終末の麻雀譚8
荒廃した世界で麻雀と出会った少年少女。
上達への道はまだまだこれから──
第11話
「思わないか?それ要らないんだったら俺にくれよ!って」
おっさんは『鳴き』について教え始めた。
「他人が捨てたものをもらう行為を『鳴き』と言う。『仕掛け』と言ったり『喰う』と言ったり、使い分けもするがとりあえず『鳴き』でいこう。」
・麻雀は一つの行為や名称にいくつも呼び方があるから初心者には非常に困る。もちろん教える側も困る。正式名称が一般的ではないケースも沢山あるからだ。
「鳴きには『ポン』『チー』『カン』がある。ポンというのは自分が2枚持ってるものを捨てられた時にそれを3枚にすることだ。わかるか?例えばこう2枚持ってて、これが捨てられると…ポン!と発声して、右側にこう晒す。」
みんな「えっ?」という顔をしていた。
「晒した時は、鳴いた場所の牌を横にする。わかるか?これは対面(トイメン)からだから、真ん中を横にする。上家(カミチャ)だったら左側。下家(シモチャ)だったら右側だ。」
「え?なに?トイメ?カミ?シモ?」
コジローが言った。
「トイメンとは対面、正面の相手の事だな。カミチャシモチャってのは、まぁ川の流れなんかと一緒で麻雀も上から下へ流れる。つまり自分の左側が上にあたり、右側が下にあたるってことだ。ちなみに『チー』は上家からしかできない。ポンはどこからでも出来る。」
「それはなぜ?」
ムサシも問う。
「チーをどこからでもOKにしちゃうと、一人の捨てた牌に対して、3人がチー!と発声するケースが出てくるからなー。その時誰が有効なのか?早いもの勝ち?とか問題が出てくるからかな。でも言ってしまえば結局『そういうルールだから』ってことになるが。ちなみにポン!と2人以上が言うことはない。これは麻雀牌が4枚しかないからだな。」
「でもポンとチーは同時に言われる可能性あるよね?」
トムの質問。
「それはある。その場合はポンを優先としている。チーしようとしてポンされるのも痛いが、チーにはまだチャンスあるしな。でもまぁこれもルールだな。」
※髭の思う公式ルールです。
「あともう1つあったよね?カン?だっけ?」
シェリーも質問する。
全員が麻雀を覚えようと熱意を持っているこの空気感はとても良かった。髭は妙な安心感と期待感を持った。
「カンは扱い的にはポンと一緒だ。チーより優先されるし、どこからでも出来る。違うのは枚数だ。カンとは4枚揃えることなんだ。」
4枚…?どういうことだ…?
メンツって3枚なんだろ?どう帳尻合わせるんだ?
さっき教わったチートイツにもならなそうだし…
「不思議そうな顔をしてるな?ご心配の通り、4枚揃えることで全体の枚数がおかしくなります。そこで登場するのが嶺上牌でございます。」
おっさんはドラ表示牌の横の方をチョンチョンと指さした。
「えーっと…ここは確か王牌(ワンパイ)?だったよね?必ず14枚残すとかいう…。」
まったく、トムの記憶力の良さったら。
「そう。なぜドラ表示牌が3番目の所にあるのか、その謎が解ける瞬間だ。よく聞け。鳴きというのは他人の捨て牌をツモるようなものだから、鳴いたあとは必ず自分が捨てなければならない。ツモって切る。これ常識。」
これに関しては皆理解できる。
「しかしカンして何かを捨てると、実は自分の手牌は1枚足りなくなる。やってみ?」
みんなテキトーに並べた13枚の手牌から、大明槓して1枚切ってみた。
「9枚になる…」
「9枚ってアガれないんだっけ?」
「9枚ならメンツ3つ出来るからアガれそうだけど。」
「いや、そこに1枚ツモらなきゃいけないからやっぱりおかしい気がする…。」
自然とみんなで相談するような形ができている。良い傾向だ。
「鳴いて手牌が少なくなろうが、4メンツ1雀頭というアガリ形は変わらない。カンをすることで1枚少なくなるのなら、足せばいい。カンした後は、この『嶺上牌(リンシャンパイ)』を1枚ツモる。これを取り忘れると少牌になってアガれなくなるから注意だ。」
「そこから取るとワンパイは13枚になる?」
「いや、その分海底牌がズレる。」
「海底牌(ハイテイハイ)…って最後の牌だったよね?海の底だって。」
「それに対して嶺上牌ってのは山の上の牌だな。山が削れると海が浅くなる。とでも言うか、ワンパイは常に14枚残しとなる。」
「そしてその嶺上牌ってやつをツモってから1枚切ることで枚数が合うっていう寸法か。なるほど。」
ムサシも計算は苦手ではない。
「山は何回削ってもいいのか?」
コジローがすでに削りたがっていた。
「まぁ見ての通り4回までとなってるな。だからドラ表示は3番目を捲ることとなる。」
「じゃあ5番目を捲ることにすれば8回出来るってわけだな?」
やはりコジローは削りたがっている。
「理論上はそうだが…。一般的には4回だな。それにカンが入ると新ドラを捲ることになる。うん、そうだ。8回もカンしてたら18枚残しになっちまうな。ははは。」
「新ドラ…?」
「カンが入るごとに最初の表示牌の隣を捲っていくんだ。もちろんそれもドラになる。」
え…?
「つまり表示牌は最高で5枚になるわけだ。」
ええええ!?
「なにそれめっちゃ楽しいじゃん!!」
コジローは大興奮。嫌な予感しかしない。
「しかもリーチしてアガるとその裏ドラも全て見れる。」
「うおおおおお!!決めた!俺、出来るやつ全部カンしてリーチするわ!!!ドラ山削り王に俺はなる!!つって!!」
コジローはテンションMAX。
あなたはなぜカンをするんですか?
と問われれば、「そこに山があるから」と答えかねない勢いだ。
しかし
「それは出来ない。実は鳴くとリーチが出来ないんだ。もっと言うと、鳴いてアガるには役が必要だ。」
「え、でも鳴いてなくても役って必要だよね?」
「そうだが、鳴いてなければリーチも出来るし、ツモのみでもアガれる。さらに鳴いてしまうと役が無くなったり、安くなったりする。これからそれを説明しようと思う。」
「どうりでおかしいと思ったんだよねー。そういう制限がないと、鳴きが便利すぎるもんね。こんな便利な事をなんで最初に教えてくれなかったんだろ?って思ってた。」
というトムの意見にはみんな同意だった。
全部ポンチーすれば簡単にアガれるじゃん!と思っていたんだ。
「と、その前にだな。カンについてもう少し説明しよう。実はカンには3種類ある。暗(アン)カン、明(ミン)カン、加(カ)カンだ。」
「さっき鳴きのところで説明したカンは明カン。これはもう大丈夫だな?ポンをした後にその牌を追加でカンするのが加カン。そして鳴かずに自分で4枚集めるのが暗カンだ。なんとこれはリーチが出来る。鳴いてないからな。」
「さっき教わった暗刻(アンコー)とかとも関係がありそうだね。」
さすが役大臣。ちゃんと覚えてます。
「そう。手の内で3枚揃えるのが暗刻だったよな?要は手の内=他人に見えない=隠れてる=暗。鳴いて晒す=皆に見える=明。となる。だからポンした刻子(コーツ)だって明刻(ミンコー)と言う。あんまり使わないけどな。」※刻子…同じ3枚の組合せ
「てことはチーした順子(シュンツ)は明順(ミンシュン)だね!」※順子…3枚並びの組合せ
トムがドヤ顔で言った。喰い気味に言った。教わる前に僕気付きましたよ的な感じで言った。
「え~…まぁ確かに法則的にはそうだけど~。言わないな~。聞いたことないな~。暗順も明順も。」
髭は半笑いだった。なんかおかしなことを言ってしまったんだろうか。
「そうなんだ…」
トムはがっかり。
「でも考えてみたらこれから教えようと思ってる『喰い下がり』は、明順が絡むやつばかりだな!今まで気づかなかったわ!ありがとう!明順!」
なんか自分の手柄みたいでトムは嬉しくなった。
そしてこう思った。
髭、明順気に入っとるやん!
〈現在の知識〉
鳴き・・・ポンとチーとカンがあります。鳴いたらリーチできない。役が必要。
ポン・・・どこからでも出来る。チーより優先。
チー・・・上家からしか出来ない。
カン・・・暗カン、明カン、加カンがあり、どれでもドラが増える。お祭り。わっしょい!
喰い下がり・・・まだわからないが、出来ることなら喰い下がっていきたいものだ。
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