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夢幻星#17
「へぇ、まさかお前に彼女ができるなんてな」
そう言って俺たちの前に置かれた鍋をつついているのは、山本 匠だ。
俺と匠が知り合ったのが、専門学生時代。
学校を卒業してお互い社会人になった今でも、こうしてたまに飲みに行っている。
「今度の彼女は大切にしろよー。お前いっつもやりたいことに夢中になりすぎて彼女のこと蔑ろにしがちだからな」
「うるせーよ」
そう言って俺も目の前に置かれた鍋をつつく。
でも確かに匠の言う通りだ。俺は今まで何人かの女性と付き合ってきたが、別れた原因は全て同じ。俺が彼女ではなく自分のやりたいことを優先してきたからだ。でも真珠は違う。そんな気がする。
「もし今の彼女のこと蔑ろにしてたりなんかしたら、その時はマジで俺注意するからな」
そう言って匠はジョッキに注がれていたビールを飲み干す。
「今回は大丈夫だって。真珠は今までの彼女とは違う。俺がやりたいこと全力で応援してくれてるから」
「だといいけどな」
そんな他愛もないやり取りをしながら、鍋を食って酒を飲んだ。
「ところで匠。お前の方はどうなんだよ」
「ん?何が?」
「何がって彼女だよ。まだ作らねーの」
「ん?あー実は最近気になる人ができてな。その子と付き合おうかと思ってる」
「おーまじか。まぁお前みたいな奴は女の子がほっとかねーだろうよ」
匠は有名企業に勤めていて、俺ら同世代の中では給料はいい方だ。おまけに悔しいが顔もそこそこ良い。いわゆるエリートってやつ。匠に彼女がいなかったのが不思議なくらいだ。
「まっ、匠は俺とは違って堅実だからな。その女の子も幸せだろーな」
そう言って俺はグラスに残っていたビールを飲んだ。
「まぁ確かに麦は堅実じゃないもんな。歴代の彼女がそれを物語ってるわ。麦の彼女は苦労しそ〜」
「うるせぇよ」
「でも麦のそういう自分の夢に向かって一直線なところちょっとは憧れるけどね」
「おいおいいきなり褒めてくれても、今日の飯代奢ったりなんかしねーぞ」
匠と飯に行くと大体この調子だ。お互いの近況を報告し合ったり冗談を言い合ったり、、
学生の時となんら変わらない。非常に心地がいい。多分この先何年経ってもこのままなんだろう。
1時間くらい経った頃だろうか。すっかり鍋は食べ尽くして俺たちは食後のデザートを食べていた。
匠はチョコアイス、俺は抹茶アイス。鍋でほてった体にこの冷たいアイスは抜群に相性がいい。
一通り話し終えた俺たちの間に少しばかりの沈黙が流れ、さっきまで全く気にしていなかったテレビのニュースが聞こえてきた。
「なんか最近こういったニュース増えてきてね?」
俺より先にアイスを食い終わったらしい匠がそう俺に聞いてきた。
「まぁ言われてみれば確かに」
テレビで流れている行方不明者のニュースを横目に、残りのアイスを食う。
確かに言われてみれば、最近やたらと行方不明者のニュースが多い気がする。
「よし!飯も食ったし出るか!今日は俺の奢りでいいぞ」
「おっまじ!?」
「麦に彼女ができた記念な」
「あざっす。匠に彼女ができたら奢らせてもらうわ」
「おう」
店のドアを開けると、冷たい風が全身を走った。