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「残りの上映時間」、ある映画人への回想
インタビューの半ばで、その老紳士は突然怒鳴った。
「君たちの1時間と僕の1時間は価値が違うんだよ!」
聞き手の愚問だったのか、撮影担当の自分の粗相かは分からなかった。分からいけど、仕事が残っている。無理矢理に自分に解釈を与えた。
高名な人物が自分の立場が上だと誇示しているのか?有名人のただの気まぐれなのか?その程度にしか考えないようにした。
しかし、彼は「さっきは大きな声を出してごめんなさいね」と、年下の我々にわびながら、わざわざエレベーターの扉が閉まるまで見送ってくれた。
少し曲がった背中と、チャーミングな笑顔が忘れられない。
ほどなくして、彼が亡くなったことをニュースで知る。
あの時、その人は病の中にあって、自身に残された時間が少ないことを知っていたのだ。
ようやく、あの時の言葉の意味が、ほどけていくように自分の中に居場所を見つけた。
残念だが、私は学ぶのがいつも遅すぎる。
あの頃、職業カメラマンとしては少し自信を持ち始めてはいたけれど正直、人に会うことが怖くなり始めていた。元々は人に会いにゆくことは楽しい人間なのだが、相手が著名な方、好きな俳優さん、強面の政治家さんだったりに対面する予定があると、決まって前の晩は眠りが浅くなっていた。
今にして思えば単純な理由だった。しっかりしなくては、失敗はできない、ちゃんとしたカメラマンだと思われたい。そんな自分をよく見せようとする事ばかりを妄想していたからだった。
この出来事のあと、人に会う時のルールを自分に2つ約束して、なんとか今も続いている。
・カッコつけないこと。わかる人には、どうせバレるから。
・だめな自分を承知の上で、相手に全力で向き合って、その人の良いところを見つけること。
一期一会なんて堅苦しい言葉は好きではないけれど、別れ際、この人に会えるのはこれが最後かもと、なぜか感じる瞬間はある。
良いことも、トラブルも人が運んでくるのは世の常だけど、人と出会い語り合い、またねと別れる。
そんな些細な日常の喜びが戻ることを、今は待ち遠しく感じている。