりの解釈を持たなければならない」という思い込みの罠にかかってしまう。ですが必ずしも一人で読書する必要はないと思います。他人と解釈が似通ってしまっても問題はない。
作家は一人で作品を書いているように見えるけれども、実は文学の巨人の肩の上に乗っている。だから傑作が生まれる。読者も同じことをすればいいのです。読むことを諦めるより、他人を頼ってでも読んだほうがいい。
一人でも多くの読み手が現れることを願っております。
出典
[1] J.D. Leavitt et al., "Story spoilers don't spoil stories", Psychological Science, 22(9), 1152-1154, 2011. DOI: https://doi.org/10.1177/0956797611417007