桜の散る季節、空に上る思いが雨となって降り注ぐ
大好きだった先輩に告白もできず、恋心だけが膨張する。
そうして何も出来ないまま、卒業の季節を迎える。
今にも破裂しそうな恋心を胸に秘めながら先輩を見送る。
思い出に残るのは、きれいに咲き並ぶ桜と先輩の後ろ姿だけ。
こんな物語がよく語られる季節。
私の失恋もこれくらいきれいなものだったらよかったのに……
私の失恋物語は桜の咲く季節、ではなくて桜の散る季節
3年間付き合った彼氏から、突然の別れ話を切り出された。
「俺さ、好きな子ができた。だからごめん……」
負けず嫌いな私は
「あ、そうなんだ! ちょうどよかった。私もなんだよ」
なんて強がった返事をしてしまった。
本当は別れたくないのに「どうして! 嫌だよ!」と言いたいのに……
思いとは反対の言葉が口から出てしまう。
短い沈黙の後、「それじゃ!」と別れを切り出したのは私
その場に長くいれば、私は弱い部分を見せてしまう。
それが怖かった。
数日たって、私は彼にメッセージを送ろうと文字を打つ
「本当は別れたくない」
たったこれだけの言葉なのに、最後の送信ボタンが押せなくて……
ゆっくり、ゆっくり、一文字づつ消していく。
空っぽになった入力欄が私の心の中のようでまた悲しくなる。
スマホをポケットにしまい、思い出を辿るように、彼と歩いた道を何度も何度も一人で歩く。
無駄なことだってわかってる。
彼はもうここを歩くことはないってわかってる。
だけど、私はそうしないと壊れてしまいそうで……
ギリギリで自分を保つために、無意味な行動を繰り返した。
歩き疲れた私は、家に帰り、彼からもらった手紙を読み返す。
余計に虚しくなる……
「誕生日おめでとう」「これからもずっと一緒だよ」「祝! 一周年」
もう私には向けられない言葉。
他の誰かに向けられる言葉。
そう思うとこの手紙が汚いものに思えてきた。
思い出の手紙を乱暴に破り、ポケットに突っ込んで家を飛び出した。
向かった先は、二人で桜を見た公園
今はもう、桜は散ってしまって殆ど残っていない。
私の恋も、桜と同じように散ってしまった。
ポケットから破いた手紙を乱暴に取り出し、風に乗せてばらまいた。
手紙は風に乗って、散っていく桜の花びらのようにひらひらと舞う。
私の恋は、桜が散る季節に、桜とともに散った。
悲しみが胸にこみ上げ、やがて私の目から、涙が溢れ出した。
やっと……やっと泣けた。
強がっていて出なかった涙が、やっと出てきた。
これでもう……私は立ち直れる。
恋の花びらが散る中で、私の思い出は涙となって降り注いだ。
「さようなら……私の、大好きだった人」