終末の麻雀譚9
荒廃した世界で麻雀に出会った少年少女。
決意の夜は更けてゆく──
第12話
「さて、鳴きについて教えたことで説明できる役が増えました。」
髭は仕切り直すように丁寧にしゃべり始めた。
「まず嶺上開花(リンシャンカイホウ)。これはさっき説明した、カンしてからの嶺上牌でツモアガることだ。」
「そんな特典もあるのか。やっぱりカンは魅力的だな~」
コジローは目を輝かせている。
「でも多分だけど、そんなにカンってできないぜ?一人で4枚揃えなきゃいけないんだから。」
ムサシはカンに対して懐疑的だし、コジローにむやみにカンして欲しくないな~、と思っていた。
「でも誰かが捨てたやつでカンできればいいから3枚持ってればいいよな?3枚なら気合いでなんとかなるだろ。」
気合い論を出されるとムサシは何も返せなかった。
「このままカン絡みで説明すると、搶槓(チャンカン)というのがある。これは、加カンした牌でロンすることだ。」
「…ふーん。やっぱりカンって結構デメリットあるなぁ」
トムもカンには慎重な意見だ。
「だって加カンしてロンされたら、役が付く上に新ドラも見れるんでしょ?」
「いや、チャンカンの場合は新ドラは捲らない。カンするのを阻止してるイメージだな。ちなみに暗カンに対してはロンできない。」
「あーなるほどー。…あ、そうか。加カンできる牌を加カンせずに捨ててもロンされるわけだ。じゃあ加カンしちゃうか…。リンシャンカイホウってのが出来るかもしれないし。」
「そうだな。カンで大事なのはタイミングだ。自分がテンパイならカンした方が良いケースが多いし、カンすることで他の人よりも早くツモ番が来るという意味では、テンパイ前にカンすることも有効だ。」
「つまり出来る時は全部カンだな!!!」
コジローうるさいよ。
「まぁスタイルは人それぞれだが、カンはデメリットも多いからそれは把握しとかないとな。一応三槓子(サンカンツ)という役もある。」
「サンカンツ…3つカンすれば成立ね。」
シェリー同様、これは皆すぐに理解した。
「そう。それと四槓子(スーカンツ)というのもある。これは役満だ。…伝説のな。」
伝説・・・!!!
伝説という響きに一同は心動かされたが、考えてみればこの少年たちにとっては全てが伝説のものだった。
これは伝説の麻雀の話である。
「4メンツ全てをカンか…。確かに難しそうだね。待ちも単騎待ちになるだろうし。同じ役満なら四暗刻(スーアンコー)の方が断然出来そうだ。確か役満って全部同じ点数だったよね?」
「そう。全部一緒だ。でも難しさは全然違う。出来やすい役満は四暗刻、大三元、国士無双だな。さっきは説明しなかったが、大三元や字一色などは鳴いててもOKだ。喰い下がりもない。」
「そうだ、喰い下がり?それなんなのさ。」
「喰い下がりとは、鳴くことで役の価値が下がる事だ。例えば二飜役の三色同順は喰い下がり一飜となる。」
「それって例えば三色部分とは関係ないメンツを鳴いてても下がる?」
「下がる」
「鳴くたびに下がる?」
「それはない。1つ鳴こうが4つ鳴こうが一緒だ。」
なるほど。鳴きにもメリットデメリットは当然あるということか。安くなってもいいから早くアガリに向かうか、あくまで高さにこだわるか。…面白い。
「他にはチャンタ、純チャン、一気通貫、ホンイツ、チンイツ…。どれも鳴くと一飜下がる。」
「もともと一飜のピンフとかタンヤオとかは?」
「タンヤオは鳴いてもOKだが、ピンフは鳴くと無くなってしまう。他に一盃口(イーペーコー)もそう。無くなる。もちろん一盃口部分じゃない所を鳴いても…」
その時、コジローが大きなあくびをした。
「ふぁ~あぅ…。なんか眠くなってきたな…」
確かに辺りはもう真っ暗。いい時間になっていた。
「でも寝る前にこれだけは言っておくぜ!鳴いて役が無くなったり安くなるんなら、俺は鳴かないぜ!気合いで揃えてみせる!」
眠たそうな顔でコジローはビシッと宣言した。
「あれ?でもカンはするんじゃなかった?」
「カンはする!だってカンは高くなるし!気合いでドラを乗せまくるし!」
ムサシの問いに即答のコジロー。恐ろしい。
「まあまあ、明日から実際に色々試してみるがいいさ。じゃあそろそろ寝ようか。」
「僕はまだ眠くないからもうちょっと詳しく聞いておきたい。」
トムは言った。やる気だ。
「俺ももうちょっと聞いとこう。」
ムサシも負けてられない。
「アタシは寝るわね。明日詳しく教えてね。」
シェリーがそう言う頃にはコジローはすでに寝ていた。
「そういえば明日はすぐに出発するの?」
トムが髭に問う。
「そうだなぁ。まぁお前らがちゃんとやれるか一回見てから出発するかな。」
「わかった。じゃあもっと聞かせて。麻雀の話。」
「よし、じゃあさっきの続きだが、鳴いてない状態のことを門前(メンゼン)と言ってだな──」
ムサシとトムは夜中まで麻雀の話を聞いた。
髭も二人に応えるべく、今思い付く限りの事を説明した。
明日になれば自分達だけで上達への道を歩まなければならない。
二人は同じ事を考えていた。
絶対自分が一番上手くなるんだ──
〈現在の知識〉
四槓子・・・伝説の役満。と言われても全然ピンとこない。
喰い下がり・・・鳴いて一飜下がること。
門前・・・鳴いてない状態。高くなる可能性を秘めている。
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