ぼくのレコードの時代
はじめてレコードを買った。姉が友人から借りてきたEPのジャケットを汚したので、ぼくはなけなしのお小遣いでトワ・エ・モアの1枚を買ったのだ。その流れで買ったはじめてのLPは、フォークのオムニバス・アルバム。ジャックスの曲が耳に残った。気が向いたら聞いたけど、それより友達と遊んだり、ソフトボールの練習をしている方が楽しかった。
ぼくのレコードが5枚くらいになったのは、たぶん中学生の始め頃。吉田拓郎がお気に入り。曲を聴くより、DJのおしゃべりを楽しんでいた深夜放送。友だちは、パック・イン・ミュージック、セイ!ヤング、オールナイト・ニッポンの三派に分かれていた。ぼくは小学生の頃から聞いていたオールナイト・ニッポンが、お気に入り。
LPが10枚を超える頃、コンサート・フォー・バングラデシュを分割で買った。予約の際に半額を払い、発売の時に残金を払った。2ヶ月分のお小遣いをはたかなければ買えなかった。レコード屋の兄ちゃんと仲良くなり、いろんな曲を教えてもらった。曲を聴くことも楽しかったけれど、曲にまつわる物語を知りたかった。
LPが30枚を超えるのに、あまり時間はかからなかった。月に一度は同好の友人たちと合宿をしていた。レコードを持ち寄り、友人の兄のレコードまで借りて、朝まで侃々諤々。いったい何を話していたのか。でも楽しかったな。Grateful Deadをはじめて聴いたのは、きっとこの頃。演奏者の身体の動きや、彼がそのとき何を感じているかを知りたかった。
ウォークマンが発売されるのはまだずっと先だけど、この頃のぼくの頭の中にはいつもお気に入りの曲が鳴っていて、そのリズムで歩いていた。ニュー・ミュージック・マガジンを隅から隅まで読んでいた。
100枚を超える頃には、なんだかいろんなことが違ってきた。音楽が道具になってしまったみたい。ぼくの中でも、世の中でも。何を聴いているかが仲間の印になったり、店のムードを音楽に頼ったり、音楽で人の気分をいじったり。都合よく使えるアイテムとしての音楽。店の隅に遠慮気味に置かれていたロックのレコードも、いつの間にか一番目立つところに堂々と並べられるようになっていた。良くも悪くもイーグルスのホテル・カルフォルニアが、そのメルクマールになった。初期のロックが終わったことを知らせる葬送曲。手放すことはないと思っていたレコードを売り始めた。
あれから50年が経とうとしている。レコードはCDに代わり、さらに配信が中心になっているらしい。何が変わって何が変わっていないのか、ぼくにはよく分からないけれど、今もレコードを聴いていたりする。