終末の麻雀譚10
荒廃した世界で麻雀と出会った少年少女。
運命の夜を越え、彼らの麻雀道へようやくその一歩を踏み出す──
これまでのあらすじ
21XX年。人類が文明を失った世界。
主人公のムサシは(自分の周りの)世界に活力を取り戻したいという想いがあった。そして偶然麻雀牌を見つける。初めて見たその立方体に一瞬で心奪われ、老人から得た情報を元に、相棒のコジローと共に麻雀というものを模索する。
麻雀牌を使ったゲームを考案し2人で遊んでいると、いけすかない姉弟が現れる。トムとシェリーだ。
麻雀は4人でするゲームだと考えたムサシは姉弟を受け入れ、4枚麻雀(?)をやっていた。
すると「お前ら麻雀牌でポーカーしてんのか?」と謎の髭男が現れる。どうやらこの男は麻雀を知っているらしい。
時間が無いというこの男に、4人は麻雀を教えてくれと願う。請け負った男は基本から丁寧に教えていく。ムサシたちは自分たちでゲームを考案して遊んでいたのもあってか、飲み込みは早かった。それでも説明は夜中までかかるのだった。
夕食をとりながら髭の男の話を聞いた。どうやら男は麻雀できる人間を探すために、東の方にあるサンシティーという街からやって来たという。
そこには多少電気もあり、人口も増えてきているらしい。なぜそんな所からわざわざ麻雀できる人間を探しに旅してるのかはまだわからないが、もう少し西の方を回った後、またここに戻って来ると約束した。
その時にある程度のレベルまで麻雀が上達していれば、サンシティーに連れて行ってくれることも。
期限は約2ヶ月。一同はサンシティーを目指し、上達することを胸に誓ったのだった。
第13話
朝。
昨日は彼らの麻雀人生において運命的な一日となった。
髭のおっさんが去った後は、自分達で麻雀を研究していかなければならない。4人はさっそく麻雀を始め、出発前の髭に最後のチェックをお願いしていた。
やはり頭では解ったつもりでも実際にやるとミスをする。口頭の説明だけでは理解力に差があるのは当然だった。
それでも、最後まで話を聞いたトムとムサシはその大体を理解していた。
「うん、まぁお前ら二人がしっかり教えてやれば、ちゃんと麻雀として成り立ちそうだな!」
「うん!おじさんありがとう!僕ぜったい強くなってみせるから、必ず迎えに来てよ!」
トムは凄い自信だった。麻雀をやるために生まれてきたような顔つきだった。
「ありがとおっさん!俺が一番強くなるから宜しくな!」
ムサシも負けじと大口を叩いた。
「ふっ。この盲牌王に勝つ気かね。」
コジローはまだよく理解していなかった。
「おじさんありがとう。なんとか頑張ってみるね。」
シェリーは大人の前ではしっかり者だ。トムと離れない為にも頑張らなくてはならない。
「最後にこれだけ伝えておく。麻雀は奥が深いし理不尽なこともよく起こる。答えが見つからないこともあるだろう。そんな時はみんなで意見交換してみるんだ。自分とは違う価値観の者の意見でも、何かに気づくきっかけにはなるものさ。だから他人の意見も大事にするんだ。それと何か良いことに気づいた時は、その事を共有するんだ。強くなりたかったら、みんなにも強くなってもらえ。切磋琢磨してこそ、自分が磨かれていくんだ。」
「わかった。切磋琢磨だな。」
ムサシはビッと親指を立てた。
それを見たおっさんは満足げな顔で皆に背を向けた。
「じゃあなー!頑張れよーー!!!」
おっさんはまた大きな荷物を背負い、西の方へと歩いて行った。
一同はしばらくその後ろ姿に手を振り続けた。
そしてコジローが言った。
「なぁムサシ。切磋琢磨って何だ?」
「…知らね。なんか皆で頑張れ的なやつでしょ。」
「知らねーのにあんなキメ顔で親指立ててたのかよ!」
コジローは爆笑。
「まぁ話が長くなりそうだったからな。はは。」
「ところであのおじさんって名前何だっけ?」
「あー…聞いてないかも。」
「髭でいいんじゃね?」
「いやでも、これからも髭の人現れると思うよ。」
「そっか…じゃあモーさんはどうだ?」
「モーさん?」
「モーパイのおっさん。」
「いいね!それにしよう!!」
おっさんの名前がモーさんに決定した。
「さて、モーさんが戻ってくるまでに俺らは麻雀が強くなってなければならない。ということで早速やろう!麻雀!」
4人はさっきの場所に戻り、再開した。
麻雀の進行に関してはもう全員問題なかった。
トムが早々にチーをした。
「早いな!気合いで揃えようとしないのかよ!」
「コジロー、僕は君のその気合い論を信じていない。おそらくこの『鳴き』に麻雀の上手さが表れる気がしてる。…ポン!」
「ロン!タンヤオだけ!1000点!」
「そんなんやっててもまた18000とか打って泣くぞ。くはは。」
「うるさいなぁ。早く山を積んでよ。」
「トムがなんか一人で早々にアガるから山減ってないじゃん。使ってないとこは崩さなくてよくない?」
手積みだとこういう思考になりがちだ。
「そうだな。めんどくさいし。次の親は使わなかった方から配牌とっていけばいっか。」
本来ダメだよなぁとは思いつつも、そのまま続けることにした。
「チー!」
「またかよ…。ムサシ!なんとか言ってやれよ!」
「んむ…」
「チー!」
「チーチーうるせえなぁ。お!リーチだ!」
「ロン!1000点!」
「きいいいいいいいぃぃぃぃ!!!」
コジローはのたうち回っている。
「トム。お前の戦略はわかった。確かに有効かもしれない。ただ忘れないでくれ。切磋琢磨を。」
「切磋琢磨…。そうだね。ごめん、僕独りよがりだったよ。」
「モーさんも言ってただろ?強くなりたかったら、みんなにも強くなってもらえって。」
「そうだ…。まずはみんなでもっと慣れないとだね!意見交換できるようにならないと!」
「そうだ。だからトム、お前はしばらくチー禁止だ。」
「え…」
「次は鳴かないことのメリットを考えてみろよ。それが切磋琢磨だろ。」
「確かに…切磋琢磨だね。わかった。」
トムはビッと親指を立てた。
「シェリーもコジローもまず慣れるのが大事だが、何かテーマというか目標を持って取り組めば、切磋琢磨に繋がるかもしれない。」
「よし、俺は盲牌でお前らに切磋琢磨するよ。」
コジローが言った。もはや謎の言葉である。
モーさんが去った初日。
さっそくトムは鳴きの優位性をテーマにしてきた。
ムサシもまとめ役が板についてきた。
モーさんは明言してないが、サンシティー行きは一人ないし二人だと思い込んでる少年たち。
彼らの戦いはまだ始まったばかり──
〈現在の知識〉
チー禁止・・・トムに課せられた試練。ポンはしていい。
切磋琢磨・・・彼らの合言葉。皆のために何かをすることだと思っている。
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