クローゼットの奥にしまっていたクッサイあいつを(ついに)なんとかしなくちゃと腰をあげた話①
10年ほど前の話。父が「お前に託す」と段ボールひと箱を乱暴に送りつけてきた。
そこに入っていたのは、膨大な量の8ミリフィルムだった。
箱のメモ書きを読むに、それは家族の記録映像だった。つまり私の子供の頃の思い出。
フィルムのリールは、小さいものからと大きなものまであって、ざっと計算してみるとなんと15時間分! ビデオやデータじゃなくてフィルムだからね! かさばりかた、えげつなしだからね!
しかも……ん?
す、すっぱい! 凄い刺激臭! なにこれっ!!
調べたら劣化したフィルムからは酢酸臭とかいうものがするんだとか。
やだこれっ! 俺の思い出、やだっ! つか、く、くっさっ!!!
送られて来たばかりだが、今すぐ捨てたい! しかし、私の思い出だけじゃなく、妹の思い出とか母の若かりし頃の記録とかを見ずに捨てるわけには(なんとなく)いかない!
とりあえず私は、段ボールの蓋を閉めた。だって、本当に臭いから。
さて「どうしよう……」
さっさと上映して、脳内に記憶して、必要なものは残して捨ててしまえばいい。うん、それがいい。だが、問題があった。父は映写機を送って来なかった。壊れて捨ててしまったらしいのだ。
「見る方法もない、8ミリだけを、送ってきただと? 嘘だろ……」
今更、8ミリ映写機なんて買いたくないし、置き場もない。そもそも映写機って売ってるの?
調べた。新品は売ってない。中古なら売っているが、「動くかどうかわかりません」的な物が多い。動いても、説明書がなかったり……。
ああ、めんどくさい。
そうだ、確かフィルムの映像をDVDに焼いてくれるサービスがあったはずだ! 私はネットで『8ミリフィルム DVD ダビング』と調べた。DVDに焼いてしまえば映写機を買わなくてもいいし、とにかく楽だ!
えーっと、基本料金3080円。10分で2200円。送られてきたフィルムは15時間分だから……計算すると……20万近くかかる?って、オーイッ! そんな金があるなら、独身時代から使っている冷蔵庫を買い換えたい! 家族四人の生活では小さすぎる冷蔵庫を買い換えたい! アンパ〇マンジュースやプ〇キュアソーセージのせいで、私のビールは、かなり肩身の狭い思いをしているのだ!
仕方がない。ここはやはり中古映写機を買って、中身を確かめ、必要なものはスマホで録画し、妹の思い出は妹に見せればいい……ってめんどくせえ! そんな作業絶対にめんどくせえ!
かなりスムーズに作業したって、15時間より短くなることは絶対にないワケで(早送りとかスキップとかは出来ないからね)しかも8ミリ映写機って確か、超絶面倒な手順を踏まなきゃいけなかったはず。いや、そもそも知らない。上映方法知らないっ!
……そうだ……思い出した……高校時代に映画研究部の作品を見ていた時の事を。
いくつかの作品の中に、コマ撮りのパペットアニメがあった。ストップモーション撮影。それは途方もなく時間がかかる撮影方法。つまり力作だった。だが、その上映中に映写機が目詰りしてしまい、電球の熱でフィルムが焼けてしまったのだ。スクリーンに映った画が、くにゃあと歪んで消えていった。部員たちの「あああああああああ、焼けちゃ、ああああああ」という切ない落胆の声が漏れ聞こえたあの日の事を……。
扱いに慣れているはずの彼らでさえ、映写機のご機嫌を取るのは難しいのだ。いわんや俺をや!(使い方合ってる?)
つまりムリ。絶対にムリ。
そうして私は、ガムテープで段ボールを閉じ、クローゼットの奥の奥にしまったのです。そしてその存在を忘れることにしたんです。そして見事に忘れることに成功したんです。そうして私は、そのクッサイあいつの事を、完全に忘れていたんです。そう、
こんまりメソッドに出会うまでは……。
つづく