相合い傘は愛愛傘
少し前にわたしが出会った神様みたいなご夫婦について書かせてください。お礼も十分できずお別れしてしまったので、せめてここで感謝の気持を… 書いたとて届かないとは思うのですが、書きます。
あ、タイトル見てうまいように言いやがってって思う方、最後まで読んでいってください。たぶんうまいこと言いやがってって最後まで思うと思うので。
その日は朝からしとしと雨でした。朝イチで皮膚科に、杖をついて一人で行くのに、雨。最近ジストニアの症状が強くなってから、初めての一人での外出なのに、雨。夫さんはいないのに、雨。
やるしかない。何度見ても変わらないので、小雨を狙って杖をついて歩き始めました。転んだ時を考えて片手はあけておきたいから、傘はさしませんでした。
住んでいるところは坂が多く難易度高め。皮膚科に早くつきたいけれど、近い道程は坂が急です。後ろを気にしながら歩みを進めました。
ここだけ見ると、なぜわたしがこんな天気に、こんなに朝イチで皮膚科に行く意味がわからないかもしれません。
体の調子に合わせて、このタイミング!というときに行きたいものなのです。絶対に混むから、症状がわりと少ない(わたしは起きてしばらく症状がマシなことが多いのです)歩けるうちに行ってしまいたかったのです。
混んでしまうと体も辛くなってくると同時に、安定しているとはいえパニック障害の症状で息苦しくなってしまうこともあるのです。混んでいる皮膚科でパニック発作はちょっと考えるだけでゾッとします。おお怖い怖い。
パニックをお持ちの方はわかっていただけるかもしれません。それは避けたいのです。特に夫さんがいないときは、リスクを最小限にしたいものなのです。
朝のゴールデンタイム(ジストニアの症状が弱い時をこう呼んでいます)が切れて身体中が動き出す。混んでいる皮膚科で。おお、これもこれで恐怖ですね。わたしも、周りの方も。最近は体が反ってしまったり、右に大きく傾くので、激混みの皮膚科の待合室で突然エクソシストに出てくるような姿勢の女性が爆誕したら多分その日は激混みではなくなるでしょう。
そして何より、皮膚の症状が気になって、あまり受診を後回しにしたくはなかったのです。
色々つらつらと書きましたが、そんな雨の中の道中、声をかけてくださったご夫婦がいたのです。不思議なことに全く不信感がわかず、気がついたときには「結構降ってきちゃったわねぇ」と言う女性の声とともに雨がやみました。傘を差し掛けてもらっていることに気づくのに少し時間を要するほどに自然だったのです。
前で揺れている小さな背中とヘルプマークに気づき、思わず声をかけてくださったとのことで、事情を根掘り葉掘り聞くこともなく、「傘、忘れちゃった?私達駅の方へ向かってるの。よかったら一緒に行きましょ。」と、押しつけがましさのかけらもない優しい笑顔。振り向くと喋らないけれど深く頷いてくださる旦那様がいらっしゃいました。きっと女性に声を掛けるから、不信感を減らすために奥様が声をかけてくださったのだと思います。
今日に限って主人がいないこと、杖歩行でころんだときのために傘を指していなかったことをお伝えしたうえで、ご夫婦の電車の時間を気にする私に、「電車はまだまだ大丈夫。それにいつでも来るから。だからゆっくり行きましょ。」と。
ご夫婦のお子さんも障害をお持ちで、思わず声をかけたとお話してくださり、駅までの10分ほど、ずっと傘を支えてくださいました。大人になってから、こんなふうに誰かと相合い傘をすることなんてそうそうないと思います。体や頭は全く濡れていないのに、ほっぺだけ大雨洪水警報でした。もうぐっしょぐしょです。マスク様々です。重ね重ねお礼をお伝えしてお別れをしました。
帰り道は雨もやんでいて、心はぽかぽか、人間ってこんなに太陽が差し込むような気持ちになるんだと痛感しました。雨女でも、傘をさせなくても、こんなふうに人と人の心に虹をかけられる出来事が身近にある。人生まだまだ捨てたものではないようです。相合い傘で救われたのは、濡れなかったことだけじゃなかったのです。一人雨の中でかけた私の心もまた、救われました。ちょっと真面目な、そんな愛愛傘のおはなし。
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