パリコレをうっかり見てしまった話
※こちらは現在パリでモデルとしての挑戦をしている大森美穂さんのお誕生日祝いのメッセージとして書いた(小嶋美樹さんに書かされた)文章です。エシカルペイフォワードにもよく遊びにきてくれて、先日のエシカルファッションショーも盛り上げてくださり、自身も福祉系の情報発信などを続けてきたエシカルな人のチャレンジを応援するとともに、僕がエシカルファッションに関わり続けている理由にもちらっとつながるので、公開してみます。みほさん、なにやらパリでとても頑張っているそうで、エールとして。
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パリコレを、うっかり見てしまったことがあります。
大学1年生の冬、とても寒い2月のことです。
曇天のパリを旅人としてただひたすらに歩いていると、ふと光とエネルギーに満ちた人だかりが目に入りました。古い建物の中で何かが行われているようです。引き寄せられるように近づいてみましたが、周囲からはわかりません。見れば建物の手前で道が二股に分かれており、一方は坂道になっている。その坂道を上る途中からなら、のぞけるかもしれない。
僕は坂道を上って半ばで立ち止まり、しゃがみこみました。うずくまってのぞけば、建物の大きなガラス扉の中が、見えました。
そこでは、パリコレが行われていました。
ウンガロ(Emanuel Ungaro)のショーでした。真っ白な中にまっすぐなランウェイがあり、そこを華やかな色合いの服を着たモデルが歩いていました。
たくさんの観客や報道陣が見上げるなか、モデルが歩いてきては去り、また歩いてきては去り。まばゆいばかりの光と、刺すように鮮やかな色と、凛としたモデルの立ち姿と。
僕はあっけにとられてしまい、寒さも忘れ、坂道にはいつくばってただ茫然とショーを眺め続けました。
当時の僕は自分の進む道がわからず、かなりの人間不信にも陥っていました。祖父母4人が病気になり相次いで亡くなっていくなか、介護等で実家に戻った両親と離れて一人暮らしとなり、理想としていた学問にも迷いが出て、友人とも上手くいかず。自分が何を背負って生きるのか、誰のために生きるのか、何が好きなのか、何ができるのか、今まで思い込んできたこと達が白紙になって、どうしていいかわからなくなって、どん詰まりになっていました。
一番大好きだった母方の祖父が1月の満月の夜に亡くなった後、もう余命数カ月の祖母に「パリに行ってみたい」と言ったら、行ってみたらいいと言われ、少し旅費を出してもらって、はじめて一人で海外に行きました。1週間ほどの旅でした。
お金もないのでズタボロの服で、1日1食しか食べられず、人間不信のため乗り物に乗れずにすべて歩いて移動していました。パリの街は石畳です。安い革靴で歩き続けると、3日もすれば靴が壊れて、足のマメが破れて血だらけになります。靴底に穴が開き、靴下を血で染めつつ足を引きずりながらも灰色の街を歩いて、歩いて。5日目の日が暮れて、足は限界だしお腹は空き過ぎているし、寒いし、行き倒れてしまいそうな時に出会ったのが、パリコレでした。
これが生命だ、人の創造力だと感じて、その衝撃に全身が震えました。失いかけていた光の道が見えた気がしました。
間違いなく、僕の人生を変えた出来事でした。
大学でファッションについても学ぶのですが、いま一つわからず、胸を焦がすようなこともなかった僕に、「色彩の魔術師」といわれたウンガロのコレクションは圧倒的なまでにファッションの魅力、生きることへの賛歌、クリエイションの意義を教えてくれました。美しさの力を知らせてくれました。
ファッションは、未来を変えられると思いました。
それから何年もたち、自分がエシカルファッションという領域で仕事をし続けることになるとは思いもしなかったのですが、パリコレを見るという経験をしなければ、僕は決して今のような活動はしていません。原点は、あの日のウンガロのショーです。
そして、脳裏に浮かぶのは鮮やかな色合いの服を着て、光のなかを歩いているモデルたちの姿です。
彼女たちがどこの誰だったのかはわかりません。でも人が服を着て、人間のクリエイティビティという美を伝える役割を担ってそこに存在してくれたからこそ、僕は衝撃を受けたのだと思います。
服だけでも、ましてやVRなどでもだめで、モデルという人がそこに存在するからこそ輝く光、鮮やかになる色というのが間違いなくあります。
そんな触媒となれるような人、モデルは、きっと人の想いを受け止められる、無邪気な人が適しているのではないでしょうか。
美穂さんは、そんな人です。
モデルとして、これからどんなお仕事をするのかわかりません。ショーには出ないのかもしれません。でも、寒い冬の夜に坂道にはいつくばってガラス扉の中をのぞきこんでいた僕のように、どこかで誰かが見ていて、そして人生が変わるような経験をしているかもしれない。モデルだからできることが、沢山あるはずです。
ありのままの美穂さんは、さまざまなものの魅力や意義を引き出す触媒になれると思います。そうすることで、人の人生も変えられるかもしれないと思います。気どらずに、無邪気で優しいいままの姿が、大きな力になると思います。
ぜひ楽しんで、いろいろな挑戦をしてきてください。いつも応援しています。お誕生日も、おめでとうございます。