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時間の予定 【いつからでも新しく|羽仁もと子のことば】

 家事整理の第一の要点は、仕事の予定でございます。そして第二の要点は時間の予定でございます。家事における仕事の予定が家計における予算とおなじであるとおりに、時間の予定もまた家計の予算とおなじものです。われわれの収入にかぎりがあり、生活費にかぎりがある。それで家計予算が必要であるように、われわれに与えられている時間にもかぎりがあります。そのかぎりある時間に、きちんとした予定のある家庭の少ないことを思えば、心ぼそい気がします。すなわち家事の不整理がそこからくるでしょう。また家計予算において、一費目の費用が皆(残りがなくなる)になったからといって、ほかの費目の費用を流用したら、それこそ一家の経済が無茶苦茶になってしまいます。それとおなじ理由で、朝するはずの仕事を他の時間にのばすのは、ほかのことのための時間を流用するのですから、家事不整理のもとになるわけです。

 時間のことは実にどんなに大切なことだか知れません。家庭の時間が励行されるならば、その家庭はひとりでに家計予算の励行のできる家であるのだと思います。

 人手が足らなくても、やりきれないようでも、日々の時間をどう使うかという予定がちゃんとできていて、家人も心をあわせ、その励行に熱心ならば、その家庭は遠からず、各家人の能率は高くなり、仕事の工夫も上手になって、時間に余裕のある家になるのですが、反対に、現在のところでは人手が多く、仕事が間に合っているようでも、時間のくぎりくぎりがよくいっていないなら、知らずしらずのあいだに、家人の心に時間の観念がなくなって、その結果能率も低くなり、仕事の工夫も下手になっていきます。そうしてどんなに人手を増しても、年中間に合わない家ができてしまいます。収入がいくらあっても足らない家があるように、人手がいくらあっても足らない家があるのです。そうしてそれは、時間を粗末にした罪だと思います。

羽仁もと子選集『人生の朝の中に』 家事整理の根本 時間 実際より

羽仁もと子選集『人生の朝の中に』
家事整理の根本/生活の朝、昼、夜/我々の住む所など、羽仁もと子著作集の中から、親しみやすい篇を選んで選集としてまとめた1冊。

はに・もとこ(1873~1957)
青森県八戸市生まれ。日本で初の女性新聞記者となり、1903年、羽仁吉一と『婦人之友』を創刊。1930年に全国友の会を創立しました。このシリーズは、「私どもはいつからでも新しくなることが出来ます」と記した羽仁もと子のことばから掲載しています。

出典:『かぞくのじかん』(休刊中)2021 冬 Vol.54


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