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言うことをきく子ときかぬ子 【いつからでも新しく|羽仁もと子のことば】

 昔の人は、男の子は他人ひとの言うことを聞かないくらいでなければ役にたつ人間になれないなどともいったようですが、子供にも相当の規律を与えてこれを守らせることが大切だという思想が一般に行なわれるようになってからは、いつとなく男女とも言うことを聞く子供の方がよく思われるようになりました。私も全くそのように思ってきましたが、近頃になってたやすく言うことを聞く子供は、果たして健全な子供であるかどうかということについて、多少の疑いをもつようになったのです。

 大人でも主義本領のない人や、気力の乏しい人は、誰のいう通りにでもなるように、子供の中にも子供ながら主張をもっているものや、気力の強い子供は、気にいらない時など思いきった反抗をするようで、また気力が強ければ、自然自分のわがままのためにその気力を濫用することも免れませんけれど、あながち言うことをきく子ばかりをよいとはいわれないと思います。ただややもすれば言うことを聞かない子供がえらいというような思想をもっている人は、自分のわがままのためにその気力を濫用するのをまでも喜んで看過しているような傾きがあるかと思われますが、そのような場合にはもちろん強く戒めなければなりません。さりながらそれと同時に気力そのものまでもなくなすようにしてはなりません。

 きかない子供という中にも二いろあると思います。意思が弱いために与えられた規律を守り得ずに始終ぐずぐずする子供と、前にいったように気力の旺盛おうせいであるために、とかく他人の言うことばかりをおとなしく聞いていないというたぐいの子供です。子供が容易に言うことを聞かないために、その教育に骨が折れても、その原因が後者であったら心配はなく、あながちおとなしい子供を持つということばかりが自慢ではなかろうと思います。なお気力の強い子供には特に道理をあきらかにまた正義の観念を養ってやるように、そうしてわがままを振舞った時にはたしかに戒めなくてはならないでしょう。

羽仁もと子著作集 第十巻 『家庭教育篇(上)』 1908年より

羽仁もと子著作集 第十巻 『家庭教育篇(上)』
上巻は幼児教育について自身の経験から。下巻は自由学園の教育を通して生活即教育の理念を。

はに・もとこ(1873~1957)
青森県八戸市生まれ。日本で初の女性新聞記者となり、1903年、羽仁吉一と『婦人之友』を創刊。1930年に全国友の会を創立しました。このシリーズは、「私どもはいつからでも新しくなることが出来ます」と記した羽仁もと子のことばから掲載しています。

出典:『かぞくのじかん』(休刊中)2020 夏 Vol.52


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