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音とあそび、美しさに触れて、心が豊かになる
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写真右:斉藤 弥音さん(ボーカリスト)/ S a i t o A m a n e 札幌市出身。神奈川県洗足学園音楽大学の ミュージカルコースを卒業。在学中に舞台の 演出、振り付けなども手掛けた。2022年に地 域おこし協力隊として白糠へ移住。
音楽は心を表現するコミュニケーションツール
白糠町は「教育」をまちづくりの3本柱の一つとして、さまざまな取り組みを行っています。その一つが2022年から始まった情操教育。中でも音楽分野で心を育もうと、地域おこし協力隊として二人の音楽家を招聘しました。一人は歌唱の専門家である斉藤弥音さん。神奈川県にある音楽大学でミュージカルを専攻していました。
もう一人はピアノを演奏する山田陽子さん。国内の音楽大学やドイツで8
年間、ピアノの腕を磨いたプロのピアニストです。
二人は現在、白糠町内の学校(主に小学校)で音楽の授業に携わっていま
す。具体的には授業開始から5分間の情操教育、学校の先生が主導する音楽カリキュラムのサポートなどです。二人で取り組むこともあれば、一人ずつで得意分野を活かした内容を行うことも。「私はクラシック演奏を聴いてもらい、感性を育む取り組みを行っています。心を豊かにするためには、心に
『ぐっ』と響くような美しい音色をつくって聴いてもらうことが大切だと思っています」と山田さん。
斉藤さんは「音楽のリズムに乗って体を動かしたり、声遊びみたいなこと
をやったりして、クラス全員で音に親しみ、表現しやすい空気を作れたらと
思っています」と話します。
音楽を言葉で伝えるとき、山田さんは「この曲は晴れの日かな、雨の日か
な」と天気で例えたり、「大きな波が来た〜」と、白糠らしく海で例えたりと、子どもたちにわかりやすく伝わるような工夫をしています。斉藤さんは
「学年が上がるに連れて、自分や友達の声の良いところを探したり、場面や
テンションに合った声、ふさわしい声はどんな声かを考えたりしてもらうこ
ともあります」と、子どもたちに考えてもらう場を作っています。
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音楽が子どもたちにもたらすもの
「子どもたちは、私が音を出す前の集中力を感じ取って、『はっ』と息を飲みこむんです。そして、一音出したときに何かを感じ取っている子どもたちとの空気感は、コンサートとはまた違った雰囲気があります」と山田さん。白糠での活動は自身の音楽における、ある種の集大成と話します。子どもたちの素直な反応で、音楽は感じ取る力が育つと実感を得ているそうです。斉藤さんは「奏でたり歌ったりして音が揃うと、やっぱり楽しいし心地良い。そして、その際の一体感は持続します。良い空間づくりが、子どもたちの良い関係づくりにもつながっていると思います」と笑顔で話してくれました。呼吸が揃うことで親近感を与えるペーシングのスキルは、カウンセリングでも活用されています。音楽はこれらを自然と導入できるということです。
地域おこし協力隊に応募したきっかけと白糠の魅力は?
2022年、白糠町の地域おこし協力隊になった二人。斉藤さんは、友人から地域おこし協力隊の制度を聞いて、調べてみると白糠町で音楽分野の人材を求めていることを知りました。山田さんは白糠町にいる音楽関連の知人から情操教育の指導者を探していると聞き、一念発起。二人とも以前は、白糠町の名前だけは聞いたことがあるという程度。「白糠町は海や川、山の自然が豊かで、優しい町民の皆さんにも囲まれて、自分の音楽を見つめ直すきっかけになりました」と山田さん。斉藤さんは車の免許がなく、少し大変と笑います。「日々の移動は自転車です。家族が来てくれたときに、道東観光を楽しんでいます。家族が訪れるきっかけになってよかったと思うことも多いです」。
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今後の目標は?
手探りだった1年目。延長を決めた2年目は、各々が白糠町へ来た意味を見つめ直したいと二人は話します。「やはり新たな取り組みですから、トライ&エラーの1年目でした。2年目は、情操教育を積み重ねていく時間が欲しいですね」と斉藤さん。山田さんは「音楽という目に見えないものを見て、聴いて、感じて、想像する力を子どもたちが育んでいけるよう、心に届く音楽を奏でていきたいです」と決意を新たにしました。
二人の情操教育への取り組みは、まだまだ始まったばかりです。“音楽で地域をおこす”白糠にそんな風を吹かせたい、と目を輝かせていました。