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指標軸を作るために同じ場所に潜ること

 私が普段から潜水している三保真崎は、面白いと感じる生物や生態が簡単に観察できる便利な場所です。この場所で潜水という手法を用いて観察や記録を行なっている研究者が今のところ私だけなので、これから研究者の数や観察の機会が増えることで、これまでにザルやアミに引っ掛からなかった生物や生態が明らかになるのでは?と思っております。
 ところが、この場所を縦横無尽に潜水し、ある種の使命感を持って研究に取り組める物好きは、残念ながら今後も私以外に出てくる可能性は少ないと感じているのも事実です。つまり、一代限りでどこまでやれるかが、またそれをどのように利活用するかは、大袈裟にいえば私がこれまでに培ってきた視座にかかっているのです。

アントクメの間から顔を出すトラギス

  約40年ではありますが、同じ海に潜っていると、それなりに生物や環境の変化を感じます。コロンブスの卵ではありませんが、変化に対して環境が先か生物が先か?という話になります。もちろん、大局の話になれば、環境が先の方のケースが大半だと考えます。環境を凌駕して、生物が優先的に南下することや北限を拡大することは考え難いと思います。環境を変化させてまでも、生物が種や生息域を変更することが可能なのは「人類」くらいではないかと思います。

スベスベオトヒメエビ

 ここ何十年かの議論の中で、温暖化の話があります。時代の局所的な切取りで考えるのならば、その議論に当てはまる部分はあります。しかしながら、それをさらに切り取って、それが全てかのように拡大解釈してしまうと、世紀末インフルエンサーになります。人生100年時代とは言っても、その人の経験値として活用できる理論はその半分にも満たないでしょう。それを補う先人の「知」を利用したとしても、到達できる頂は知れています。
 自分を過大評価する訳ではありませんが、○○の一つ覚えのように、繰り返し繰り返し、その練度を高めれば、相乗効果とともにアウトプットの質はより優れたものになります。私が続けてきた三保真崎に潜るということは、そういうことなのです。20代の頃に、父親から教えられたことで、今でも守っているのが実はこのことなのです。
「誰にも負けない事、自分にしか到達できない事を、1つで良いから作りなさい」
 結果論ではありますが、その言葉を聞いてから20年ほど経って、あぁこれが自分の前人未到を作り続けると言うことなのだと理解しました。それまでの期間は、ただガムシャラに潜っていました。

ホシササノハベラの幼魚

 兎に角、潜っている本数を時間を増やすことに取り憑かれていました。もちろん、そこから得られる経験や量産されるフイルム、映像もありましたが、その積み上げは今思えば、下積みというよりは、潜り散らかしているだけにも感じます。時間を増大させると言う観点ならば、エンリッチドエアーナイトロックス(EAN)が流通し始めてからは、飛躍的に潜水時間が伸びました。そして、昼だけでなく夜の時間をダイビングに利用する頻度が高くなりました。結婚して子供が生まれるまでの間、当時これほどナイトロックスを使ってナイトダイビングを頻繁に行うダイバーは居なかったはずです。

ハクセンアカホシカクレエビ

 その当時のことですがナイトダイビングに出かける時に、そんなに潜って大丈夫なのか?というようなことを話しかけられました。ナイトロックスがあれば鬼に金棒だよ!と返すとカミさんに呆れられて、キ○ガ○に刃物、間違いの馬鹿者、あなたにナイトロックス(爆笑)と同義語ですねとまで言われましたから。
 それが私の指標軸となり、海に関することだけでなく様々な物事を考える出発点となるとは思いませんでしたが、若いうちの無駄は、なかなかどぉして只では転んでいないのだなと今更ながら実感しています。
 ちなみに、今回のタイトルは随分と昔の話ですが、カメラマンの中村宏治さんに海を案内する者として大切なことだと教えられた言葉です。

雨降って海が富む

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