終末の麻雀譚6
荒廃した世界で麻雀牌を見つけた少年少女。
たんだんと麻雀の仕組みを理解ながらもその世知辛さに直面していた──
第9話
「うっ…うっ…」
ついに声を上げて泣き始めたトム。
困惑の表情のシェリー。
髭はトムの肩を叩いた。
「まぁこれで終わりじゃない。確かに厳しいが、本来なら25000点持ちスタートだからまだ7000点ある。さらに親番も2回ある。最初に18000点無くなったってチャンスはまだまだあるんだ。君なら分かるだろ?もっと言うならこれは練習だ。」
そうだよ。
これは練習なんだから別にいいじゃないか。ムサシやコジローなんかはそう思っていたが…
「でも…僕…なんかすごく悔しくて…」
トムはきっと俺らなんかには自分が負けるはずないと思っていたんだろう。実際ルール把握なんかはトム頼みだし、すでに理解度で差をつけられている感は否めない。
「あと大事なことを伝えておこう」
おっさんは真剣な表情で言った。
「自分がアガった時に、相手が可哀想な感じでも謝ったらダメだ。ホントはアガりたくなかった人からアガったり、安いと思ってたら裏ドラがいっぱい乗って高くなったり色々なことが起こる。それでもアガった人間はゴメンとか謝る必要は全くない。むしろ謝った方が相手に失礼だという感覚を持つことが大事だ。」
仲間同士でも始まってしまえば真剣勝負。下手な手加減や同情は必要ないって訳か。
「負けたやつに同情は必要なし!よし!じゃあ再開しようぜ!トム!泣いてんじゃねえ!悔しかったらやり返してみろ!!」
「うるさい!コジローにやられた訳じゃないや!コジローなんかには…ま…負けないよ!」
漏れ出そうな声を抑えながら、また牌を握り出したトム。
一連のやり取りを見てシェリーもホッと胸を撫で下ろした。
そしていざ再開しようとすると、おっさんが牌山をあらため始めた。
「よし、急ピッチで教えて悪いが、今から麻雀における『役』の説明をしていく。俺も教えるのに慣れてないから解りにくかったらすまんな。」
ついに来たか。
全員でおっさんの手元に集中した。
「まず、役には飜数(ハンすう)という点数みたいなのが決まっていて、だいたい作るのが難しいほど高く設定されている。」
まあ役の強弱は当然あるわな。
「あ、先に数字の数え方というか呼び方?を教えよう。1から9まで順番にいくぞ。1(イー)2(リャン)3(サン)4(スー)5(ウー)6(ロー)7(チー)8(パー)9(キュー)だ。」
※髭の中での正式な呼称です。
「例えばソーズの1ならイーソーという呼び方になる。ピンズの8ならパーピンて具合だ。」
なるほど。イーとかサンとかローとかキューとかはすぐ覚えれそうだな。
「じゃあまずは一飜役(イーハンやく)から。さっきやったリーチ、一発、それにピンフ…」
おっさんはサササっと牌を並べて説明してくる。
一二三③④⑤⑥⑦⑧2245
「例えばこんな形。見て分かる通り、横並びのメンツばかりだ。とりあえず慣れるまでは①横並びばかり②リャンメン待ち。この2つだけ守ればピンフと認定していいだろう。リャンメン待ちってのはこういう両側で待ってる形だな。」
おっさんはスッと牌を入れ替えた。
一二③④⑤⑥⑦⑧22345
「つまり横並びばかりでも、こういう待ちの時はピンフはつかない。」
「じゃあ次、タンヤオ…」
コジローはキョロキョロとみんなの顔を窺った。
いやわかるよコジロー。難しいよな。ピンフ。
ホントは役牌が雀頭だとダメだし、もっとややこしいんだが当然この時は知らない。おっさんもそのことにはあえて触れなかった。
おっさんはまたサササっと牌を入れ替えた。
二三四③④⑤⑥⑦⑧2244
「こういう19字牌が含まれてない形がタンヤオだ。メンツ、待ちの形は何でも良い。」
二三四③④⑤⑥⑦⑧2245
「もしこういう形なら、タンヤオかつピンフも複合している。タンピンってやつだ。」
タンピン…
またじいさんの言葉を思い出す…
ムサシは言った。
「もしかしてその上にメンタンピンってのがあるのか・・・?」
「おお、よく知ってるな。上、というかメンというのは『メンゼンリーチ』つまりリーチのことだな。メンタンピンとはリーチ・タンヤオ・ピンフのことだ。」
だんだんわかってきたぞ…
じいさんが言ってた呪文は役の名前だったんだ…
たしかじいさんは
メンタンピン一発ツモ…なんとか…オモモ…ウララ…
って言ってた。
もうちょっとだ。もうちょっとでサンバイマンの謎が解ける。
ムサシはワクワクしていた。
「次に一盃口(イーペーコー)…」
またおっさんは牌をサササっと入れ替えた。
そこでコジローが
「なぁおっさん!俺、気づいたことがあるんだけど!」
と言い放った。
みんなキョトンとし、おっさんの手は止まった。
「おっさん、さっきからたまに牌の絵を見ないで揃えてないか?もしかして超能力か?」
え・・・全然気がつかなかった。
本当ならとんでもないな。
「あ、いやこれは盲牌だ」
「盲牌?」
「麻雀牌って絵が彫ってあるだろ?だからこうやって指の腹で触ると、直接見なくても何か判るんだよ」
みんな麻雀牌を触ってみた。
全然わからない。
「ほらこれがリャンピン。これが東、九萬…」
一同「すげー!!!!」
「練習すれば誰でも出来るようになる。」
みんな(特に男たち)のテンションは爆上がり。今まで教わったことを全て忘れてしまう勢いだ。
「おい、お前ら。盲牌なんて出来なくても何の問題もない。それより役を覚えなくていいのか?」
「俺は盲牌王を目指す!トム、役はお前に任せた!いや、おぬしを役大臣に任命する!」
コジローの勝手な言い分が炸裂した。すでに王になったかのような言い種だ。
「ははー!お任せあれ」
トムも意外とノリが良かった。
「よし、じゃあ俺は麻雀王を目指すよ。」
ムサシは言った。
「いやそれはズルいだろ!全ての頂点じゃんか。」
「ハハ、でもお前らがもっと麻雀を知っていったら、自ずとタイプは違っていくだろう。意見の食い違いなんかも出て来るかもしれん。しかし自分とは違う意見でも、相手の意見は尊重するべきだな。麻雀に限らず、この世の中大事なことだ。」
「麻雀は人生みたいなもんだな。」
次期盲牌王がキメ顔で言った。
いやそれ俺がさっき言ったやつ!!(言ってはいない)
麻雀王への道はまだまだ険しい…
〈現在の知識〉
ピンフ・・・横並びの一飜役。リャンメンにすべし。
タンヤオ・・・19字牌のない一飜役。やりやすそう。
イーペーコー・・・聞いてない。
盲牌・・・見ずとも判る。男のロマン。
盲牌王・・・盲牌がすごい王様。
麻雀王・・・麻雀に関する全てがすごい王。
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