ONE Championship、2021年度に1億1000万ドルの損失を計上、累積損失は3億8300万ドルに

強気の大言壮語とは裏腹に、ONE Championshipの赤字は驚くべきスピードで増え続けている。

ここ数年、Bloody ElbowはONE ChampionshipがACRA(シンガポールの証券取引委員会機関)に提出した年次財務報告書を入手してきた。2020年度に4800万ドルの損失を計上した際、ONE Championshipのチャトリ・シットヨートンCEOは、これをフェイクニュースだと一蹴した。

シットヨートンは2021年9月に「インターネットは危険な場所だ。書いてあること全部を信じてはいけない」と語っている。「不正確なこと、間違いが山ほどある。それも1つや2つじゃない。こんなものは取り上げるほどのことではない。時間をかけて真実が明らかになってくることだろう」

あれから1年、ONE Championshipの親会社であるグループ・ワン・ホールディングスは再び、ACRAに最新の財務報告書を提出した。Bloody Elbowがこの書類を入手したところ、2020年の巨額損失に間違いがなかったことが再確認できただけでなく、2021年には損失額が2倍以上に膨らんでいることが判明した。

結論から言えば、2021年のONEの損失は1億1100万ドル(約156億円)であった。この巨額損失により、ONEの累積損失は2021年12月31日現在で3億8300万ドル(約537億円)に達している。

(訳注: 金額単位は米ドル。併記した日本円は、1ドル140円で換算した)

損益計算書

ONEは、この年の「マーケティング費用」として5600万ドル(78億円)、「管理費およびその他の費用」として5000万ドル(70億円)を計上した。

この最新の年次申告書は2022年8月8日には、チャトリ・トリシリピサル(シットヨートン)とテー・フア・フォンの2人の取締役と、公認会計事務所アーンスト&ヤングの署名が入っている。

売上は増加したのか?

ONEは、今年の売上を6770万ドル(95億円)とした。これは2020年の5680万ドル(80億円)から19%増となっている。売上の大半は放送権によるもので、2021年の放送権売上は5000万ドル(70億円)以上となり、前年の4700万ドル(66億円)からわずかに増加した。

ONEの2番目に大きな収入源はスポンサー収入で、2021年の総額は920万ドル(13億円)で、710万ドル(10億円)だった2020年から30%近く増加した。デジタルプラットフォーム収入も注目すべきもので、2020年の175万ドル(2.5億円)から2021年には700万ドル(9.8億円)にまで大きく伸びた。

しかし、ONEが依然として売上の一部に非現金要素を含んでいることは注目に値する。ONEの2021年の財務成績を最初に報道したDeal Street Asiaは、ONEの2021年の売上の97%以上(6620万ドル)が非現金要素(将来にわたって順次引き渡される商品またはサービス)で構成されていると指摘している。

グループ売上高

昨年度の財務諸表をご覧になった方は、昨年度報告された内容と、今回の新たな提出書類で示された2020年度の内容が違っていることにお気づきかもしれない。ONEは、「特定の契約に関する非現金価値を決定する際の見積りアプローチ」を再検討した結果、放送権収入とマーケティング費用を再修正したのである。

これにより2020年の放送収入は860万ドル増加したが、マーケティング費用も880万ドル増加したため、ほぼ相殺された。こうした表示方法を修正は、彼らの売上のうち、どれだけが現金取引によるもので、どれだけがバーター取引によるものなのかという点についての疑念を呼び起こす。

ONEは過去にバーター取引を使って、明らかに収入を膨らませていた。Bloody Elbowなどが彼らの財務について報告し始めた2018年から、ONEはこのバーター取引という表示を排除し、放送収入やスポンサー収入の中にバーター取引を混ぜ込むようになった。

(訳注:ONEのバーター取引とは、例えばテレビ局との間で、ONEがCMを出稿するかわりにテレビ局に大会の放送権を買わせ、広告料と放送権料を現金のやり取りではなく物々交換の形で取引する形態をさす。ここで問題視されているのは、実際には現金の収入や支出がなかったのに、あたかもあったかのように仮定した金額が開示されていることである)

ONEは最新の提出書類で、「当グループは、放送及びスポンサーシップ収入について、現金収入及び非現金収入を認識している」と記している。

「受け取った非現金収入の公正価値は、契約開始時にスポンサーパートナーから提示された料金表や、一般に公開されている市場レートや同様の事業を行う業者からの見積もりを比較検討した上で、経営陣が判断しています」

売上認識の金額は、対応する売上原価の認識にも同額の影響を及ぼすことになる。

このため、放送収入及びスポンサーシップ収入のうちどの程度が、またマーケティング費用5600万ドルのうちどの程度がバーター取引によるものであるかは知るよしもない。

2020年に発行された償還可能な転換社債(後に株式に転換できる負債)も、2021年の資本構造と損失の大きな要素になっている。

2020年6月発行の7200万ドルの利付転換社債は、2021年11月に約9300万ドルの評価額で優先株に転換された。このうち5600万ドルは株式資本に組み込まれ、3800万ドルは非経常的損失として計上されたのである。

ONEは持続可能なのか?

ONEが損失を膨れ上がらせることができるのも、資金調達力があってのことである。

ONEの2021年当初の株式資本残高は2億7400万ドルだったが、現金と定期性預金の残高は8800万ドルしかなかった。その年の優先株式発行により、ONEは2億4300万ドルを調達した(うち5600万ドルは転換社債)。2021年12月31日時点で、ONEの株式資本は5億1900万ドル、現金および定期性預金は1億7200万ドルとなっている。

2022年には累積損失が4億ドルを軽々と突破する勢いのONEだが、この状況はどこまで持続可能なのだろうか。これでもONEは、投資家に好材料を信じさせることができるだろうか。

シットヨートンは最近、2022年に2桁の収益成長軌道に乗り、3年後には黒字化する見込みであると主張している。

もっともシットヨートンや他のONEの幹部は長年にわたって、同様の主張を繰り返してきてきた。

2017年、シットヨートンはFinancial Timesに、ONEは「もうほんの少しで黒字だ」と語ったが、その年の累積損失は6700万ドルだった。

2018年にONEは「年間売上1億ドルが目前だ」とVarietyに語ったが、その年の損失は1億2600万ドルにまで拡大した。

2019年、シットヨートンはBusiness Insiderに対し、UFCとONE Championshipは格闘技の世界的な二強であり、「UFCは西半球で80%のシェアを占めているが、ONE Championshipは東半球で90%のシェアを占めている。我々はこの業界の2大ゴリラだ」などと語っているが、その年のONEは2億2900万ドルの総損失を計上した。

2020年11月、シットヨートンはHigh Net Worthに、「現在の動向を踏まえると(コロナ禍にも関わらず)、ONEは12か月以内に黒字になると予言しておく」などと述べている。ONEはその年、かなりの割合の従業員を解雇し、2億7300万ドルの累積損失を出した。

2021年、ONEはONE財務に関する報道は虚偽であり、「真実」はいずれ明らかになると主張した。その年の累積損失は3億8300万ドルに膨れ上がっている。ONEは今、2020年の業績悪化をパンデミックによる「異常事象」と言い訳し、例によって2022年は絶好調で、黒字化が起きることになると主張している。

「当社は前年比で収益を伸ばし続け、コスト効率を高めています。当社は、長期的に持続可能で収益性の高いビジネスを構築するための明確な道筋をつけていると確信しています」とGroup ONE Holdingsの広報担当者は、Bloody Elbowなどのメディアに対して声明を出している。

「2020年は世界的なパンデミックによる規制のため、数か月にわたりライブイベントを開催できない異常事態となりました。2021年には規制が解除され始めたので、主力商品であるライブイベントへの投資を再開することができております」

「2022年には、世界各地で複数のパートナーシップを開始し、力強さを増しています。これらのパートナーシップは、私たちのブランドを世界的に成長させ続ける中で、将来の収益と利益率に大きな影響を与えるでしょう」

現金以外の取引額を「収益」として計上することについてのBloody Elbowの質問に対し、ONEはコメントを拒否している。

ONEが公言している強気の見通しは、彼らが政府に報告している実際の数字と一致したことがない。

今後、ONEの財務状況の詳細を明らかにすることは、おそらくかなり難しくなっていくだろう。というのもONEは最近ケイマン諸島に本社を移転し、事業構造がより不透明になっているからだ。この2021年の財務報告書が、同社が上場するまで、あるいは上場しない限り、公にアクセスできる最後の財務諸表になる可能性がある。


この記事の公開を受けて、チャトリ・シットヨートンは米MMA番組『MMA HOUR』10月13日号に出演、赤字額について尋ねられ、次のように解答している。

「その情報は不正確だ。財務情報を知りたいなら、MMAサイトではなく、Bloomberg、Financial Timesなどの専門サイトを見てほしい。われわれはいま、成長のための投資をしている。喫茶店のような日銭商売ではないんだ。まずはグローバルレベルでテレビ放送を取り付け、誰もが視聴するように環境を整える。コンテンツもどんどん作っていかないといけない。喫茶店レベルの経済学を気にしている暇はないんだ。われわれにはトップクラスの機関投資家もついている。これからも資金調達を通じてグローバルへの拡大を続けていく」

「例えばテスラの成長を考えてみれば、イーロンが何十億ドルを失ったのかは知らないが、それは彼にとっては損失ではないんだ。彼は工場に投資をし、バッテリーに投資をし、工場の拡大に投資をしてきた。それと同じなんだよ。NBAやNHLの規模になれば、スポーツリーグというのは非常に収益性が高いんだ。」


チャトリが自らサインをして政府当局に提出した財務諸表の数字を「不正確だ」と断じるのは、説明責任の観点からは極めて不誠実な発言であると指摘せざるをえない。本当に不正確なら、証取法や商法違反に問われることになる。赤字は赤字と認めた上で、イーロン・マスクばりの将来展望を語るのはチャトリの勝手である。そして、それを信じるか信じないかは、受け取るこちらの勝手である。


出所:

Anton Tabuena and John S. Nash, ONE Championship reports record high $110 million in losses for 2021, $383 million in total, Bloddy Elbow, Oct 4, 2022

Anton Tabuena, Chatri Sityodtong claims fake news on ONE Championship’s $383M losses — that they reported themselves, Bloody Elbow, Oct 15, 2022


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