サードアイ ep1 額に傷
この世界は太古より今に至るまで、多くの国がそれぞれの利権から、手を組んだり争ったりを繰り返してきている。人間、二人が出会えば上だ下だと争い、三人よれば仲間外れがおこる。人は自身のエゴによって突き動かされているため、どうしたってぶつかりあうものだ。
ここから少し離れたところに、そんな人間の理を静観している星があって、そこの住人たちは、ここ、三次元世界にしばしば偵察にきているのだ。私も昔はその一人であったが、訳あって、この世界にとどまることになった。
今、目をつけている男がいて、おそらくそいつは、共にこの世界を救う人物となるだろう。まずは、その男の物語から、はじめようか。
俺の額はいびつだ。眉毛から上に向かって瘤のように盛り上がっている。何かでぶつけたとか、変な病気だとかではなく、生まれながらにそんな形だったそうだ。赤ん坊の俺の頭はそりゃあ重かったんだと母ちゃんが言っていた。だからなのか、幼いころにあまり抱きあげられた記憶がない。
学校ではクラスの奴らにデコ、デコといじられた。父親が出ていって家が貧乏だったからだろう。こっちが黙ってりゃあ、ふざけやがって。ある日、頭にきて頭突きを喰らわせてやったら、やつら、泣いて謝った。それ以来、からかってくる奴はいなくなった。
多くの仲間が慕ってくれて、後輩たちも何かあれば俺を頼ってきた。時にはかなりやばいこともあったが、あいつらを守れるんだったら多少の犠牲は厭わなかった。俺の仲間をバカにする奴は絶対に許さぬと、頭突けば頭突くほど、額のいびつさが増していく。
ある日、路地裏で血を流しながら頭を抱えていると、白いひらひらとした服といかつい黒い杖が目に入った。ゆっくりとこちらに向かってくる。そいつは俺の前で立ちどまった。
「そろそろ、その額の意味に気づく頃合いじゃのう」
見上げると、やせこけた老人が立っていた。
「はぁ?なんだ、じじい」
老人は、にやつきながら俺の額を見ていた。白い髭の口元には歯がほとんど無い。もごもごと言葉を発する。
「敵の声を、素直に聴くんじゃな」
そういうと、おもむろに俺の額に何かを貼り付けた。
「何しやがる」と、立ち上がりかけたが、気力も体力も使い果たしていて力が入らず、意識もぼんやりとしてきた。
それから俺は家に帰って寝た。バカみたいに何時間も泥のように眠った。起き上がってすぐ用を足した。体中の水分が全部もっていかれたかのような長い小便だった。トイレから出ても何だかふらふらした。顔でも洗ってシャキッとするかと、昨夜、老人に貼られたままになっている額のテープを剥がす。チクッとした痛みと出血があったが、気にせずにジャバジャバと顔を洗った。
しばらくしてから、老人とのやりとりを振り返ってみた。なにせ今まで、勉強なんてアホらしくてしてこなかったから、頭に中身などあろうはずもない。いや待てよ。奴は、頭の中身とは言ってなかったな。たしか、額の意味がどうのこうのと。意味ってなんだ。これになんの意味があるっていうんだ。
額の傷のかさぶたがむず痒くなってきた頃、急に視力が良くなったかのように、何となく視界がひらけているのに気が付いた。不思議なことに、額を触ってみると、視野が通常に戻る。それで、また手を離すとよく見えるのだ。これは、一体全体どうなってるんだ。
あのジジィ、何か小細工をやりやがったか。敵の声を聴け、だと?ふざけるな!敵に出くわしたら、すぐさまブッ飛ばすまでだ。いっ、たたた。額の傷が疼くぜ。やっかいなことになったもんだ。まったく。