見出し画像

ぼくはDeadが大好き

 ぼくはGrateful Deadが大好き。このことを言うのに、50年もかかってしまった。笑えるよね。何に遠慮してたんだろう。

 Deadを聞き始めたのは、中学3年のころだったと思う。Workingman's DeadとAmerican Beauty。Live/DeadとEurope72も同時期に聴いていた。レコードではいつも同じ演奏、同じ歌だったけど(当たり前だ、レコードなのだから)、時折耳にするLive録音では、一つとして同じ演奏はない。ガルシアのちょっと引っかかるようなギターが地味に全体をまとめているのは同じだけれど、みんながてんでバラバラで好きなように演奏している。二人のパーカッションを残して他のメンバーが休憩に入ったり、そこに一人二人と加わったり、やたら一曲の演奏が長かったり。いつもジャムで、フリーフォームで。でもいつもDeadだった。

 それから、なんだかんだあった。ガルシアもずいぶん前に亡くなったし。ぼくの生活も二転三転、天地がひっくり返るようなこともあった。それでも、まだ聴いている。上記4枚のレコードは、何度も行われたレコード粛正(レコードを売ったり、人にあげたり、音楽自体をほとんど聴かなくなったり)の時代を乗り越えて、今もぼくのレコード・ラックにある。50年前に買ったレコードと、そこから着実に買い足されたレコードとCD。

 でも、ぼくはこれまで「Deadが好きだ」って、ほとんど誰にも言わずに過ごしてきた。まず日本での知名度が圧倒的に低い。話しても「誰?」となっておしまい。またイメージが悪い、悪すぎる(笑)。ドラッグとの親密度と親和性(はい、確かに)、Dead Headsの奇矯な振る舞いを取り上げた報道(一面に過ぎないけれど、嘘ではない)や、フラワー・ムーヴメントやヒッピー・カルチャーとの紐付け(うん、これも正解)……。Liveにも行けなかったし、何度も詩を訳したりしたけれど、みんな忘れてしまった。そんな真面目な聴き手でもなかったんだな、と自分に言い聞かせるけれど、本当は大人の世界で生きてきたぼくが、周囲の人に変な奴だと思われたくなかったということだろう。

 だから、こっそり一人で聴いているのに不満はなかった。

 ところが、昨年、何気なく見ていた音楽番組で、流行のバンドのメンバーがDead Tシャツを着ていたんだ。一瞬ですぐにわかった。愕然としたよ。「おいおい、君は何を着ているのか知っているのかね!?」と問いただしたくなった。でも、その瞬間、「あ、いいんだ」とも思ったんだ。好きなものを着ていいんだって。びっくりしたよ。そんなことにもずっと気がつかなかった自分に。

 すぐにDeadのキャップとトレーナーとTシャツを購入した。街で知らない人がキャップを指さして、話しかけてきた。「Deadを好きなんですか?」

 「ああ、もう50年も聴いているよ」

 


いいなと思ったら応援しよう!