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言葉に書き手の気持ちが宿るとき、それは「言霊」になる
「球界で最も素晴らしいプレーヤーが観客を魅了した時、” 希望 ”が本拠地にやって来る。それがほんの一瞬であってもチームの苛立たしい状態を忘れさせてくれる。ショウヘイ・オオタニの偉業には、驚愕させられる。」(Full-Count / 2022.07.13)
ヒューストン・クロニクルの翻訳記事だけど、いい文章だと思った。
もっとも、原文がこの翻訳文のような文章であるかどうかはわからないけどね。
ちょっと脱線するけど、簡単な英文なら翻訳できる。でもそれは、言葉を日本語に置き換えてるだけなんだよね。英語のニュアンスまではわからないから、ボクが翻訳しても「書き手の感情を含んだ文章」にはならない。つまり、「翻訳」にはなっていないってこと。
ということで、バイリンガルなプロが訳した文章を信ずるべきだというのがボクの持論。
ま、それはいいとして…。
「” 希望 “が本拠地にやって来る」
言葉そのものの意味だけじゃなく、言葉がその周辺にまとわりつかせてる記憶や感情、想像力が伝わってくるような文章だ。この気持ちを伝えたい…という書き手の感性が伝わってくるよ。
それを「言霊」と言うんだろうね。
プレーオフの夢は潰えたかもしれないけど、一瞬でも描いた” 希望 “はいつもそこに在る。ショウヘイ・オオタニは、それを連れてくる使徒だ。” 希望 “を捨てるな‼︎…って感じかな。
記事は、MLBやエンゼルスに関するそこそこの知識があることを前提に書かれている。そういったアプローチは「今どき」じゃないかもしれない。
今は、答えを知りたいだけで、言葉の背景にあるものや行間がつくる余韻をほぼ読まない。違うかい?
「ジェンダー不平等」を訴えたNIKEのCMに対して、「俺たちは心躍るCMが見たいだけなんだよ」という反応が返ってくる時代だからね。Z世代やミレニアル世代には受け入れられないアプローチかもしれない。デジタル・ネイティブにとっては、「余韻」なんてただのバグにすぎないだろう。
「ナニ言いたいのかわからない。言いたいことがあるならハッキリ言えよ」…なんてコメントが返ってきそうだよ。
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追悼 山際淳司
「江夏の21球」再録
唐突に昔の話をするけどね、創刊した頃の『Number』にはこのテの記事が多かった。例えば、創刊号(1980年4月)に掲載された「江夏の21球」(山際淳司)のような世界観。
執筆者の思い込みが創り出す臨場感が、読み手に対して自由な想像を促す。
つまり、その場・その時・その空気を好きなように解釈し想像しろと言う。だから、ボクらはそこに「ボクらが見たい景色」を見ることができる。
言葉はサワリ、意味は周りから読み取れ、読み取れないのであれば読むな、
…ということなんだよ。
執筆者は「同調」なんて求めてない
だから当然、同意もあれば拒絶もあるし、誤解や曲解も生む。でも、それでいいんだよ。誰しも想像力の範囲でしか理解しないのだから。
同調を求め、拒絶や誤解を恐れていたら「表現」なんてできない。
ボクらの世代は、それを「ハードボイルドな」と形容するんだけどね。
もっとも、『Number』の創刊号なんて入手困難だから、その文章を追体験するのは難しい。
山際淳司や江夏豊が何者なのかも知らないだろうから、ボクがナニを語っているのか、ナニに感動したのかわからないだろうけどね。
言いたいことは…、言葉ひとつ、文章ひとつ、どれを取ってもとらえ方や感じ方がずいぶん変わったなということ。
『Number』は今でも読むけど、ただ単に「目で見た事実」が並んでいるだけで、想像を掻き立てるような記事には出会えない。
リザルトはわかってる、それよりキミが何を感じたかを読みたい。そうじゃないのかな?
年齢的に読者ターゲットではないから仕方ないと諦めつつ、寂しさを感じるこの頃だよ。
…………
「江夏の21球」
リザルトだけ説明すると…、1979年のNPB日本シリーズ最終戦。1点差で迎えた9回裏ノーアウト満塁の場面で、「三振→スクイズ失敗→三振」で試合を終わらせ、広島カープをシリーズ優勝に導いた投手・江夏の心理をドラマチックに描いた。
間違いなく『Number』を最高峰のスポーツ誌に仕立て上げたノンフィクションだと思う。
もっと詳しく知りたいのであれば実物を読んでもらうしかない。
創刊号が手に入らなければ、『Number 369号』(1995.7.6号)にも再録されている。
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#MLB #NPB #言霊 #モノローグ #エッセイ