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終末の麻雀譚12

荒廃した世界で麻雀に出会った少年少女。
少しずつ考え方やスタイルに差が現れ始めた──

第15話

この日もコジローはリーチを打ちまくり、アガリを重ねていた。

「ちょっと待った!」

またコジローがアガった瞬間、トムが場を止めた。

「なんだよ。俺のアガリはもう見飽きたか?」

「それはそうなんだけど、これさ、さすがにもったいないよね。」

コジローのアガリ形はこうだった。

一二三五五七八九11789  ロン1

「なんかおかしいか?」

「これ何が入ってリーチしたの?宣言牌ドラの⑦なんだけど。」

「なんだったかな…。あ、確か七だな。一応ドラだから大事にしてたし、ちゃんとドラにくっついたら八九って捨てていくつもりだったんだぜ?」

「うん。で、リーチする時の形がこうだよね。」

一二三五五七八九11789⑦  ドラ⑦

トムはコジローの手牌を自分の方に寄せて説明した。

「これさ、ドラを切ってリーチのみにするのもったいなくない?」

「ドラ切らないとリーチできないからしょうがないだろ!」

「でもリーチのみだよ?待ちも別によくないし。」

「実際アガれただろ!それにリーチのみだったのは裏ドラが乗らなかっただけだし!」

「まぁ裏ドラがあるし、絶対ダメだとは言えないけど…ムサシはどう思う?」

「おれ?そうねぇ、やっぱもったいなく感じるなぁ。コジローは夢がないよね。」

「ばっ!俺が一番夢見るし!裏ドラだって夢だし!」

「あ!そうか!」

トムが何かに気づいた。

「僕らが夢を見て大きくアガろうとして時間かけてるから、さっさとテンパイをとるコジローにスピード負けしちゃうんだ!実際リーチされるとまっすぐ行きにくいし。」

「あーそれだ!」
この理由にムサシも納得!

「そういうことだったのね…」
シェリーも理解。

「なるほどなー」
コジローはやっぱり理解してなかった。

「とはいえ、対抗策は今のところ思い付かないけど。」

「トムの鳴きみたいに禁止にするか。」

「リーチ禁止!?それはキツいべ。」

「それはさすがに…。でも忘れてたけどそろそろ鳴いてもいいよね?鳴いていいなら対抗できるかも!」

「お前の軽い鳴きで俺が止められるかな?」
いやお前のリーチも軽いけどな。

「ねぇ脱線してるみたいだけど、トムは何か言いたかったんじゃないの?」
まわりの話に流されず、冷静なのはシェリーの良いところかもしれない。

「あ、そうだそうだ。これさ、五切りってどう思う?」

一二三五五七八九11789⑦  ドラ⑦

「五切りぃ~?」
コジローの顔は歪んでいる。

「だから⑦切らなきゃテンパイじゃないんだって!」

「それはわかってるよ!まだ巡目早いし、この手は可能性を秘めてるでしょ?って言ってんの!」

「可能性だぁ~?リーチしないうちにアガリ牌が出る可能性も秘めてるけどなぁ~?」

「リーチしてアガったところで1000点でしょ!?だったら満貫とか跳満とか見たいよね!?って話!!」
※一飜1000点のルール

「これがどうやったら満貫とか跳満になるんだよ!!裏ドラはそんなに乗らねえぞ!?」

トムとコジローはヒートアップしている。
ムサシはじっと牌姿を見つめていた。

「五切りかぁ…。確かにすごく可能性のある一打だな…。」
ムサシはさっき「もったいない気がする」と言ったものの、どうすれば良いのかはよくわかっていなかった。

「なるほど。俺はトムが言いたいことがわかった。確かに良い一打だ。でも結局そう都合良く引けないのが麻雀だよな。都合良く引けなかった時のことも考えとかないとな。」

コジローが牌姿に目をやる。
「五切りが良い一打?なんで?」

「ひょっとすると倍満になるかもしれんよな。」
ムサシが答えた。

「いいかい?ここから五を切ったとする。するとこうだよね?」
トムが説明しだした。

一二三五七八九11789⑦ 

「コジローはこの牌姿だったら何引いたら嬉しい?」

「あーこれ三色か。まぁ⑧は嬉しいよなぁ、ピンフも付くし。⑨でも嬉しいか。三色確定だもんな。」

「それって何点?」

「それって?⑨引いたら?えーっと、リーチ・三色・ドラ1か。満貫だ。」

「実は純チャンも付いてる。」
ムサシが言った。

「純チャンは3飜だから、跳満だね?ピンフが付くようなら倍満だよコジロー君。」
トムは勝ち誇った顔で言い放った。

「う…。倍満…。確かに…。でも⑧とか⑨を引ければって話だろ?そううまくいくかよ!」

「まぁそうなんだけどね!でもそうなるかもしれない未来を、1000点で潰すのはどうかなぁ?もったいない気がしちゃうよ。」

「ちなみに⑥引きでも嬉しいぜえ?リーチピンフドラ1だ。さらにもっとあるよな?トム。」

「そう!手牌変化は⑦まわりだけじゃないよ!」

「はぁ?さすがにそれ以上はないだろ。」

「わかった!一通ね!」
シェリーが先に気づいた。

「あ!?一通!?あーなるほどな。四か六を引くって寸法か。そううまくいくか?」

「まぁそううまくいかないかもしれない。でも考えてみてよ?嬉しい変化が四六⑥⑧⑨とあるんだよ?なんならドラの⑦でも嬉しい。もっと言うなら⑤引きでもリーチのみよりは高い。それでも即リーチを選ぶかい?」
トムが理論的に畳み掛ける。

「もっと言うなら、その『うまくいかないかもしれないこと』を気合いでなんとかするのがコジローじゃなかったか?ん?」
ムサシの言葉にコジローはハッとした。

「そうだ。俺はなんてことをしていたんだ!最高の形を気合いで目指すのが俺だったのに!!目が覚めたぜよ!俺は打点王になるんや!!」
と、まるで色々考えた上でリーチを打っていたように語るコジローだったが、そもそも手牌変化なんかに気づいていなかったわけで。五の対子に手を掛けるなんて発想、初心者には思い付かないわけで。
そのことに気づいたトム。そのことに気づいたトムの凄さに気づいたムサシ。

みんなはお互いに目を合わせ、小さく頷いた。
これが切磋琢磨か…と。一同はすごい納得感に包まれていた。

しかしこの後コジローが全然アガれなくなったのは言うまでもない話…。

〈現在のみんな〉
トム・・・頭が柔らかい。気付きの先鋒。
ムサシ・・・現状トムほどではないが柔らかい思考ができる。トムの才能に嫉妬気味。
シェリー・・・実は理解力高め。放銃が嫌い。
コジロー・・・愚形即リーチを封印。迷子になる。

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