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不安だから。逃げずに、数字で考える 【お金の話、聞かせてください】
山﨑美津江さんに聞きました
ガス代が払えず、火元をとめられたこともある新婚時代。
苦しいときも、予定外の支出も、そのままを記録する家計簿は、〝ほんとうにしたいこと〟を、選びとる目を養いました。
やまさきみつえ
家事のノウハウ、お金と時間の使い方の工夫を重ねて40年余り。各地友の会やメディアで住のアドバイザーを務める。現在は夫とふたり暮らし。相模友の会会員。
高くても安くても、「もの」を価値高く使う
「学生時代、父親から特別にもらった5千円。トルストイ3冊を買って帰ると、〝もう使ってしまったのかい!〟と驚かれました」。ときには〝欲しい〟と感じたものに、潔くお金を出すこともあったという山﨑さん。
学生結婚をしたあとは、家庭教師のアルバイトで下宿代を支払ったり、「はじめてお風呂のある部屋に住めたときはうれしかった」など、お金のありがたさをかみしめる経験も多かったとか。「給料が出たらまず値の張るみそを買い、くだものなどは買えなかった」、そんな日々の中でも、気に入った調度品を少しずつ集めたりと、暮らしの質を上げる楽しみも忘れませんでした。
「この値段ならと、中途半端な気持ちで手にすると、愛しさが半分になってしまうものもあります。使うところと、使わないところ――たわめてジャンプする力が、お金にも必要だと思うんです」。
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費目にそった収納棚
約20年続けているオープンハウスでもおなじみの山﨑さん。「持ちものを家計簿の費目ごとに収めると、探しものがなくなります」。
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古道具店で出会った時計
家賃1万5千円の下宿に住んでいたころ、2万5千円で購入した振り子時計。
「文字盤がきれいだったので、ていねいに扱われていたものだと分かります」。
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“これは”というものにお金を使うため
毎日のものはシンプルに――
ふたりの娘の子育て時代は、食事も洋服も、極力手づくりに。「今ほど既製品が安価でなく、手づくりすれば半値で済みました。お金がないから工夫する、それが楽しくて、技術も上がります」。
月に一度の外食で子どもたちのテーブルマナーを身につけたり、毎夏の車旅行では九州以外すべての都道府県を訪れたりと、家族の思い出も多い、メリハリのある家計だったことがわかります。
「ない袖はふれないけれど、自分たちだけにお金を使うのを“野暮ったい”と思うのは、分け合って暮らした下町育ちのせいかしら」。と話すように、娯楽費を上まわる公共費の支出も、山﨑さんの家計の特徴です。
「“なるようになる”では、お金の都合にならされてしまう。もっともだいじな“自分がどうしたいか”を、見極めるための家計簿です」。そう話すいっぽうで、「衝動買いも、そのままに記帳して。プラスマイナスゼロに調整するのは、主婦の腕の見せどころ」。
家計簿によって生活の方向性を決め、実際を正直に記録する――蓄積した数字は、家族の足跡を、ありのままに示しています。
「時間はすべての人に平等ですが、お金は人によって持ち分がちがう。だからこそ、マネージメントの力が大切になってきます。わが家の支出に責任をもって、生活の舵とりができたとき、自分本来の輝きが発揮できると感じています。子育て中の人たちにがんばってほしいな」。
節約のしどころ
デイリーにはお金をかけず、簡素に暮らすのが山﨑さん流。「いざというときのジャンプ力を、日々の暮らしでためておきます」。
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小は小なり、中は中なりに生かせたとき、お金の価値が達成されます
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山﨑さんのルーティン
迷うより、たんたんと“続けること”。その効果は、生活のあちらこちらに。
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40年のデータから
数字の蓄積は、日々の記帳とはちがった形で、家族の暮らしをもの語りま
す。
[ 食費 ]
総計3.200万円という数字に驚きますが、月平均では67.000円。「昔も今も、よく使う食材は変わりません」。
[ 教育費 ]
ふたりの教育費のあった期間は27年間、総額は3.288万円。
[ 公共費 ]
「年金生活に入ったら抑えていかざるを得ないけれど、できるだけ予算をとりたい費目」。月平均では44.000円。
出典:『かぞくのじかん』(休刊中)2017 秋 Vol.41